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問題幼児の、王都デビュー⑩


 まさか、こんなに話が進むとは思ってもみなかった。


 とくにポルタシオ将軍閣下とタイタニオ殿が同席してるってのがありがてぇ。サクサク進んじまったぞ。

 後日、手土産の魔導ギアを持って挨拶に伺うが、そんときゃ話の確認程度で済んじまうな。


 んで、いまはベリルがお偉方二人を相手に、自前の装飾品の素晴らしさを延々語ってるわけだけど……。


 俺は止めねぇよ。

 こんくらいの意趣返しは見逃してくれ。ムリ言って話を聞きたがったのはそっちなんだからな。

 悪ぃが相談に乗ってもらったのと、ムチャを振ってきたのは別問題だ。


「でねー、ほらここっ。ここ見てみーっ。こーやってー透かすとー……ひゃはっ。めっちゃ可愛くなーい。しかもー魔力込めるとー……ピカーって!」

「ほ、ほほう。なかなかの意匠だの」

「まっこと……」

「でっしょー。でねでね」


 てな具合にベリルは目ん玉に星を浮かべて、立板に水。勝手に茶のおかわりまで頼んで、まるで止まる気配がねぇ。


「でー、このアクセを父ちゃんとママはペアでつけてるしー。いい歳してラブラブなのアピッちゃってさー。もー、マジ見てるこっちが恥ずいっつーのー」


 オメェがつけろっつったんだろうが!


「でも、これってラブラブアピールだけじゃないしっ。魔導ギアとおんなじ素材だからかなー、御守りってゆーかー、縁結び的なスピリチュアルがあってー、イイこと盛りだくさーん。気になるあの娘ともこれで結ばれちゃーう! みたいなっ」


 聞かされてる二人は、半分も意味が伝わってないだろう。

 しゃあねぇ。補足するか。


「ただの装飾品ではなく、縁起物として『男女が揃いで付ける』というのが我が領内で流行っておりまして」


 魔導ギアと同素材とはいえ、なんの効果もない飾りもんだとわかったから二人とも興味を失ってる。それはわかってた。

 供物にした装飾品が高評価だったのも量産できない素材を使用したってのを話したから、なおさらだ。


 でだ。そのツマらん話を長々聞かされていたところへ、俺が口を挟めばどうなるか? そんなもん話を切り上げる方向に舵をきれって期待されるに決まってる。


 俺だってこの話は……まぁ、微妙だ。


 だから終わらせようとしたのに——


「ほう。此度の戦の英雄殿と大魔導殿がのう。なんとも興味を唆る話ではないか」

「ええ、まっこと。我が妻が知れば『わたくしにも』とねだること請け合い」


 あーあ。言っちまったぁ。俺、知らね。


「じゃじゃーん! そーゆーと思ってー、将軍さまとタイタニオどのに、あーしからプレゼントーっ」


 テーブルには、若いお嬢さん方が喜びそうな花びら意匠の指輪が……四つ。まず間違いなく、オッサンの指には似合わん代物だ。


 つうかベリルのやつ。ここに来たのは偶然だったってぇのに、えらく準備がいいな。


「ひひっ。ホントはサンプルで一個ずつなんだけどー。将軍さまにもタイタニオどのにも、父ちゃんがめちゃお世話になったしー、特別にペアで付けられるよーに二つセットであげちゃーう」

「それは……ありがたいな。貴重な魔導ギアと同素材の指輪とは、私の妻も喜ぶに違いない。だがさすがに金貨十ま——」

「ちゃーんと奥さんにペアでって話もしといてねー。それとごめんなんだけどさー、プレゼントしたの女神様にお供えしたやつじゃなくってー、もっとお手頃なやつー。でも可愛いっしょー」

「そ、そうだな……」

「ねー父ちゃーん。たしか若い子でも買えるくらいの値段にするって言ってたよねー」

「おう。そのつもりだ」

「だから遠慮とかマジいーから。これもお近づきの印、みたいなっ」

「……では、ありがたく頂戴しよう」


 スゲェなベリル。タイタニオ殿を押し切っちまったぞ。何気に押しが強ぇよな、コイツ。


 俺だったら放っちまうとこだが、タイタニオ殿は義理堅そうだろうから奥方には渡してくれんじゃねぇか。揃いで付けてくれるのかまでは知らんけど。


「ふむ……」

「んー? 将軍さま、あんまりだったー?」

「いや、ワシは妻に先立たれていての」


 いけね! そこらへんを先に調べておかなきゃマズいじゃねぇか。やっちまったか?


