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公爵令嬢は親友の為に悪役令嬢を演じますっ!  作者: 濃厚圧縮珈琲
第二章 10歳の王子と公爵令嬢
23/35

変わらない日々

 初めての脱走から、数日が過ぎた。


 王城は相変わらず静かで、朝の鐘も、訓練場の掛け声も、何ひとつ変わらない。


 ……変わったのは多分、僕達だけだった。


 剣を握る手が軽い。

 呪文を唱える声も、以前より澱みがない。


 教師は首を傾げながらも、成績表を見て目を細めた。


「素晴らしい成績ですね、殿下!何か一皮剥けられたようにも見えますな」


 そう言われるたび、僕は曖昧に笑うしかなかった。

 理由を聞かれても、何も答えようがない。


 胸の奥に、言葉にならない何かがあって。

 それが時々、ふっと背中を押してくれる。


 ――頑張ろう。


 そんな気持ちが、自然と湧いてくるのだ。


 父上も母上も、教師らからの報告を受け、最初は少し不思議そうな顔をしていた。

 でも、成績が落ちるどころか伸びていると分かると、

 その疑念は、すぐに安堵へと変わっていった。


 王子が無事に優秀に成長する。

 それはとても喜ばしいことだ。


 そう判断されれば、それ以上深く探られることはない。

 むしろ今の調子で頑張りなさいと、別の事に意識を割いてくれる。


 クラリスも、同じだった。


 王妃教育は日々厳しさを増しているはずなのに、彼女はそれらを見事にこなしていた。

 立ち居振る舞いはより洗練され、言葉遣いも、笑みの角度一つ取っても教科書通りの美しさを見せた。


 誰が見ても、将来の王妃として不足のない姿だった。



 だが時折、廊下ですれ違う時やお茶会などのふとした拍子に、僕の方を見て小さく目を細め、あのいたずらな笑みを見せる。


 ——また、やりましょう?


 脱走の誘いの笑みだった。


 ルイスもまた、黙々と努力を重ねていた。


 剣の腕はさらに磨かれ、魔法の精度も、いつの間にか僕と並びかけている。


 そして――あの、柔らかい笑み。


 侍女や使用人と話す時、自然に浮かべるその表情は、以前よりずっと洗練されていた。


 「……すごいな」


 思わずそう呟くと、ルイスは少し困ったように笑った。


 「はは……計画に必要だっただけだよ、兄上」


 それ以上は、何も言わない。



 三人共、以前より前へ前へと順調に成功の道を進んでいた。


 重ねた努力は報われ、結果もそれに伴い良い成績として現れ、周囲は満足している。



 だからきっと――この日々は、王子として、未来の王妃として正しいのだ。




 そうだとしても、夜——眠りにつく前の僅かな時間の中。

 胸の奥で、パチパチと音を立てて火が大きくなるように、

 日を重ねるたび、この気持ちは確かに育っていた。


 城を抜け出すという大きな危険を冒した先にある……あの笑顔が見たいという願いが、眠りにつく前の僕の脳裏を満たしていく。


 


 それを振り払うように、僕は枕へ顔を埋めて眠る。



 何も変わらなぬ、順調な毎日。

 そう誰もが信じている日々の中で、僕は再び脱走計画を企てるのだった。




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