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献上品と、そのご褒美④


「ほう。玄武というのか。力強い響きの銘であるな。して、どのような由来なのだ?」


 俺はベリルが適当こいただけだと思ってた。

 しかし違ったようだ。


「えっと、亀の神様にあやかりましたーっ。玄武の『玄』は黒って意味もありまーす。たしか、子孫繁栄とか長寿とかを司ってる縁起のいい神様だし——ですっ」

「この刀に相応しい銘であるな」

「ありがとーございまーす。王様に贈り物するんだって、うちのみんなと一生懸命作りましたーっ」

「そうかそうか。では、ありがたく頂戴しよう」


 一瞬ヒヤリとしちまったけど、なんとか受け取ってもらえたぜ。

 やらかしまくったベリルだが、いまのだけは大手柄だ。あとで飴でも買ってやろう。


「ではトルトゥーガよ。この献上品に対して褒美を与えよう。希望を申せ」


 …………え⁇ なんかくれんの?


 条件反射で、俺はポルタシオ将軍閣下の方を向いちまう。したら『え? なんで知らないの?』って表情を返された。

 んなもん知らねぇよ! だってうちは献上なんて無縁の貧乏貴族なんだぞ。知るわけねぇだろうがっ。

 

 ま、考えてみればありそうな話ではある。

 が、どう答えたらいいもんかわからん。


 クッ……。かなり勿体ねぇ気もするが、ここは辞退させてもらうに限るな。


「いえ。私としましては陛下に魔導ギアを受け取っていただけただけで、もう充分に——」

「よいよい。ここは謁見の場ではないのだ。二度断るなどと面倒なことをしなくてもよいぞ。遠慮なく申すがよい」


 遠慮させてくれってのが、目下の望みなんだがな。それを言っちゃあお終いか。


「はいはいはーい!」

「——おいベリル黙っとけ」

「あーしもトルトゥーガだしーぃ」


 さすがになに言い出すかわからんコイツの口を開かせるわけにはいかん。陛下の御前だろうが叱りつけてでも止めねぇと。


「いい加減に——」

「ホッホッホッ。トルトゥーガ殿。よいではないか。察するに、どうやら貴殿には望みがないようだ。ならばベリル嬢の希望を叶えていただけばよい」


 なーんて好々爺ヅラして左大臣殿は言うが、ベリルの本性を知ってる俺は焦っちまう。たぶん将軍閣下も。心中を共に分かち合えるだけで救われた気分だ。

 だがいまは、そんな呑気なこと思ってる場合じゃねぇ。


 が、遅かった。


「面白い。ではベリルよ、望みを申してみよ」


 これっぽっちも面白かねぇんだが……。

 ここにいる俺と将軍閣下以外は、ベリルが菓子だとか服だとか可愛げあるモン求めるとでも思ってんだろ。んなこと絶対ない。

 しかしな、とんでもないこと言いだす前に止めたかったけど、陛下が言えってんならもうどうしようもねぇか。

 あーあ。どうせムチャこくぞ。


「お願い三つ聞いてくださーい」


 ほれみたことか。


「おほほほほっ。ベリルは面白いことを申すのですね」

「まったくだ。だが、よいのか?」

「『叶えて』じゃなくって『聞いて』のまんまでイイのかってことですかー?」


 ベリルの問い返しに、陛下は「ほう」と感嘆の息を漏らす。


「そのとおりだ」

「まぁなんと。ベリル様は幼いのにとても聡いのですね」


 真っ先に反応してくれたお妃様は、ここに伺った初っ端からずっとベリルの失言やらをウヤムヤにしてくださってる。

 そして陛下と王女様は、ベリルの回答に興味津々な様子。これは他の面々もか。


 口を挟んでやりてぇとこだけど、これはベリルが陛下に聞かれたこと。言い淀むんならなんとかするが、そうじゃない以上は口を出せん。


 つうか、そもそも問題幼児(ベリル)はそんなもんが必要な玉じゃなかったな。


「ムリ言ってお願い叶えてもらったら、王様にも父ちゃんにも迷惑かかっちゃうし。なら聞くだけ聞いてもらってー、大丈夫そーなのだけ叶えてくれたら嬉しーし——でーす! だからダメって言われちゃうのも考えて、お願い三つにオマケしてくださーい」


