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献上品と、そのご褒美①


 翌朝——


 陽に当たると、よりスゲェな。

 濃紺がギラギラ艶々してやがる。自分が映り込んじまうくれぇだ。


 俺が馬車の出来に惚れ惚れしてると、


「うはっ。高級車みたーい。塗って擦ってしまくったら、めちゃイイ感じじゃーん」


 ベリルも満足げな声をあげた。

 コイツ、テメェがイタズラかました後始末の結果だってのを忘れてねぇか?


 だが、その説教はもういいや。

 昨晩のうちに反省させたからってぇワケじゃない。もっと先に言うべきことがあるからだ。


「おうベリル。やっぱりその格好(ナリ)で行くつもりなのか?」

「ちゃんと正装してんだしよくなーい。つーかどーお? めっちゃ可愛いっしょ」


 クルッと回ってみせるベリル。


 いつもクリンクリン跳ねてる栗色の髪は、前髪以外もしっかり整えられてる。


 服だってまともな部類と言っていい。

 白地のシャツを着てて、太めの肩紐に三角形をぶら下げたみてぇな見たことない意匠のワンピース。足元はピカピカの革サンダル。

 正装とまではいかねぇまでも、ベリルの年齢から考えたら常識的な範疇に収まってるはず。


 ここまではいい。が、それ以外がダメだ。


 大問題は、まともな服装だからこそ、ゴチャゴチャした装飾品の異様さが際立っちまってるとこなんだ。


「悪ぃこと言わんから羽とか尻尾は外さねぇか?」

「やだ!」

「いつもの派手な服よりも、装飾品が悪目立ちしてんぞ」

「やだ!」

「見せびらかしてぇんなら持ってってもいいからよ」

「やだ!」


 ……お手上げだ。


「つうか、その服どうしたんだ? そいつが普通の店で売ってるとは思えんが」

「ママに作ってもらっちった〜っ。最初はジェケーらしくセーラー服とかブレザーって考えたんだけどー、あーしの幼女体型だと、やっぱこーゆー幼稚園の制服っぽい方が可愛いかなーって」


 ベリルがなに言ってんのかサッパリだが、おおかた服の種類の話をしてんだろう。


「俺としちゃあ、装飾品ない方が可愛いと思うんだかなぁ……」

「——っ⁉︎ と、父ちゃん、いまなんと?」

「だから、ジャラジャラ飾りつけてねぇ方が可愛いんじゃねぇか。角はやめて、髪飾りとか伊達メガネにしとくとかよ」


 クルリと背を向けたベリルは、独り言をブツブツと。

 んですぐこっち向く。したり顔で。


「そこまで可愛いってゆーんなら〜、しっかたないかなー。あーし的には、小っこい幼女がアクセいっぱいのゴージャスな感じもアンバランスさが可愛いなって思うんだけどー。父ちゃんがどーしてもってゆーんならー、考えてあげてもいっかなー。どーしよっかなー。なー、なっなっなー」


 どうせいと?

