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自慢の品を奉納②


 ホントに、コイツはどんだけ兄貴たちをコキ使ってんだか。

 イエーロたちが試作品作りにヒィヒィいってるところへ無理くり捩じ込んで作らせた、ベリル自慢の品。それが、いくつも小さな穴の空いた包丁と薄っぺらいまな板だ。


 宣伝の機会があればって荷物んなかに入れといたんだとよ。

 んで、今回だ。そもそも台所用品なんか供物にしても高く査定されるわけねぇだろうに……。


 どうやら準備が整ったらしい。


 ベリルは木箱の上にまな板を置く。

 そして常より一段と声を張りあげて——


「まずは切れ味から見せちゃいまーす。取り出しました葉っぱのお野菜っ。いっぱい重ねても、ほれほれほれスッパスパーッ。カッチカチな根野菜だって〜っ、あーしみたいな小っこい子でも楽チンチンで真っ二つ!」


 歌うみてぇな口上を述べて、ザクザク切ってく。


 つうかあとで俺が食うことになってるらしいがよ、コイツは親父に生の根野菜を食わせるつもりか?


「でー、気になるこの穴っ。これ見てみー、中身やわやわなお野菜っ。こんなんだって余裕でシュバッて潰さず切れちゃーう。しかも切ったあと包丁に引っつかぁ〜……なぁ〜いっ。こっちの水気たっぷりな瓜だって〜、おりゃりゃりゃりゃりゃ〜っと切っても切っても、くっつからないめちゃ楽チーン。失敗すると潰れちゃうフカフカ白パンも、ほ〜ら切り口めちゃキレイ! ハムもチーズもザックザク、でもくっつかなーい」


 こんな具合にリュックから取り出した食い物をガツガツ切っていく。

 見てて気持ちいいくれぇにスパスパいくもんだから、他の連中も神官殿たちも、見入っちまう。


「でねー、ホントは内緒にしときたいんだけどー、あーしイイ子だから正直にぜんぶ言っちゃーう。この便利な穴あき包丁、ごめんだけど一個だけ弱点あんの。キレすぎなのがめちゃ困る。普通のだとまな板ごと切れちゃう。もーギャグじゃーんってなるし。——そこで! セットの魔導薄々まな板っ。薄いのに魔力を込めたらめちゃめちゃ丈夫っ。しーかーもーっ」


 なにが便利なのか?

 その答えをベリルは勿体つける。


「薄いから収納とかも場所取らないしー、なにより切ったモノを〜、こーやって〜……」


 端と端を持つと、ぐにゃり。少し曲がった。

 するとまな板に乗ったままの根野菜なんかが、真ん中へまとまる。つづけて傾けると、取り出した小さな鍋のなかへ溢れず転がってく。


「こんなふーに、お鍋にザザーッと入れられちゃーう」


「「「おお……」」」


 あたりから思わずって感じのため息が漏れた。


 それからベリルは包丁とまな板をキレイに拭き取り、恭しく祭壇へ捧げる。


「料理すんのに大活躍だし! よかったら女神さまたちも、美味しいゴハン作んのに使ってねっ」


 そう告げると同時に——消えた。


「「「…………」」」


 祭壇へ、期待に満ちた視線が集まる。


 当のベリルはといえば、そんな注目なんて気にもせず、切ったパンに葉野菜やらハムやらチーズやらを挟んでいた。


「いけねっ。サンドイッチ切ってダジャレ言うのやり忘れちったー」


 たしか、伯爵の食い物だとか意味不明なこと言ってた記憶があんな。


 で、待つことしばし。

 現れたのは——金貨、八枚だとッ⁉︎


「おおーう。お小遣いいっぱーい。女神さまマジありがとー!」


 え、いや……。軽いな、オマエ。

 これって魔導ギア一式と同じ評価なんだが。さすがに俺も固まっちまう結果だぞ。


 見てた連中の熱も下がってく。きっと手頃なら買いたいと思っててくれてたんだろう。

 だが金貨八枚の評価された包丁には、いくらなんでも手が出ねぇよな。折れ曲がるまな板が付いてくるとしても。


「父ちゃん父ちゃん。預金しちゃおーよー」

「…………。おう」

「んー? なーんかガッカリしてなーい?」

「まぁ多少」


 包丁だってイエーロたちが丹精込めて作ったんだとわかっちゃいるが、魔導ギア一式と価値が変わらんってのは……なぁ。


「ちっちっちっ。たぶん父ちゃん勘違いしてるし」

「どういうこった?」

「需要と供給だってばー」


 ますます意味がわからん。

 そこへ神官殿が助言をくれた。


「たしかに立派な武具は高価ですが、欲される方は限られております。ですが調理器具は違うと、お嬢さんはそう仰られているのでは」

「うんうんそれそれー。あーしが言いたいのは、欲しがる人が武器よりめっちゃ多いんじゃねってことー」


 当然の話だが、槍を使う者はほとんどが男で、戦のときに限られる。対して包丁はどうなんだ? つまりはそういう話をしてぇんだな。


「使う者は世帯の数だけいるってことか?」

「そーゆーことっ。たぶん女神さまもそのあたりを考えてくれたんじゃないのーって、あーしは思うわけ」

「あり得ますな。もしあの包丁が広まれば、喜ぶ方は大勢いることでしょう。そのあたりを評価されていても不思議ではありません。それもこれも、お嬢さんの見事な実演があってこそかと」

「へっへーん。面白かったー? なんとなくでやってみたんだけどー」

「ええ。大変見応えがありました」


 つうことらしい。


「めちゃ嬉しーし。つーか父ちゃん、大事なこと忘れてなーい?」

「なにをだ」

「タイタニオどのも言ってたじゃーん。たくさん作れるモノは安くなるんでしょ。これ、作んのけっこー簡単だし」


 そうか。俺もうっかり金属の品で考えちまってたが、亀素材なら穴開けるのもカタチ整えるのも大した手間ぁかからねぇんだった。

 刃の型に切り出してから削って、あとは柄を挟み込んで鋲打つだけだもんな。数を作るならサンダルより楽かもしれん。まな板も同じくだ。


「新婚さんにプレゼントって感じでプロモーションすれば、もっと売れちゃいそーだし。でもまずはゴハン屋さんからかな〜っ。料理のプロが選ぶ包丁、的な〜っ。うひひっ」


 どうやらベリルは、売りつける算段まで立ておえてるらしい。性悪ヅラしやがってからに。


 ようやく一つ用事が片付いたとこなのによ、代わりにもっと面倒な先送り案件が増えちまったぜ。


「とりあえずカネを預けたら、メシでも食いにいくか」

「いやいや父ちゃん、さっき切った野菜いっぱいあるし」


 そうだった。リュックいっぱいぶんの食材を食わなきゃならんかったんだ。


「大丈夫だってー。ちゃーんとサンドイッチも分けてあげっからさー」


 このあと宿に戻り、俺は馬が食うみてぇなメシで腹を膨らますハメに。

 ベリル? アイツはサンドイッチとやらで「お腹いっぱーい」だとよ。

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