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revival world  作者:
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西暦2374年


『本日のニュースです。2日前に突如起きた群馬県の主要生産施設並びに交通機関の解放について政府は正式に群馬エリアのボスが何者かによって討伐されたと発表致しました。当時、とあるクランがエリアボス討伐に挑戦していたとの事ですが彼等は討伐した証を所有しておらず、討伐者は不明との事です。なお、挑戦していたクランは未報告で討伐戦を行っており多数の解放者に被害が及んだとの事で政府は彼等に対して───』

「うわ、予想はしてたけどエラいことになってんな」


 寝起きの牛乳を呷りながら何となく見たニュース番組。そこには警察に連行される集団と群馬県から電車やバスで新宿・渋谷等の都心に雪崩れ込んで来た人達が映し出されていた。

 それ以外にも、群馬県のとある町では今まで手に入れる事が出来なかった自県の特産品や久し振りの真面な食事に涙する人々も映っている。

 まぁそれも仕方が無い。何せ数年ぶりの真面な食事と外出だ。千葉県が解放された時は1部の県民があの有名な某激甘練乳コーヒーを狂ったように求めていたが絵面が酷すぎて正直ドン引きした。

 試しに1本取り寄せて飲んでみたが、あまりの甘さに1度では飲みきれず数日に分けてようやく飲みきったのである。


『───あの世界大戦の終戦から8年。防衛都市計画により人的被害こそ避けられた我が国でしたが、依然として解放されていない地区は多く政府は解放者の資格を持つ国民に対して改めて協力を要望しています。また、我が国同様に防衛都市計画を実施した他国も地区の解放が進んでおらず実施していない国とは現在も連絡が取れない状況です』


 ニュースキャスターの言う世界大戦とは、第二次以来数百年ぶりに勃発した戦争だ。資源の枯渇や経済格差等理由は色々とあるが兎に角気が付けば開戦は避けられない状況となっていた。

 とはいえ、日本を含めた先進国は元々コンパクトシティ計画を300年以上前から進め国防も大部分を自動操縦の兵器に置き換えていたので戦時中の戦死者はまさかの一桁。

 戦時中は兵器を動かす為に電力などをそちらに優先して使用した為、娯楽製品の生産施設は稼働を停止して全国民へ配給する為の保存食やサプリメントのみ作られるという事態になったが発展途上国と比べると遥かにマシだった。

 

 食糧不足もそうだが、何より戦力の大部分が人の手による物だったからである。数百年の間に銃や防具等装備の性能は格段に上がったが、いくら良い装備を身に付けていたとしても人間。

 同様に数百年掛けて性能が上がった戦車に人間が突撃しても叶うわけが無かった。何より戦車は今や自動操縦で中に人を乗せていない。寧ろ、鹵獲される危険を避ける為に運転室は作られておらずその分弾薬や燃料を多く詰め込める構造になっている。

 長時間戦闘が可能な疲れ知らずの兵器に機械ならざる人間が勝てる訳が無かった。


 結果、発展途上国の軍隊は軒並み壊滅情態に陥り政府機関も崩壊。通信設備が完全に破壊されたのかそれらの国とは連絡を取ることが出来ず今どうなっているのか誰も解らない状態だ。

 なら直接人を差し向ければ良いのではという声も上がったが先進国は先進国で問題が勃発した為それが出来ない。

 インフラ、生産施設、兵器の運用等々をシステム化していた為各国は当然のようにセキュリティに力を注いでいたのだがそれが仇となったのである。

 戦争という非常事態時に作動するシステムもAIに運用を任せていたのだが終戦後もそれが解除されなかったのだ。










「その結果俺達はディストピア飯を食い続ける羽目になり、自国のセキュリティシステムを自分達で攻略するようになりましたと」


 場所は変わり、不本意ながら行きつけの定食屋擬きで俺は目の前にある見慣れた食事を箸でつついていた。

 見た目こそ慣れた物ではあるが味は食べ慣れたそれよりマシである。但し、真面な食事が流通する今となっては進んで食べようとは思えず俺以外の客もいない。


「文句は言ってないでさっさと食べて下さい詠一さん。食べるだけで換金の手間賃をタダにしてあげてるんですから」

「いや別に手間賃程度なら払うって毎回言ってるでしょうが!在庫処分の為に来る度来る度有無を言わせずに出してるのはそっちだろ!?」

「文句を言うなら換金しませんよ?最も、モグリの貴方が他の換金場所を見つけられるとは思いませんが」

「うぐっ(こいつ、嫌なところを突いてきやがる!)」


 だがやはりどうしても箸が進まない。

 何せ目の前にあるのはこの数年間国民の飢えを防ぎ続けた保存食料、別名ディストピア飯である。

 ペースト状の何かを3種類、乾パン、ビタミン補給用の蛍光色ジャム、そして顎を衰えさせ無い為のデザートとしてフルーツガム。

 数百年前のアニメや漫画で出てきた創作上にしかない筈のそれである。


「あくまで見た目だけでしょう?あれとは違ってうちのはちゃんと味も付いてますし材料も合成物じゃなくて天然の物をそれっぽく加工しただけです」

「それはそうだけどよ、やっぱり見た目っていうのは重要だぜ?」


 げんなりとして言う俺、財部詠一(たからべ えいいち)に対してやれやれと溜息をつきながら彼女、島崎楓(しまざき かえで)は冷蔵庫から取り出した牛乳をコップに注いで差し出した。

 これでグイッと流し込めと暗に言っている。

 さっさと片付けたいんだから良いから食えやという意思をひしひしと感じた。


 仕方ないと諦め、無心で胃袋にディストピア飯擬きを流し込む作業に没頭する。やはり味は悪くないのだが如何せん見た目と食感は本物と変わらず、何なら匂いまで同じなのでどうしてもげんなりとしてしまう。

 17歳の胃袋にはまだ余裕があるので後で駅前のバーガーショップへ口直しに行こうと決意した。


「私なんて毎日これ食べてるんですからね?埼玉県が解放されるまでは御馳走でしたけど美味しい物が戻ってきた今じゃ苦行ですよ」

「それには同情するよ、マジで」

「お母さんに商才があった事は認めますけど、作り過ぎなんですよ!」

「あはは、ごめんなさいね?」



 うがーっと両手を上げて怒る楓。そんな彼女とよく似たおっとりとした女性が店の奥から姿を現した。

 

「換金終わったんですか、あゆむさん?」

「ええ、凄い金額になったわよ」

「そんなに稼いだの?」


 母の少し引き攣った顔を見て楓は俺が何かヤバい物を持ち込んだのだと悟ったらしい。元々はあゆむさん経由で受けた【雷水晶】の納品予定だったから驚くのも無理は無い。

 だがそれ以外に手に入った物が物なので隠し持ち続ける訳にはいかず、換金を依頼するしかなかったのである。

 そもそも手に入れようとして手に入れた物では無い。


 だから楓さん?その手に握りしめるフライパンを置いてくれませんかね。仮想空間ならまだしも現実でそれを頭に喰らったら下手すると死ぬんですが。

 

 

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