厄介事は押し付けるに限ります
「・・・やっぱり通報した方が良いんじゃないでしょうか?」
「楓ちゃん、気持ちは解るけど落ち着いて。それやったら私達も一緒に逮捕されるわよ」
「いや、ホントすいません」
床に正座して頭を下げる、即ち土下座をしながら俺は事態の解決策を必死に考えていた。エリアボスを押し付けられた恨みとまさかの勝利で上がったテンションのままその場に残されたアイテムを臨時報酬最高!!とかっぱらって来た結果まさかこんな厄介事になるとは思ってもみなかった。
「諦めて出頭するしか無いんじゃないですか?一応実績のある解放者だし悪いようにはされないと思いますけど」
「嫌だ!絶対に御免被る!!」
「好待遇間違い無しなのにその拒絶反応はどうなってるんですか・・・?」
現在暴走している戦時体制システムに万が一の事があった際の対策システム。それに選ばれたのが解放者という人間達である。
戦時中の数少ない娯楽として多くの国民はVRMMOゲームで遊んでおり、そのデータを参照にシステムが選んだのが解放者。現状、日本国内に5万人がいるとされているが実際は俺のように未登録のモグリもいるため実数は不明。
選出の基準も判明しておらず、政府は兎に角好待遇を餌に彼等を管理・運用するしか無かった。
国に登録するメリットは多いが、勿論デメリットも多少はある。その数少ないデメリットを許容出来ない俺のような奴が案外いるのだ。
「だってどう考えてもアウトでしょうが!国付き解放者の求人広告見たか!?『アットホームな職場』とか『やりがいのある仕事』とか『高収入』『出会いのある職場』『社宅無料』って、色々と露骨過ぎてアヤシ過ぎるわ!!」
「いやそれは大袈裟じゃないですか?」
「ならあれ見ろ!!」
ビシッと指差した先にあるのはテレビ。
今映っているのは一昨日、告知無しでエリアボス戦を行った挙げ句多くの犠牲者を出した例のクランの連中がマスコミから突き上げを喰らっている様子だ。
だが、注目すべきはそこじゃ無い。
「あいつらの目とか服装とかよく見ろ!死んだ魚の目してるぞ!?濃すぎる隈も浮かんでるし顔色は青い通り越して白いし服なんてセールで売ってる1着数千円位の着すぎて擦り切れたり解れ始めてるヨレヨレの服だぞ!?俺と同じくらいの歳なのに円形脱毛症やザビエルヘアーになってる奴もいるじゃねえか!!」
「いや、最後おかしく無いですか?」
「シャラップ!!兎に角どう考えてもヤバいだろうが!!」
「ま、まぁそれは確かに?」
告知なしでエリアボス戦を行うなどハッキリ言って正気では無い。現にあの時も戦っていた解放者達の殆どは死んだ目をしていた。
恐らく、誰か逆らえない相手から無茶振りされたのだろう。
エリア解放は政治的にも大きな影響がある。野心のある政治家が便宜を図って親しくしているクランのリーダーにそれとなく声を掛け、そのリーダーがメンバーに無茶振りをさせたという流れが容易に想像出来る。
現に、今流れているニュースではクランのリーダーは謝罪こそしている物の自分は把握しておらず一部のメンバーの暴走だと尻尾切りに走っている。
千葉解放を大幅に遅らせた例の騒動も原因は似たような物だったらしいのだから笑えない。
それを伝えると流石に楓は国付きになることを良いことだとは思えなくなったようだ。
「けどそれならどうするんですか?出頭するしないに関わらずデータがここにあることはその内バレますよ。私達もただでは済まないでしょうが、詠一さんの場合先程言っていた野心のある政治家に無理矢理飼われる可能性高いですよね」
「そうなのよね。私達は開放的じゃないからお金で何とかなるかもしれ無いけど、詠一君の場合はそうもいかないわよね」
「いえ、大丈夫です。良いこと思い付きました」
ニュースでムカつく顔を見ているうちに気付いた。
そもそも俺がこんな厄介事抱える羽目になったの、このアホリーダーのせいじゃねと。
エリアボスの討伐なんて全く興味無かったにも関わらずこいつが甘い蜜を吸うために俺は仕方なく戦闘に巻き込まれたのだ。
更に言えば、偶々勝てたから良かったもののこれが負けていたら俺もまたアイテムをその場で失っていた。
期限までに納品出来なければ違約金を払うことになるし何より信用されないことになる。モグリにとって信用されないということは斡旋される仕事が減り収入が少なくなるということだ。
つまりこいつは俺の生活も脅かしやがったのである。
「クククク・・・首を洗って待ってろよクソ野郎」
「えーと、詠一さん?もしかしなくてもですけど、こちらの厄ネタはその男に押し付けるつもりでしょうか?」
「当然だ。そもそもの原因はこいつ何だからな」
「・・・それ、クランリーダーが犯罪者にされた挙げ句クランメンバー全員に影響が出るんじゃないかしら?」
「何と言われようと、どんな事情があろうと俺にエリアボス嗾けやがったという事実は変わらないんですよあゆむさん。この世は弱肉強食、慈悲は無い」
「「えぇ・・・」」
ドン引きする島崎親子を尻目に俺はクソ野郎に全てを押し付ける為の計画を考案するのであった。