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第1話『グローバル人材活用法案・横浜に集結せよ』

移民問題をテーマにしたサスペンス小説です。お楽しみください。関連作がありますが単体でもお楽しみいただけるかと思います。

 東京都千代田区霞ヶ関──

 警察組織の権威を象徴するかのように警察庁庁舎がそびえ立つ。

 警察庁長官執務室において、警察官僚が長官を取り囲んで、新しい法案の改正案を見直していた。

 警察庁警備企画課課長補佐の鞄持ちとして直属の上司たる課長補佐に随行するのは、同じく警備企画課企画第一係長の桜祐警部である。

 警部と言えど、桜祐はまだ25歳であった。キャリア警察官僚というものだ。

 今時のイケメンの容姿をしており、物腰の柔らかい彼は東大法学部卒業のエリートだ。

 彼らが審議する法案とは──グローバル人材活用法案。

 天下の悪法としてその名を轟かす本法案は、少子高齢化、労働力人口の低下に伴い、外国人材を安くこき使う事実上の移民政策である。

 民自党の故黒部新造内閣総理大臣の政権時にアメリカ合衆国からの政治的圧力により閣議決定された本法案。

 警察官僚出身の畠山正晴が内閣総理大臣となり2年経ち、カミソリ畠山として知られる危機管理のプロフェッショナルの彼がグローバル人材活用法案を封殺していたものの、安い労働力が欲しい経済団体の支援を受ける民自党幹事長、野村一郎の政治圧力と倒閣運動まがいの脅しに屈した。

 畠山総理大臣は、一旦民自党政務調査会に国会に上程させたのちに内閣が改正案を審議するという落とし所で、野村一郎ら推進派を納得させたのである。

 警察庁はグローバル人材活用法案に対し、不法移民が日本に住み着き犯罪を犯す懸念から、反対の立場を取っている。それは法務省も同様であった。

 小野田公現警察庁長官はゆったりと上座に構え、警察庁警備企画課課長補佐前田武警視にグローバル人材活用法案改正案についての文書の提出を促した。

 前田警視の鞄持ちの桜祐警部が代わりに書類を鞄から取り出し、前田がそれを受け取り、小野田に手渡す。

「よくできているね。これは桜警部が起草したのかい?」

 真面目で誠実そうな前田警視とは対照的に、小野田長官は飄々とした初老の男だ。のっぺりとした顔に笑みを浮かべる。

「はい」

「さすが畠山総理のご子息だね」

 桜祐の正体は過去の公安捜査で死亡扱いとなった畠山正警部補である。畠山正晴内閣総理大臣の息子だ。

「ところで、横浜の『作業』はどうなっているのかい」

 公安警察では活動を作業と呼ぶ。

「横浜?」

 そう言うと、前田警視が桜警部を肘で突いた。

「知らないならいいんだ。深入りするな」 

 前田警視は小野田から書類を受け取る。

 そこに横浜ランドマークタワーの見取り図があったのを桜警部は見逃さなかった。


      *     *


 横浜の近代的な街並みにはランドマークタワーが高くそびえ、観光地に来たことを実感させる。

 桜警部が私服のパーカー姿で広場の前で時計をチラチラ見ながら誰かを待っている。

「待った?」

「ううん、今来たところですよ」

 来たのは、千代田春。警視庁公安部公安総務課の警部である。警部と言っても春もまだ若く27歳だ。ただし祐とは違ってサイバー捜査員として巡査部長として警察人生を始めた。

 もちろん任務ではない。彼らは恋仲であり、これはデートだ。

「でもなんで横浜なの?」

「長官が、横浜での作業がどうとか言ってたので」

 任務かデートなのかわからなくなってきた。警察官に純粋な休日はないのだろうか。

 祐は横浜ランドマークタワーをのけぞりながら見上げる。

「あの時、課長補佐の手元の資料には横浜ランドマークタワーが描かれていました」

 春は場の空気を変えようとする。

「そんなことよりさ! お肉の串焼きの屋台あるみたいだよ」

「まじすか」

 花より団子だ。


       *     *


 屋台では、肉の串焼きに塩胡椒がかけられ、香ばしい匂いが漂う。

 行列に並びかけたところで、外国人のカップルが仲良さそうに彼らもまた行列に並びかける。

「お先にどうぞ」

「イヤイヤ、お先にドウゾ」

 微笑ましい光景が繰り広げられる。

 桜警部は顔では笑いつつも彼らを公安の嗅覚で見定めていた。

「(パルタ人のカップル。作業服とOLの制服を着ているということは、建設業の職人と事務員のカップルだろう。建設業といえばグローバル人材活用法案での実習を受けた外国人人材かな)」

 パルタ人。警察、軍隊、肉体労働などの仕事を請け負ってきた世界各地を旅する民族である。

「お仕事のお昼休みですか?」

 桜警部は当たり障りのない質問をしてみる。

「ハイ! 私たち同じ会社で働いているんデス」

 そのうちに順番がやってきて、彼らとは別れた。

「横浜ランドマークタワーでの公安の作業ってなんなんだろうね」

 串焼きを咥えながら春はそう言った。

 祐も串焼きの肉を一口食いちぎった──その時だった! 

 横浜ランドマークタワーの壁から爆炎が膨らみ、次いで衝撃波が襲った。 

 地上にパラパラと燃えかすが落ちてくる。

「……事件!!」

 桜祐と千代田春は警察官としての立場を自覚し、本能的に最善の行動を取り始めた。


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