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問題幼児はお店がほしい②


 草臥れた頭んなかに『アンテナショップ』とやらの概要を叩き込まれた。


「つまりアンテナショップとやらは、物産市と展覧場を兼ねてる店ってわけだな」

「だいたいそんな感じー。来てくれたお客さんに宣伝したり買ってもらったりー、商人さんにも仕入れてもらうし」

「それだと、こないだ言ってた魔導ギアの転売云々は解決してねぇまんまだろうが」

「違うんだなー、これが」


 ベリルは、こっちがつづきを乞うまで口を開く気ぃなさそうだ。いや実はコイツ喋りたくてウズウズしてんだろ。

 俺ぁ疲れてんだ、いちいち勿体ぶらねぇでくれよな。ったく。


「ややこしそうだから、いいや、明日あたりタイタニオ殿に予定聞いて問屋の相談してみる」


 こうやって聞き流してやりゃあ、


「——ちょ! なんでなんでなーんーでーっ! なんで聞いてくんないのさーっ」


 ほれ釣れた。


「しかたねぇな。ほれ言ってみろ」

「やっぱ知りたいんじゃーん。ホーント、父ちゃんってば素直じゃないしー。えっとね」


 と、いらんお喋りを挟みつつベリルが説明した内容をまとめると、


「要するに、あらかじめ売価をこっちで決めといて、まとめて仕入れる商人たちには運び賃と利益を考えて安くしてやるってことだろ」

「そーそー、それっ。定価ってやつ。それに送料上乗せー、みたいな。あと買い占めしたり勝手に高く売った人には二度と売ってあげなーい」


 ということらしい。


 身体以外ぜんぶ疲れてるからか、ちっとも利点が腹落ちしねぇ。


「ヒスイ。わかるか?」

「仮にアンテナショップというお店を王都に開いたとしたら、魔導ギアの販売価格は維持できそうですね。地域差はあるでしょうけれど」

「どうしてそうなる?」

「はいはい! 父ちゃん、オレわかったかも」

「はい。イエーロくんっ」


 ベリルが偉ぶって指名する。


「運び賃とか考えても割高だったらさ、オレなら王都まで行って買うよ。だからズルして高くしたら売れない!」

「おおーう。兄ちゃんなのにまさかの正解だし」

「どんなもんだいっ」


 妹の言い草なんて気にもとめず、イエーロは得意げだ。カリカリいまの話を覚え書きに記してる。

 いちいち素直なんだよな、どっちも。

 長男はいい意味で。娘の方は逆の意味で。


「ついでにゆーと、激安競争とかなったらどーにもなんないけど、高く売るのは防げるはずだし」

「わざわざ安く売るのか?」

「隣のお店の方が安かったら、普通はそっちで買うでしょー」


 王都みてぇに店がわんさかある環境なぞ慣れとらんから、しっくりこねぇな。だが言ってることは理解できた。


「しっかし王都に店か……。いくらかかるか想像もつかねぇな」

「そーゆーのこそ、タイタニオどのに相談すればよくなーい。めちゃお金持ちそーだったしー」

「んじゃ、そうすっか。貸しもあるしな」


 悪ぃようにはされんだろ。


「ひひっ。貸し返してもらうんでしょー。父ちゃん、めっちゃ取り立て屋さん似合いそー」


 どういう意味だ。ったく。



 翌日、タイタニオ殿に予定を窺いにいったら、そのまま通された。どうやら茶会の顛末を知りたくて空けててくれたらしい。

 どうせ人伝に聞いてるだろうに。もしかしたら、なんかベリルがやらかしたときのことを心配してくれてたのかもな。


 となると、いきなり相談するわけにもいかず、


「でねでね、お妃さまめちゃ美人でーマジびっくりっ。あーしってば、はじめお姫さまと間違えちったしー」


 ってな具合に、頭っからベリルが好き勝手に喋り倒す。

 適宜、口を挟みつつ、大まかなところはぜんぶ伝えてった。


 ちなみに今日は奥方はおらず、応接間にはタイタニオ殿のみ。向かいに座るのは俺とベリルだ。


 ひととおりを聞き終えたタイタニオ殿は、


「ふむ……。なるほどな」


 セリフとは真逆の、考え込む姿勢。


「なんかヘンだったー?」

「いやすまん。ベリル嬢の策に驚いておったのだ」


 いちおう、ベリル曰く『節税』のカラクリに関してはボカした。

 内政を任されてる左大臣殿でさえ、あの場では隠された意図に気づいてなかったんだ。どうも新しい考え方らしいから、ここでも問題にされないだろう。


 と思ってたら、


「もしかしてタイタニオどの、気づいちった?」

「やはりか」


 バレてたみてぇだ。


「しかし疑問も残る」


 ちっとも会話についてけねぇんだが。


「丸っと話してもいーけどー、内緒にしてねー」

「もちろんだ」

「ぐっひっひっ。タイタニオどの、めちゃワルだし」

「フッフッフッ。ベリル嬢ほどではないさ」


 そっから問題幼児と大物貴族は影いっぱいの顔で、税金逃れについて語りはじめた。いや、正しくは認められた方法で左大臣殿を出し抜くって話か。

 つっても二人の顔つきみてると、ロクでもない悪巧みしてるようにしか見えねぇんだよなぁ。


「ふむ。こちらから先に申告書類を用意したうえで、複数の項目を設けるのか」

「そーそー。めちゃくちゃ細かく書いちゃうし。ぜんぶ確かめんのムリじゃーんってなるくらい」

「フフッ。左大臣殿の部下は泣くであろうな」

「いひっ。ぴぇーんってなるしっ」

「とはいえ、それでは何年もゴマカせんであろう。ベリル嬢のことだ、なにか他にも考えがあるのではないか?」

「やっぱしわかっちゃーう。ぐひっ。最初にいっぱい借金しちゃうし」


 ——はあ⁉︎ なに言ってんだコイツ。


「おいベリル。俺ぁ借金にいい思い出がねぇ。それだけは認められんぞ」


 うちが貧乏なのは、鉱山が潰れて借金しまくったからだ。おかげで実りのない禿山しか残っちゃいねぇ。


「ちっちっちっ。借金っつっても、貸すのはあーしだし」

「ほう。分割で返済するぶんを、翌年以降の経費として計上するつもりなのだな」

「そーゆーことっ。よかったらタイタニオ殿もひと口どーお?」

「必要なときがあれば声をかけさせてもらおう」


 まーた悪いこと考えてる感じだ。


「父ちゃん。とりあえずは、あーしの金貨三〇枚で借りられるお店を探してもらわなきゃ」

「店? 問屋と商いするのではなかったのか」

「アンテナショップ作るし」

「——おい。それはまだ決定してねぇだろっ」


 コイツ、俺の頭越しに話進めやがって。


「実は……、今日はそのへんも含めてタイタニオ殿に相談しようと伺いました」


 そっからアンテナショップについての概要を説明していく。ベリルに任しておくと長くなるから、俺がザックリと。


 頼んでた話をスッ飛ばして別の閃きを聞かせちまったわけだから、気を損ねかねん。怒りを買っても不思議じゃねぇ。

 だがタイタニオ殿は、


「では、よいところを紹介しよう」


 と、二つ返事で相談に乗ってくれた。まるで予定調和みてぇに。


 大丈夫か? さっき悪どいことをニタニタ話してるさまを見ちまったせいで、ちっと心配だ。



 そして善は急げと案内されたのは——


「こないだの仕立て屋さーん」


 だった。

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