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米独・終わらない冷戦 〜東側最強の暗殺者、裏世界を駆る〜  作者: イチジク浣腸


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5/5

救出作戦

 ゲルマニア市内。午前5時30分。

 陸坤、イレーヌ、シュタインベルクの三人は、市内中心部から3キロ離れた工業地区に潜んでいた。廃工場の影に身を隠し、保護施設への侵入計画を練っている。


「保護施設は、ここから北に2キロ」


 イレーヌは小型タブレットを取り出し、施設の配置図を表示した。


「正式名称は『帝国福祉保護施設第7号』。表向きは、戦災孤児や高齢者を保護する福祉施設。だが実際は——」


「人質収容所、か」

 陸坤が言葉を継いだ。


「ええ」

 イレーヌは頷いた。


「帝国保安本部が、科学者や技術者の家族を『保護』という名目で収容している。協力を強制するための人質ですね」


 シュタインベルクは苦い表情で呟いた。

「15年間…妻と娘は、そこに閉じ込められていた」


 陸坤は配置図を見た。

 施設は四階建て。周囲を高い壁が囲んでいる。正門には警備員が常駐し、敷地内には監視カメラが複数設置されている。


「警備体制は?」


「親衛隊員が12人。交代制で24時間警備。さらに、施設内には看守が8人」

 イレーヌが答えた。


「武装は、MP7短機関銃とグロック17拳銃」


「厳重だな」


「それだけじゃありません。」


 イレーヌは画面をスワイプした。


「施設の地下には、緊急時の脱出用トンネルがあります。ですが——」

 彼女は声を落とした。


「そのトンネルは、保安本部に直結しています。」

 陸坤は眉をひそめた。


「なっ...つまり、下手に動けば保安本部から増援が来る、と」


「その通り」

 シュタインベルクが口を開いた。


「妻と娘は、三階の東側の部屋にいる。部屋番号は302。私が月に一度訪問する時、必ずその部屋だった」


「鍵は?」


「電子ロック。看守が持つキーカードでしか開かない」


 陸坤は考え込んだ。

 正面から突入すれば、すぐに増援が来る。時間がない。


「…裏口は?」


「あります」

 イレーヌが別の図面を表示した。


「施設の西側、厨房の搬入口。ここは警備が手薄だ。朝6時に食材業者が搬入に来る。その隙に——」


「紛れ込む、か」


 陸坤は時計を確認した。午前5時35分。搬入まで、あと25分。


「悪くない。だが——」

 陸坤はイレーヌを見た。


「あんた一人で、12人の親衛隊員と8人の看守を相手にできるのか?」


 イレーヌは沈黙した。

 陸坤は彼女の迷いを見抜いた。


「…やはりな。あんた、実戦経験が浅い」


「それは——」


「否定しなくていい」

 陸坤は遮った。


「研究施設での動きで分かった。あんたは訓練は受けているが、人を殺すことにあまり慣れていない」


 イレーヌは唇を噛んだ。

「私は…イギリスの工作員です。訓練は受けました。ですが——」


 彼女は視線を逸らした。

「このような実戦は…7回目です」


 陸坤は長い息を吐いた。

「7回か。論外だ」


 シュタインベルクが二人を見た。

「では…どうする?計画を変更するのかな?」


 陸坤は首を振った。

「いや。計画は変えない。ただ——」

 彼はイレーヌを見た。


「あんたは、俺の指示に従え。勝手な行動はするな」

 イレーヌは数秒、陸坤を見つめた。


 そして——頷いた。


「…分かりました」


「よし……」


 陸坤は自分に言い聞かせるよう呟くと、椅子を蹴って立ち上がった。


「準備を始めよう。博士、時間は多くない」


「分かっている」

 シュタインベルクが強く応じた。その瞳には、家族を想う父親としての覚悟が宿っている。


「妻と娘を救わねば……。私が顔を見せなければ、彼女たちは怯えて動けないはずだ」


 確かにその通りだ。

 素性の知れない東洋人の男とイギリス人の女が「救出だ」と叫んだところで、彼女たちには新たな脅威にしか映らないだろう。


 陸坤は博士の肩を軽く叩いた。


  「……俺たちが盾になる。あんたは家族を連れて脱出することだけを考えろ。いいな?」


「ああ。了解したよ」

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