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問題幼児の、王都デビュー⑧


 コイツの気安さは天井知らずだな……。


 ベリルは出された菓子をモグモグ食ってる。

 いつもは手製の箸なるもんを使ってバクバク食うが、今日は出されたフォークとナイフを器用に使って、食器の音なんて一切たてずに。


「うっわ〜。あるある。父ちゃんってすぐゴッツンすっからねー。そーゆーのマジはんせーしてほしーしー。んでんで、タイタニオどのー。父ちゃんパンチが炸裂したあとはー? どーやって仲直りしたのー?」


 こりゃあ、こないだの戦で会議んときに俺がやらかしちまった一幕。

 そいつを、殴られた張本人のタイタニオ殿が面白おかしく語ってらっしゃるってんだから、俺としちゃあどんな反応したらいいのやらだ。


 菓子を平らげてくベリルの手と口は止まらない。合間に茶を啜っては相槌だって打つ。

 コイツ、ホントにこういうの器用にこなすよな。


「そんなカッコつけするとか、マジいっがーい」

「そうかの。トルトゥーガ殿は仲間のために身体を張れる立派な武人ではないか。ベリル嬢は、そういう父の姿を見たことはないのか?」

「んーと、そんなんあったっけ?」


 おいベリル、首傾げんな。


「閣下。もうそんくらいで……。小っ恥ずかしくて聞いててつらいです」

「ガッハッハッ。勇猛なトルトゥーガ殿にも弱点があったか」

「わっはっはっ。父ちゃんてば、めっちゃイカチー顔してんのに照れ屋だし。マジ似合わねーって感じだけどー。あっ、そーそーこないだもー、ママとお揃いのアクセつけんのめちゃ拒否ってたしー」

「ほう。大魔導殿と揃いのか」

「それは興味深い話ですね」


 くっそ、ベリルめ。余計なことをっ。

 あとお偉方二人、アンタらいい歳こいてんだから装飾品の話なんかに食いつかねぇでくれよ。


「これなんだけどー」


 ——コイツ⁉︎ まだ持ってやがったのか!


「ほほう。これが教会の前で言っておった装飾品か」

「なんの話かの?」

「えっとねー、これとは違うんだけどー、お城にくる前に教会であーし自慢のアクセをお供え物してきたのー。んで、女神様大喜びっぽくてー、お小遣いめちゃくれたー」


 ここでお偉方二人の視線がこっちへ。

 タイタニオ殿も硬貨袋しか見てねぇもんな。


「差し支えなければ、どれほどの評価を受けたか聞いてもよいかの」

「かなり失礼なマネだとは理解しておる。だが気になってしかたないというのが、本音だ」


 ベリルでさえ空気を察してこっちに向いた。


 さて、どうするか……。


「少し待ってください」


 そう言って俺は目の前の菓子を頬張る。

 うん。甘いもん食うと頭の巡りが良くなるとかベリルが言ってたが、ホントっぽいな。


 いま魔導ギア関連で抱えてる案件は——


 一つ、値段を決めなきゃならん。

 二つ、献上の口利きを頼む。

 三つ、できれば問屋を紹介してもらう。

 四つ、ついでにサンダルも売りたい。

 五つ、さらに装飾品を縁起物だと広める。


 その他、見積もりの返事書いたり工場を建てたりやらあるが、それは帰ってからでもできる。

 

 でだ、王都でしかできねぇ案件のほとんどを、お二方への頼みごとからはじめなきゃならんわけだ。だとしたら……。


「洗いざらい話してもいいんですが、公にできない話もあります」

「ふむ。ワシで力になれるなら協力しよう。無論、秘密も守る」

「私もだ。命の恩人に報いようではないか。それに、早く私用の魔導ギアが欲しいのでな」


 荒事なら負けねぇが、人の間のことにはからっきしな俺だ。なら真っ直ぐ頭ぁ下げて、助けてもらえばいいか。


「では、まず素材から——」

「いやいや待て待たれよ、トルトゥーガ殿!」

「はい?」

「我々が興味をもったことだけで構わん。知る必要がないことは知らん方がよい」


 そうなのか?


「父ちゃん。そーゆーの迷惑かけちゃうし。あーしが思うにー……鎧を売れない理由とー、めっちゃアクセが高評価ってゆーのとー、あとどれくらい作れるのかって話をしたらいーんじゃね」

「加えてベリル嬢の本当の年齢、かの」

「ポルタシオ閣下。それはいささか小さなレディに対して失礼かと」

「うへへっ。レディとか言われちったしぃ……。やーん、照れちゃう照れちゃーう」


 そりゃそうか。なんでもかんでも話せばいいってもんじゃねぇな。

 いらん気を使わせちまったな。面目ねぇ。


「して、いまベリル嬢が言った内容のなかに、大魔導殿が否というものは含まれておるのかな?」

「いえ。うちのは魔導ギアの販売に関してはなにも口を挟んできませんから」

「父ちゃん! アクセのこと忘れてるしっ。あとサンダルっ」

「ほう。あの素材を使ってか」

「ええまぁ。ですが、武具のような特別な性能はなく、ホントに見てくれだけの品ですよ」


 ここでベリルは、これ見よがしに身体のあちこちに付けてる装飾品を主張する。


「ベリル嬢の装飾品も?」

「ええー。やっぱしわかっちゃ〜う」


 そりゃあオメェの態度見てりゃあな。


「ベリルが供物にしたのは少し特殊な品ですが、指輪を三つ。合わせての評価は金貨三〇枚でした」


「「————ッ⁉︎」」


「へっへーん」

「……そ、それはマズいな」

「んー? どーしてー?」

「指輪でそれほどの価値を認められたのだ。剣や盾となると、いかほどになるのか見当もつかんの」

「ええーっ。デザインすごーいって褒められたんじゃないのー。絵とか彫刻とかがめちゃ高いのとおんなじじゃーん」

「いや、もちろん意匠の価値は考慮しておる。だが武具の方は魔力で性能があがるのだ。かなり高価になってもおかしくないぞ」


 あーあ。いきなりややこしい話になっちまった。よし。ここは甘いもんを補給しとくか。


「父ちゃん! お菓子食べてる場合じゃないしー。あとそれあーしのっ」

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