 しばし沈黙があり、


「よかろう。では申してみよ」


 陛下はニッコリとベリルを促した。


「ええっと……」


 まさかこんだけやっといて考えなしとかじゃねぇだろうな? 頼むぞ。


「まずー、あーしとか父ちゃんたちの口の利き方とか、大目にみてほしーでーす。ちょっとの失礼だったら『田舎者だししゃーないなー』みたいな感じでー。うまーいこと無礼者ってならないよーにしてくれたら、めっちゃ嬉しーでーす」


「「「…………」」」


 たぶん半々だ。

 きっと、ここにいる全員の心中は『え? そんなこと?』と『ムチャ言うのも大概にしとけ』ってのが、どっちも。俺だってそうだ。


 しばらく沈黙はつづく。

 それから陛下は一言「よいぞ」と認めた。

 

「しかし陛下——」

「構わん。右大臣よ、わかっておる。よいかベリル、公の場や口うるさそうな貴族がいる場所では充分に注意を払うのだぞ。この条件を守れるのなら、トルトゥーガの者の振る舞いについては厳しく咎めたりしないと約束しよう」

「うっは、マジぃ! 絶対ムリかと思ってたしー。王様めちゃ優し〜いっ。つーかこれって『カブキ御免状』みたいじゃーん!」


 いいと言われた途端に本性をブチ撒けやがってからに。

 あぁあぁ〜見てみろ。真面目そうな右大臣殿が渋い顔しちまってんぞ。

 あとの左大臣殿やボロウン殿あたりは、年の功なのか顔には出してない。が、表情なし。

 んで、将軍閣下はなぜか陛下に「申したとおりでございましょう」と弱り顔だ。


 で、俺はというと、


「では、さっそく失礼して……」


 許可も得たことだし、遠慮なく。


「おいベリルテメェ。たったいま陛下が認めてくださったのは嘗めたマネしてもいいって意味じゃねぇかんな。そこんとこ履き違えんなよ」

「わかってるってー。あっ、右大臣さーん。いまの一筆したためといてねー」

「——だから嘗めたマネすんなっつってんだろ!」

「嘗めてねーしーっ。大事なことだから文章に残すんじゃーん。つーかさー父ちゃん、これって王様が認めてくれたことだって忘れてなーい。ひひっ。知っらないの〜? 王様の言うことはゼッターイ」


 クッ。そう言われるとなんも言い返せねぇ。

 ベリルめ、いまにもベロ出しそうな意地くそ悪ぃツラで煽りやがってからに。


「ガッハッハッ。よかったではないか。のう、トルトゥーガ殿。しかし仲良し親子もよいが、まだ望みを告げている途中であろう。陛下を待たせてはいかんぞ」


 快活に笑い、将軍閣下が執りなしてくれた。


「ベリルよ、次の望みを聞く前に一つ。先の『カブキ』とは聞き慣れぬ言葉だ」

「んっとー、カブくってゆーのはー、派手なカッコーしたり変わったことが大好きな人っ。みたいなっ」

「ベリル様はとても珍しく、可愛らしいお召し物を着ていますものね」

「いぇーい。お姫さまに褒められちった〜っ」

「陛下。よろしいのではありませんか。ベリルは幼くして神から高い評価を得た装飾品意匠家という話ですので」


 という王妃様の一声で、服装まで話に含まれることになった。


「よかろう。トルトゥーガに言動や服飾諸々の自由を許そうではないか。だが、見聞きした相手がどう思うのかまで余は責任を持たんので、そのつもりで」

「はーい! 王様っ、お妃さまっ、ありがとーございまーす。じゃー右大臣さん、ちゃーんと『カブキ御免状』って書いといてねー。あと王様のハンコもーっ」


 こうして『カブキ御免状』なる書状を手に入れちまった。


 これ、俺ら全員に適用されるらしい。けど、なるべく世話にならんようにしよう。きっとベリル以外は遠慮するって腹積りで許したに違いない。

 その証拠に『他の者がどう思うのかまでは知らん』という旨まで仰ってた。

 あとはヒスイに関してだが、アイツは元から触れちゃあならん者扱いだしな。いままでとあんま変わらんか。


「ひししっ。マジ前田だし」


 ベリルのやつ。まーた呑気に意味不明なことをほざきやがってからに。

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