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第4話『内閣総理大臣畠山正晴・民自党と警察庁』

 畠山正晴内閣総理大臣は、息子桜祐警部の婚約者を見定めるために、一流ホテルで千代田春を交えてささやかな食事会を催していた。

 この場には記者も排除され最低限のSPしかいない。

「本日のメインディッシュです」

 肉の煮込みに野菜が添えられ、こだわりのソースがかけられたメインディッシュが三人のもとに供される。

 ナイフとフォークで肉を切る畠山。

「ここのホテルの料理は絶品だな」

「恐縮です」

 支配人が胸に手を当てて下がる。

「ねえ父さん、横浜の公安違法作業の件なんだけど」

 畠山総理大臣のナイフとフォークを動かす手が止まり、険しい面持ちとなる。

 千代田春も心配そうな面持ちで桜祐を見やった。

「その話、今はよさないか……? 今日はお前の婚約者を見定める日だ」

「どうしても気になるんだ」

「そうか」

 畠山総理は水を一口含み、ため息をついた。

「父さんは知っているんだね?」

「ああ、知っている」

「なら話が早い。横浜ランドマークタワー改築工事現場では被疑者が職場のパソコンから過剰な電圧を操作し、プロパンガスを充満させて爆発させた。そして、警察庁ホームページ宛に、被疑者のパソコンから犯行予告が送られた。ということになってるけど、実際は警察庁警備局警備企画課の課長補佐、前田武警視が被疑者のパソコンを中継点にして遠隔操作したんでしょ」

「正、どこから知った?」

 畠山総理大臣は鋭い目つきで息子を睨みつけた。畠山正晴は息子を正と呼ぶ。

「話をどこから知ったのかではなくて、話が正しいかどうか聞いているんだけど」

 桜佑も負けじと言う。

「さっきからの父さんの問答、知っているも同然だよ」

「だから知っていると言っているのだがな」

「喧嘩はやめようよ」

 千代田春に仲裁され、ふたりははじめて支配人、料理人がこちらを心配そうに見ているのに気づいた。

「仕事の話になってしまった」

 畠山は苦笑いで釈明した。

 同じく苦笑いとなった給仕がデザートを運んできた。果物を添えたアイスクリームだ。

 畠山正晴はつとめて平静を装い、今度は小声で話し始める。

「さて、どこから話せばいいものか」

 祐は自分なりに推理を打ちあける。

「民自党の野村一郎幹事長は、安い労働力を動員したい経済団体の要請を受けて、グローバル人材活用法案を党政務調査会にゴリ押しした。父さんは総理大臣として反対しまけど、結局党政務調査会と総務会が決定し内閣を通さず直接国会に提出して決定されてしまった」

「そうだ」

「警察庁小野田長官は法案は再審議すると言う形で納得したものの、移民政策は治安の懸念から取りやめたい。そこで警察庁警備局警備企課のゼロを使って自作自演のテロを起こしたんだね」

「それを明らかにして、お前、どうするつもりだ? まさか警察庁を告発するのか? ならば警察組織はお前を情報漏洩で逮捕するぞ」

 恫喝されても桜警部は屈しない。

「お互い物騒なことにはしないつもりだよ。ただ、警察庁はグローバル人材活用法案を霞ヶ関のやり方で骨抜きにしたいんでしょ? それはそれでいいんだけど、被疑者、いやティランさんはあくまで第三者にパソコンを中継点にされたことのみをマスコミに明らかにして不起訴、釈放する。その第三者は不明ということにしておいて被疑者不詳で立件。そうすれば移民のせいじゃないとわかって法案推進派の野村幹事長の立場もよくなる。民自党と警察庁は、グローバル人材活用法案を警察庁主導で改正することを合意できれば……」

「よく考えたな、やはりわしの後を継いで政治家にならんか?」

「やめとく!」

「そうか、とにかくそれしかなさそうだな、尽力しよう」

 プライベートな食事会は結局仕事の話になってしまった。


       *     *


 翌日。

 東京都千代田区永田町──首相官邸。


 官邸5階内閣総理大臣執務室には、畠山正晴内閣総理大臣、野村一郎幹事長、小野田警察庁長官、加えて内閣総理大臣と警察庁長官を取り持つ関係の国家公安委員長もいた。

「早速ですが──」

 畠山総理大臣は前置きもなく切り出そうとする。

「まあまあ待て待て総理、警察庁長官まで呼んで何の用だ」

 野村一郎。

 民自党幹事長であり、畠山総理大臣よりも一回り年上の政界のドンだ。運輸大臣、経済産業大臣、党総務会長、選挙対策委員長を歴任した80歳。

 経済界に押されグローバル人材活用法案を推進する立場である。

 畠山は野村には逆らえない。警察官僚出身で党内基盤の弱い畠山に票を取りまとめたのが野村だからだ。

 畠山に代わって、小野田長官が話をする。

「いやね、早い話が、例のグローバル人材活用法案を警察庁主導で改正することを認めてもらい、民自党の政務調査会を抑えてほしいんですよ」

 野村はゆったりとソファーにもたれかかった。

「改正による骨抜き、それが落とし所か?」

「私は何も法案を消すとは言っていないですよ」

 畠山総理大臣が念を押した。

 野村幹事長は身を前に乗り出した。

「わかった、民自党内は抑える。だがな、少子高齢化の日本には外国人材が必要なんだ」


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