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問題幼児の、王都デビュー②


「きゃっははぁあああああ〜いっ! めっっっちゃファンタジぃぃぃぃぃーっ‼︎」

「なぁおいベリル。頼むから耳元で叫ばないでくんねぇか。あと髪引っぱんな、暴れんな」


 俺の左肩に座ったベリルは、髪の横っちょを掴んで落ちないようにしてる。

 そのくせ足をパタつかせてるから、視界につま先がチラチラ入って鬱陶しいったらありゃしない。


「だってだってだぁってぇー! てかあれ、すっご! ちょールネッサーンス! なにこれなにあれー。あっ! 父ちゃん、あっちあっちー! あの星ついてるとこー!」

「おいこらベリル。俺の耳は手綱じゃねぇぞ。引っぱんな」

「父ちゃんゴーゴーゴー! あの星の建物があーしを待ってるしー」


 言っても聞きやしねぇ。

 まあ、街中歩くだけでこんだけ楽しんでくれんなら、連れてきた甲斐もあるってもんだがよ。


 綿密に敷き詰められた立派な石畳は、よっく目を凝らして見れば欠けた跡も見つけられた。だが、キッチリと補修されてて、年季っつうか流れた時間を感じさせる。

 建ち並ぶ店なんかも、古いもんもあれば外装を整えたばっかりなもんもあって、見ていて飽きない。


 そういった風情を楽しみてぇところだが、そいつぁこんどの機会にとっとくか。


「うっひょひょおおお〜い! デカッ、スゴッ、マジぱなーい!」


 こうも喧しいと、な。


「オメェずいぶんと教会にご執心だが、なにが気に入ったんだ?」

「ええー。だってさー、魔法があるくらいだから神様だって普通にいそーじゃん。まだ会ってないし会えないかなーって。あと、あの建物キレイだし。あーし将来あーゆーのに住みたーい」

「あんまし嘗めたことばっか言ってると、バチの前に父ちゃんの拳骨が落ちんぞ」

「それって不敬ってやつー? ぜーんぜん違うし。あーしってば見かけによらず、お賽銭とかお供え物とかけっこー奮発する方だから」

「おさいせん?」

「ん?」


 最近はめっきり減ったが、ベリルは未だにどう首を捻っても理解できねぇ言葉を使う。


「えっとねー。神様に『お世話になってまーす』って気持ちを贈る?みたいな? たまに『カレシほしー』とかおねだりしたりー『ガンバりまーす』『今年もよろー』みたいな挨拶するときも、専用の箱んなかにお金投げたりするー」


 サッパリわかんねぇわ。


「んんー……あっ。お供え物はわかる感じ?」

「おう。そりゃあな」

「お金をお供え物にしたら、お賽銭かな? そんな感じー」

「へえー。そりゃ妙な話だな」

「どこがー?」

「だってよ、供え物したらカネをくれるのが神様じゃねぇのか?」

「——はあ! なにそれっ‼︎」


 声デカッ。つうか、ここまで話が噛み合わないのも珍しいな。


 そういやベリルに硬貨(かね)の現物を見せたことなかったか。

 俺はポケットをまさぐって、王都観光の軍資金——キラリと光る大銀貨を取り出した。そいつをベリルに渡してやる。


「ほれ、それが神様だ」

「おおーう! これがここのお金かー。てか銀貨ってデカッ。こんなん自販機入んねーし。ふわわっ、めちゃ美人さんの女神様だし!」

「会ったこたぁねぇが、誰でも知ってる神様っていやぁその神様か銅貨に描かれてる神様だ。金貨の神様にゃあとんと縁がねぇけどよ」

「これ技術ぱなーい! すっごく上手に作ってあんねー。しかもキズとなくてピッカピカー」

「そりゃあ神様が創ってんだから、スゲェに決まってんだろうさ」

「…………ん?」

「んだよ」

「ねー父ちゃん、誰がつくってるって?」

「だから神様って言っただろうが。金貨と銀貨銅貨の大小を含めたぜんぶを神様が創ってる。それを供物の褒美にくれるんだぞ」


 なんでかベリルが固まりやがった。


「……それマジ?」

「神事についてデタラメこくわけねぇだろ」

「なにそれなにそれ! そんな即物的な神事なんて聞いたことなーい‼︎」


 おいこら騒ぐなって。なにが気に入らねんだ?


「ぜーったい父ちゃん、あーしをからかってるし。そーゆーのマジよくないんだー。あーあー、ママに言いつけちゃおーっと」

「おうおう言ってくれんな。だったらこうしようぜ。いまから教会で神官殿に聞いてみようじゃねぇか。そしたらオメェも信じるだろ」

「え……。なんか『バチ当たりがー!』とかスゲェ怒られそーじゃない?」

「この俺が、わざわざ怒られるようなマネするかってんだ」

「あっ、なーる。なんかホントっぽーい。でも女神様のお話ししてくれんなら聞きたーい」


 コイツ、あっさり手のひら返しやがったな。

 俺の言葉より損得勘定の方が信用あるみてぇで、なんだか納得いかねぇ。


「ほれ、教会が見えてきたぞ。実際んとこ、いますぐ話を聞けるかはわからん。神官殿が忙しそうにしてたら諦めろよ」

「ほーい」


 壁に塗られた漆喰のオウトツがわかるまで近づくと、ベリルが下せと言ってきた。


「自分で歩きてぇんか。ほれっ」

「おっしょ。ありがとー。てゆーか、神様の前に行くんなら乗りモン乗ったままとか失礼じゃね? あーしめちゃ礼儀正しーし」


 こらベリル。俺を乗りモン扱いはさすがにねぇだろ。親父への礼儀も弁えろってんだ。


 嘗めたこと言うだけ言って、たったか駆けてこうとするベリル。

 このちゃっかり者が、逃がすかってんだ。

 俺は「おい待て」と呼び止める。

 

「オメェ、大事なこと忘れてねぇか?」

「ん?」

「惚けてねぇで、しれっとポケットに突っ込んだモン返せ」

「あっ。いっけねー。てっきり、あーしへのお小遣いかと思っちゃったしー。ちひひっ」


 こんな大金、ガキの小遣いにくれてやるわけねぇだろうが。こいつぁ王都観光の軍資金だ。


「ねー父ちゃん。教会んなかって作法みたいのとかある?」

「たとえば」

「一礼二拍手?みたいな?」

「そういうのは聞いたことねぇな。そのあたりも神官殿に聞いてみろ」

「ほーい」


 いけね。騒がしくすんなとは言っておくべきだったか。


 自分ちみたいに駆け込んでくベリルを追っかけて、俺も教会のなかへ入った。

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