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問題幼児と挨拶まわり③


 タイタニオ殿の屋敷に出向いた翌日——


 今日は、ポルタシオ将軍閣下のところへ挨拶に向かう予定だ。


 で、俺はてっきり閣下の自宅に向かうつもりでいたんだが……。


「トルトゥーガ殿。お迎えにあがりました」


 王国兵が宿まできた。用件はいま聞いたとおりか。


 すでにヒスイとイエーロは出掛けていて、部屋には俺と、装飾品でポッケを膨らませたベリルが残ってるだけ。

 つまり、またベリルを連れて王宮へ出向かなきゃならんということか。


「おおーう。兵隊さんじゃーん。父ちゃん、今日はお城行くん? そーゆーの早く言ってほしーしー。あーしにも準備ってもんがあるんだかんねー」


 そんな話は聞いてない。そう答える前に——


「いえ。本日は練兵場へご案内するようにと、ポルタシオ将軍から仰せ使っております」


 想定外の行き先を告げられた。

 そしてなぜかベリルは、訳知り顔。


「ふむふむ……。なーる。これってあれじゃね。父ちゃんがエリートにイチャモンつけられる的なっ。んで決闘して、バッタバッタ連戦連勝しちゃうみたいな展開っ。あるある絶対あるし」


 そういうのは、せめてブツブツ言ってくんねぇかな。聞こえた王国兵、困り顔を左右にブンブン振ってんぞ。


「わかってるってー。父ちゃんを油断させとかなきゃなんないもんねー。あれでしょー『胸を借りたい』とか言って模擬戦に引きずり込んでー、剣だけの勝負って見せかけたところで魔法使ったりすんでしょー。あーし丸っとわかってるっつーのー。にひっ。よーし父ちゃん、返り討ちにしちゃえーっ!」