「あーしってば、えっと……マジごめーん。んーとぉ……家族でもいーんだけどー。たとえばお孫ちゃんとかー」

「——ほう! なるほどのっ。それはよいことを聞いた」


 バツ悪そうに苦し紛れで言ったベリルの代案に、将軍閣下はびっくりするくらい食いついた。


「あーしなら、じーちゃんがめっちゃ可愛いのくれてー、お揃いしてくれんの嬉しーしー。あーしもママとお揃いの使ってるもーん」

「ほうほうほう! では、孫に……っ。の、のうベリル嬢。いま、この指輪はいくつ持っておる?」

「あー。そっかそっか。全員ぶんないとケンカなっちゃうもんねー。ひひっ、あーしにお任せー」


 おい、いったいいくつ持ってきてんだよ。


 俺を置いてけぼりにして、ベリルはあれこれテーブルに並べてく。その数が十を超えたあたりで。


「でー、何個ほしーのー?」

「ああいや、もちろん代金は払うぞ」

「そーお。なんか押し売りしたみたいで、悪くなーい」

「ベリル嬢。私にもあと三ついただけるか」

「あーっ。タイタニオどのは、娘ちゃんとお揃いすんのー?」

「う、うむ。ま、まぁ……そうだな。やはり姉妹で不必要な差はつけたくないからな。うむ」

「うっは! めっちゃいいパパじゃーん。ねっ、父ちゃん、ねっねっねっ、ねーっ」


 ええい、鬱陶しい。

 ヒスイとだけでもムズ痒くって蕁麻疹出そだってのに、娘と揃いだなんて断じてお断りだ。俺の父親像からかけ離れすぎてらぁ。


 しかしだ。硬派かと思ってたポルタシオ閣下もタイタニオ殿も、こういうのに興味持つんだな。意外だわ。これが子煩悩ってやつなのか。



 結局、二人合わせて十四個も買ってくれた。内四つは素材見本で渡したから、正しくは十個の販売。

 まさか、魔導ギアで一番初めに売れるのが装飾品になるたぁな……。


 ちなみに単価は二個合わせて銀貨一枚。

 銅貨にすると百枚ぶんの値段で、若ぇモンでも十日ほど額に汗すりゃあ手が届く額だ。



 ほくほく顔が三つも並ぶ場では、これ以上話は進まんと思ったから、お偉方二人には「では今日はこれくらいで」と引き上げさせてもらった。

 二人共、娘と孫にイヤがられねぇといいんだがな。


 なんにせよ、ベリルが王宮で盛大にやらかさなくてホッとしてるってのが本音だ。


 んで、いま俺らは、王宮から宿に向かう大通りを見物しながらプラプラ歩いてまわってる。


「ひひっ。お小遣いいっぱーい」

「そいつはオメェのじゃなく、作った後家さんたちの取りぶんだぞ」

「わかってるってー」


 いそいそポケットに銀貨をしまうさまを見て、俺は即座に取り上げた。


「——ちょ! あーしが作ったのもあるしー。半分ちょーだいっ」

「ダメだ」

「お小遣いほしーのー」

「オメェは教会に大金預けてあんだろうが」

「だってー。お菓子とか買いたいんだもーん。ママにお土産とか買いたいしー、服も欲しーしー、とにかくお買い物してみたーい」


 散財したいだけかよ。ますますカネを持たしたくなくなっちまったぞ。

 だが、この稼ぎはベリルの働きが多分にあるんだよな。チッ、しゃあねぇ。銀貨一枚ぶんこっちで補填してやるか。


「ほれ。心して使えよ」

「ええーっ。一枚だけーっ」

「文句いうなら返せ」

「うそうそうーそー。父ちゃんだーい好きっ」

「うっせ」


 ブツブツ言うのはすぐにやんで、ベリルは銀貨を大事そうに見てる。


「ねー父ちゃん」

「なんだ」

「お腹空いたー」


 さんざん菓子食ってだろ。

 まぁいいか、食えるんなら。おおかた『別腹』とかぬかしてたやつだろ。


「そいつぁ奇遇だな」


 せっかくの王都観光、そうこなくっちゃいけねぇよな。ようやく軍資金の大銀貨の出番だせ!


 俺はひょいッとベリルを肩車して、メシ屋へ向けての歩幅を広げた。

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