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第5話『違法作業の代償・突然の来訪者』

 神奈川県警察本部警備部公安第一課では夜にもかかわらず苛烈な取り調べが行われていた。

「だから、僕はやってない!」

 ダァン!! と取り調べ室の机が叩かれた。

「嘘つけ! パソコンから犯行予告を送信した形跡と、横浜ランドマークタワーの起爆の仕掛けの資料が見つかったぞ!」

 取り調べは膠着状態だ。

 ひとりの巡査部長が入室する。

「警部、この事件の件で先程警察庁からお電話がありました。本部長がお出になりましたが」

 本部長とは神奈川県警察本部長を意味する。キャリアの警視監がその席につく。

「あとにしろ──え? 警察庁? 警視庁ではないのか?」

 警察庁は国の省庁としての警察で、警視庁は東京都警だ。

 国の省庁から直々に電話がかかってきた。何の用件だろうか。

 警部は取り調べ室から出て、部下に訊ねる。

「警察庁は何と言っていた」

「長官自らお電話なされて、上層部で色々あった結果、容疑者不詳の公安事件として立件すると」

「だが証拠は公安が掴んでいたじゃないか!」

「それが……警視庁公安部の千代田警部が言っていた通り、第三者がティランのパソコンを中継点にしたのだと本部長はおっしゃっていました」

「クソ、俺たちは踊らされていただけじゃないか!」


 ……明け方になり、ティランの私物と衣服が返却された。

「釈放だ!」

「エ!」

「もう疑われることをするんじゃないぞ」

「ソレ、違うでしょう!?」

 ティランは怒りを爆発させた。

「謝れ! 人を悪人扱いして!!」

「まあまあ」

「謝れ! 謝れ! 謝れ!」

 神奈川県警は大勢で寄ってたかってへらへらとなだめるだけだった……


      *    *

 

 釈放されたティランがまず向かったのは、もうすぐ義父になるキオブの会社だった。

 壁や玄関を見ると、色々とイタズラ書きをされている。

 気になったのは敷地内に花が供えられていたことだ。

 バケツを持ってしゃがんで落書きの跡を消すキオブの後ろ姿に、ティランは声をかけた。

「ただいま戻りました」

 キオブは腰を抜かした。

「おお! おお! よく戻ってきた!」

 ティランの目はくちゃくちゃになっていて、泣き腫らしていたようだ。

 キオブはティランを中に入れ、コーヒーを出した。

 コーヒーカップを持ち、ティランは問うた。

「プロタはどこに?」

「……死んだよ」

 ──派手な音を立ててコーヒーカップが砕け散り、熱いコーヒーが飛び散った。


      *     *


 世論の風向きは一気にティランへの同情に傾いた。


『速報です! 神奈川県警への取材によりますと、横浜ランドマークタワー爆破テロの真犯人は別にいることがわかりました』

『ティランさんは釈放されました。国賠訴訟を求めるものと思われます』

『警察の捜査手法はレイシャルプロファイリング(警察による外国人差別)として市民団体の批判を浴びています』

『市民団体が県警本部を取り囲み、抗議デモを開いています』


 キオブの会社に献花台が設置され、プロタの死を悼み、皆が献花する。世論のバッシングで死んだというのに今度は世論が献花しようと呼びかけ、キオブはやるせない怒りを感じていた。

   

 この日、キオブの建設会社に、偉そうに一台の黒塗りのワンボックスカーが乗り付けてきた。

 車内から現れた人物に皆は驚く。

 民自党幹事長、野村一郎衆議院議員だった。

 献花する様子だ。

 キオブは訝しげな視線を向けたが、野村は花を手向けると、深々と頭を下げ、一向に頭を上げない。

 キオブは幹事長に近寄った。与党幹事長を警護するSPが制しようとするが、幹事長は構わず、というより申し訳なさそうにキオブを近寄らせた。

「到底許されることではないでしょうが、国家権力側の人間としてお詫びさせてください、キオブさん、まことに申し訳ありませんでした!」

 建設会社社長に民自党幹事長が頭を最大限に下げている!

「や、やめてください、とにかく中へ」

 中へ招き入れられようとする幹事長は一瞬だけ笑みを浮かべた。


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