 どうあってもコイツは俺を暴れさせてぇらしい。


 俺は迎えの者に目で問うた。

 ホントにこの問題幼児を連れてってもいいのか、と。加えて『正気か』とも。


「しょ、将軍からは、お二人をお連れするようにとしか……」


 おおかた魔導ギアの試し斬りをすぐやりてぇって理由だろうけど、よりにもよって練兵場か。庭とかでいいじゃねぇかよ。



 将軍閣下には忙しい合間を縫って時間を作っていただいたわけだから、ワケもなく拒むわけにもいかん。

 だから俺らは王国兵に案内されるまま、王都の外れにある練兵場へ足を運んだ。もちろん手土産の魔導ギアを詰めた木箱を持って。


「ひっろーい! 東京ドーム何個ぶーん?」

「知らん」


 そんな単位知らん。


「でも、なーんもないんだねー。訓練する場所ってゆーから、てっきりアスレチックみたいな感じかと思ってたのにー」

「そりゃあなにかしらの施設のことを言ってんのか? こんくれぇ真っ平なところじゃねぇと、組織だった訓練なんてできんだろ」

「ほーほー。行軍とか隊列ってやつかー」


 こんな具合にベリルとだだっ広い練兵場を眺めつつ、隅っこで待つことしばし。


「トルトゥーガ殿。よう来てくれたの」


 ポルタシオ将軍閣下がやってきた。後ろに若い兵士を二人連れて。


「将軍さま。おひさー!」

「ワッハッハ。ベリル嬢は相変わらず元気なようだのう。今日はワシの孫も来ておる。紹介しよう」

「おおーう。お孫ちゃーん」


 てっきり将軍閣下が紹介してくる孫は娘だと思ってた。タイタニオ殿んとこみてぇに装飾品にキャイキャイ喜ぶご令嬢だと。


 だが——


「自分は、ランシオ・デ・アルマースであります!」

「自分は、アルコ・デ・アルマースであります!」


 後ろに控えてたバリバリの青年軍人が二人、挨拶してきたんだ。


「ワシの孫でのう。無論、ここではそのような贔屓などせずに厳しく鍛えておるがの」

「トルトゥーガ殿の武勇はかねがね!」

「自分もであります!」


 訓練の最中だってのに私用の話をしてる時点で、甘やかしてんのと違うか? 構わんけどよ。


「アセーロ・デ・トルトゥーガだ」

「あーしベリル、五歳でーす。よろー!」


 いつもならここで、妙な格好ナリしたベリルに注目が集まるところだが、将軍閣下の孫二人はこっちを見たまんま。


「父ちゃんめっちゃ熱い視線そそがれてんじゃーん。これってやっぱあれじゃーん。いっちょ腕試し的なパターン」


 また余計なことを。


「——稽古をつけていただけるのですか!」

「——自分もぜひ!」

「これこれ二人共、控えなさい」


「「申し訳ありません。お爺様」」


 おいおい『お爺様』って。ちゃんと公私を分けろってドヤされんぞ。

 ……いや、将軍閣下は気にしてないっぽいな。


「うむうむ。わかればよいのだ。ちと厳しいことを言ってしまったのう」


 あーあ、こんな育てられ方したのが指揮官になんのか。ゾッとしねぇぞ。


「ところでトルトゥーガ殿。あちらの木箱に魔導ギアが?」

「ええ。いくつか試作品を持ってきたので、お好きなモノを今回の礼に」


「「——お、お爺様!」」


「まて待て。そう急くな。いまから頼んでみるでのう」


「「…………」」


 なーんかわかってきた。チラッとベリルを見ると似たようなことを考えてる顔してら。


 わざわざこんなところに呼び出したのは、おおかた孫に魔導ギアをせがまれて追加で二人ぶん欲しいってとこだろう。

 販売がはじまるまで待てねぇのかよ。求められるのはありがたいんだが、なんというか……、微妙な気分だぜ。


「もしかしてさー、孫娘ちゃんたちにはアクセあげたのにー、お兄さんたちのプレゼントはなかったからスネちゃった的な?」


 おいベリル、言い方。


 あーあ。当の孫二人は、見た目三歳児に図星を突かれて恥ずかしそうに俯いてら。


「んま、まぁ、そんなところかのう。ワッハッハッ。身体は大きくなっても、いつまで経っても可愛い孫なのでの。して、どうだろう?」


 厚かましいこと言ってるとでも思ってんのか、将軍閣下は控えめな頼み方をしてくる。


 試作した時点で、持ってきたモンの役目は果たしてんだ。べつに全部まとめて譲っちまっても構いやしねぇ。将軍閣下が金払いイイのも知ってるしな。


 だがよ、将軍閣下。この状況を面白がるヤツの存在を忘れてねぇか。


「ふっふっふっ。お兄さんたち二人が魔導ギアを持つに相応しい存在なのか見定めなきゃだし」


 ほれみろ。

 んで、いったいこんどはなんの遊びだ?

 つうか魔導ギアを持つ資格って、カネさえ払ってくれたら文句ねぇだろうが。


「もし父ちゃんに勝てたら、二人に好きなのプレゼントしちゃーう」

「テメェはなに勝手なことをほざいてやがんだ」

「あっれれ〜? 父ちゃんってば自信ないのー?」


 んな煽りにいちいち乗るか。


「土産なんだから普通に受け取ってくれ——」


「「いえ。ぜひお願いします!」」


 あぁあぁー、二人共ヤル気になっちまったか。

 しかたなしに可否を将軍閣下を窺うと、


「ランシオもアルコも、指揮官としてはまだまだ及ばんが、個人の武勇に限ればかなり優秀での」


 とか言い出す始末。


 ったく。怪我させずに終わらせんのが一番面倒くせぇんだぞ。


「ひひっ。決っまりー! 父ちゃん対ランシオくんアルコくんのお相撲対決ぅ〜っ」

「なんだ? 『スモウ』って?」

「ええ〜っ! そっからーっ」


 水差されたみてぇな顔されても、オメェ以外誰もどんな勝負かわかってねぇぞ。

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