 問題幼児の急変に首を捻ってると、ヒスイが耳打ちしてくる。


「ベリルちゃんは褒めてほしいのですよ。あとアセーロさんからお願いもしてほしいのです」


 俺は『うっそでー』という顔を返す。コイツ、そんな可愛げのあるヤツじゃねぇだろ。


 …………ったく。


「今日は高貴な方々に会う。だったら賢い感じの格好の方がいいんじゃねぇのか。うちの装飾品はこういうふうに使うんですって、見本みせるみてぇによ」

「んん〜…………、もーひと声っ」


 んだ、それ。


「さっき自分で言ってただろうが。幼女だから不釣り合いで云々って。お姫様やお妃様に装飾品を勧めてぇんなら、オメェにしか似合わんカッコしてってもしかたねぇだろ」

「ほ、ほーほー。んで」

「——あぁあもううっせ! さっさとお利口さんな格好に着替えてきやがれっ」

「ひひっ。もーしゃーないなー。まったくもー父ちゃんは照れ屋さんなんだから。そーゆーのマジ需要ないっつ〜の〜っ」


 満更でもない様子で、たったか部屋に戻っていく。


「ヒスイ。ベリルの着替え手伝ってやれ」

「うふふっ。ではあなた、可愛いベリルちゃんを楽しみに待っていてくださいね」



 で、しばらくして——


「じゃじゃーん。どーお?」


 再び姿を現したベリルは、髪を中途半端にまとめあげて、丸くてデカい頭の悪そうな眼鏡の枠をかけてた。指輪は親指と小指に二つだけ。


「おう。ちったぁマシになったな」

「まったく父ちゃんは、ヤレヤレだし。もっと気の利いたセリフとかないのー。ハーフアップと眼鏡の組み合わせが清楚で知的とかさー」


 そりゃあ清楚にも知的にも見えねぇからな。


「ほれ、さっさと馬車に乗っちうぞ。まだ時間に余裕はあるが遅れたくねぇ」

「ん」

「なんだ? その手のひらは?」

「決まってんじゃーん。手ぇ貸してって意味だし」

「逆だ、逆。なんかよこせって手になってんぞ」

「おっといけね。ほい」


 クルッと手の甲を向けてきた。しかし俺はそれを無視して脇を抱えあげる。んで馬車へホイッと乗せてやった。


「ちょ! あーしお嬢さまみたいにしてほしーのーっ。荷物みたいにしちゃイヤッ」

「テメェの短ぇ足だと、手ぇ貸したくれで馬車の踏み台には届かんだろ」

「そこはほら、魔法で浮くし」


 だから抱えてやったんだがな。

 あーあ。後ろでニコニコ聞いてたヒスイがご立腹だ。


「まあまあベリルちゃんったら、ママとの大事なお約束を忘れちゃったのかしら?」

「——ぅお、覚えてるし。メッてしないで。ちゃーんと覚えてるもんっ」

「うふふっ。ベリルちゃんがお利口さんでママは嬉しいわ」

「ひ、ひひぃ……。あーし、めちゃイイ子ちゃんだしぃ」


 コイツらに口を開かしとくと、幅を持たせてた時間がみるみる削れっちまう。

 ほれ詰めろと俺も馬車に乗り込み、御者台へ声をかけた。


「イエーロ。出してくれ」

「運転手しゃん。あの馬車のあと追って!」


 いったいなんの遊びだ。


「ねぇベリル。オレもあんまり慣れてないんだから大人しくしてて。んじゃ王宮に向かうね。母ちゃん、いってきます」

「ええ、いってらあ」


 ヒスイに見送られて、馬車は走りはじめた。


 ちなみに御者してるイエーロだが、コイツもめかし込んだ服装をしてる。

 その姿を見たベリルが、うんうん頷き「マゴにも衣装だし」などと曰うくらいには、さまになってた。

 どうして兄貴が孫になんのやらだが。


「兄ちゃんは高校生くらいの歳だしさー、ならやっぱ詰め襟でしょ。素材が兄ちゃんでも白だと軍人さんっぽくてキリッてイイ感じーっ。あーしの見立てどーりじゃーん」


 そういうイエーロの服は、襟元までガッチリしてる。んで、肩や袖には銀糸を使った装飾がキラリだ。


 かくいう俺はといえば……。


「父ちゃんは思ってたのと違ーう」

「なにが言いてぇんだ」

「黒のスーツに金色の肩章とか襟章とかでイカチー軍人さんみたいになると思ってたのにさっ。なんでそんなマフィアみたいになっちゃうのー。マジ極道だし」


 ところどころ意味はわからんが、どうやら俺は文句つけられてるらしい。


「…………似合わんか?」

「んーんー。めっちゃ似合ってるし! 超ワルオヤジって感じー」


 褒められてねぇのだけは、よくわかった。

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