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問題幼児の、王都デビュー⑥


 こりゃマズい。気が気じゃねぇんだが……。


「おや、トルトゥーガ殿。なにか急ぎの用かな?」


 ソワソワしてんの見透かされちまってんぞ。いま商売の話したら間違いなくポカしちまう。

 街中で立ち話してんのですら落ち着かねぇこの状況をどうするか。


 ベリルをダシに……いやいやバカか、俺は!

 余計なこと口走るに決まってるじゃねぇか。クッソ、ぜんぜん頭がまわんねぇ。


「ふむ、これから売掛金を教会へ預けに行くところであったか」


 さすがタイタニオ殿、目敏い。ベリルが大事そうに金貨袋を抱えて隠すさまから察したのか。


 …………あっ。


「……ねー、父ちゃん」

「お、おう。その手があったな」


 俺らのやり取りからなにを読み取ったのかはわからねぇが、タイタニオ殿は「ワッハッハ」と快活に笑う。


「では、馬車で共に向かおうではないか」

「タイタニオ殿も?」

「私は預金を引き出しにな」


 お言葉に甘えて、俺らは教会まで馬車に乗っけてもらうことにした。



「ほうほう。それは良い対応であったな。さすがはトルトゥーガ殿だ」


 これは口止め料に対しての反応だ。


 硬貨袋の現物を見られちまってる以上、タイタニオ殿に隠しだててもしかたねぇ。

 それに、俺らにゃあ腰抜かすくれぇの大金だとしても、変わらん額を眉一つ動かさずに引き出したさまを見ちまったら、なぁ……。


 だからタイタニオ殿には教会での供え物のくだりの粗方を、金額を伏せて話した。

 


 で、無事に教会へカネを預けて、いまはタイタニオ殿の馬車にお邪魔してる。こっそり事情を話せる場所が近場ではここしかなかったからだ。


 停めたまんまだから、未だ教会の真ん前。


「あーしあーし、あーしが考えたし」

「ほう。お嬢さんの発案か。幼いのにやるではないか」

「へっへーん」


 いけねっ。テンパリすぎてまともに挨拶させてなかったな。馬車のなかでってのも微妙だが、この際しのごの言ってられん。


「ベリル、ちゃんと挨拶しとけ」

「ほーい。あーしベリル。五さーい。みんなには『小悪魔』って呼ばれてまーす。いぇーい」

「テメェこら、ちゃんとっつったろ! タイタニオ殿、なってねぇ娘で申し訳ない」

「いやいや。活発で可愛らしいお嬢さんだ」

「てへへ……」


 なにを照れてやがる。

 ホント、コイツのオヤジ好みにも困ったもんだな。


「してトルトゥーガ殿。このあとの予定は?」

「お城見に行くー!」

「オメェは黙っとけっ」

「はあ〜? 父ちゃんなに言ってんのー。あーしも『トルトゥーガどの』だしーっ」


 屁理屈捏ねやがってからに。


「ほう、王宮へ行くのか。だったら私が案内しよう。外観だけ見ても物足りんだろう」

「え! なか入れんの⁉︎」

「後宮はさすがにムリだが、たいていのところには顔が利くぞ」

「スッゲェー! もしかしてタイタニオどのって、けっこー偉い人だったり——」


 ゴツンと黙らせる。


「いったー! なにすんのさー。あーし、いまタイタニオどのとお話ししてんのにーっ」

「おう。話させてもらうのは構わねぇよ。だがな、目上のモンに対する口の利き方ってもんがあんだろうが」

「ハッハッハ。さすがのトルトゥーガ殿でも、可愛い盛りの娘にはタジタジであるな」

「可愛いとか〜、マジ照れちゃうし〜……」


 ベリルはイヤンイヤンと頬っぺ押さえて首を振ってる。

 こっちは頭抱えてゴロゴロ転がりてぇ気分なんだが。


「面目ない。それで王宮見学の件ですが、なにぶんご覧のとおりの格好でして……」

「構わんさ。謁見するわけでもないのだ。むしろベリル嬢の装いに、将軍閣下は大変な興味を持たれるのではないかな」

「……嬢とか。うっは、マジヤッバ! あーし貴族のご令嬢みたいじゃ〜ん」


 紛れもねぇ貴族の令嬢だ、テメェは。品格の方はちっとも足りてねぇがな。


 んなことより、いま『将軍閣下』って言わなかったか? タイタニオ殿が将軍閣下と話すのに不思議はねぇ。きっと会う約束でもあるんだろう。

 そこへ、この問題幼児を連れていくだと……。

 バカ言っちゃいけねぇ。んなもん俺が心労でぶっ倒れるわ!


「ありがたい申し出ですが——」

「はいはいはーい! いく行くーっ。父ちゃんは帰るんならご自由にどーぞー。あーし、タイタニオどのに連れてってもらうもーん」

「こらテメッ」

「決まりだな」


 止める間もなくタイタニオ殿が「王宮へ」と御者に伝えると、馬車は進みはじめちまった。


「うっは〜っ。お城めっちゃ楽しみ〜っ」


 ベリルはご機嫌で足をプラプラさせてる。


「さっき装いって仰ってましたが……」

「あの蠢く尾も、角と羽も魔導ギアなのであろう?」


 やっぱりバレてたか。


「しかもベリル嬢は、神から多大なる評価を得た装飾品意匠家というではないか。興味を唆らんほうがどうかしている」


 こんのぉ……タイタニオ殿。端っから目ぇつけててハメたな。

 偶然バッタリ会ってからの短時間で、ここまで主導権握られるたぁ、やっぱり大貴族は侮れねぇ。


 でもまぁ。もうカネは預けたし、あとはうちの問題幼児から目ぇ離さないでおけばなんとかなるか。

 つうか、馬車からベリル抱えて飛び降りるわけにもいかんしな。


「なぁに、今日この場で交渉を進めようなどとは考えていない。トルトゥーガ殿は件の品の献上を希望しておるようだからな。となると値が決まるのはまだ先のことであろう」


 バレてら。んなもん当たり前か。

 相手は海千山千の大物。なるべく包み隠さず腹括って話した方が得ってもんだ。


「ひししっ。お姫様に会えちゃったりしてー」


 ホントやめてくねぇかな、そういうロクでもない予想を口にすんのは。ベリルふうに言うならフラグってやつだろ、それ。


「おいベリルテメェ。いい加減にしねぇと窓から放り出すぞ」

「はあ? そんなん余裕だし。あーし飛——んーんー! んーっ!」

「おや?」

「ハ、ハッハッハ、なんでもありません。なぁベリル」


 しこたま圧をかけてやると、やっと、自分がなにを口走りそうになったのか気づいたらしい。

 ベリルにしては珍しく『やっちまった』ってぇ顔で頷いた。


 魔法に関しちゃあ、外で使うのも喋んのも母ちゃんに『メッ』てされてただろうが。

 悪ぃけど、あとでヒスイにこの件キッチリ説教させっからな。覚悟しとけっ。


「てへへっ。あーしってばちょーし乗りすぎちったー。めちゃはんせー」


 くっそ。ちっとも安心できねぇよ。

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