手一杯、だというのに新商品①
とりあえず、ぜんぶ作る。
字面にしてみるとバカみてぇだが、やってみねぇと工程も手間もわからんっつうわけで、片っ端から手ぇつけてみることになった。
そうなると材料が必要になる。言うまでもなく、魔導ギアの材料は禿山にいる亀の魔物の甲羅や爪なんかだ。
つうことで、俺らはベリル謹製の凶悪兵器——回転槍を手にして禿山を登ってる真っ最中。もちろん、うちの連中もいっしょだ。
ここまではいい。だが……。
「なんでオメェまで来てんだよ?」
「言い方ひっどーい」
なぜかベリルまでついてきやがった。
「うっせ」
「もー、父ちゃんはまったくもー。あーし暇だし手伝おっかなーって。これ親切だしっ」
「だったら兄ちゃんたちを手伝ってやれよ。こっちは手ぇ足りてんぞ」
ベリルは例の如く、俺の背負いカゴから顔を出してる。
その頭にはこないだの角が生えてて、羽も尻尾も短杖まで完全装備だ。ヒスイに『メッ』てされてただろうに。ったく。
「てゆーかー、あーしレア探してんのっ」
「レアだと?」
「たまに赤い亀いんじゃーん。前にママときたときに見っけたし。父ちゃんたち見たことなーい?」
「ああ、稀に見かけやすね」
ゴーブレがベリルの戯言に相槌を打った。
なんでか、イエーロに話す口調と大差ねぇのに、ベリルに対しては畏まってるように感じる。訓練の悪影響だろうか。
「そーそー。たぶんそれー。これもそれ材料にして作ったし」
ベリルは短杖を振って見せびらかす。
「あんな気色悪ぃ亀、食う気になんねぇよ」
「ひひっ」
「んだよ」
「父ちゃんが大喜びしてたハム、その赤い亀のお肉だし」
「——んな!」
「めっちゃ美味しー美味しーって、食べてたじゃーん」
そうか。あれがそうなのか。これからは優先的に狩らなきゃならんな。
「小悪魔殿。やはりレア、とやらの素材を使うと違うんですかい?」
「めちゃ美味しーしー」
「いえ、味じゃあなく装備の性能の話でさぁ」
「んんーおんなじー。たぶん」
「オメェ、色ばっか気にして試してねぇだろ」
「うん。まだー。兄ちゃんたち帰ってきたら実験しよっかなーって」
相変わらず兄貴の扱いがヒデェな。
「まぁ、まず見かけねぇから売りもんにはできんな。後回しでも構わねぇよ。むしろ、いま売りモン増やされたら堪らん」
「つーか今回は、素材っつーかレアの卵が目当てなんだけどー。でも見っかったらいーなーくらーい」
「卵? またスッポンみてぇに孵して育てるつもりなんか?」
「だって父ちゃんにスッポン貸してっとー、あーしの乗り物ないし。あと赤い方が可愛いし〜」
スッポンが聞いたら大喜びしそうだな。オメェにコキ使われなくて済むってな。
「なんでもいいけどよ。ただ、ついてきたからにはオメェにも働いてもらうぞ」
「まっかせてー! カッチコチに冷凍しちゃうし。お肉めちゃ新鮮っ」
ついこないだ皿割ったときの魔法か? あんときは結構(っつっても常識的な速さだが)時間かかってたはず。もう会得したのか。
コイツはホントにデタラメだな。しかしな!
「バーカ。オメェみてぇなちんまいのの戦力を当てにするかってんだ。テメェは水ぶっ掛けて切り分けた素材を洗ってりゃいい」
「ああ〜っ。まーた父ちゃんは、あーしを子供扱いしてー!」
いや紛れもねぇ子供だろうが。つうか幼児だろ、オメェ。
「キーキーうっせぇ。ゴッツイおっさんがわんさかいるんだ。任せとけばいいだろうが。なぁ、ゴーブレ」
「へい。ワシらの成長っぷりを小悪魔殿にお見せしやすぜ」
「ん……そーお。な、ならいーけどぉ……」
てな具合に、尻窄みになったベリルは背負いカゴに隠れちまった。角と尻尾の先だけピローンと飛び出したまんま。
おいおい。孫っつうか曽孫くれぇ歳の離れた爺さん相手に、なに照れてんだよ。つうか照れるとこあったか? わっけわかんねっ。
オメェは幼い娘らしく、父ちゃんのスゲェとこ期待しとけってんだ。
そんなこんなしてるうちに——
「旦那。いやしたぜ」
ブロンセから亀発見の知らせ。
すぐ見つかってよかったぜ。ひでぇ時は何日も見つからずじまいってこともあるからな。
以前みてぇに罠にかける必要はねぇ。逃げたりもしねぇし一発入れるまで大人しくしてっから、近寄ってって——回転槍で一突きだ。
「おうテメェら、バラす班と探す班、あと運ぶ班に分かれてとりかかれ!」
「「「応ッ!」」」
「あーしは?」
「オメェは、バラす班を手伝っとけ」
「ほーい」
背負いカゴから地面に下ろすと、尻尾をピコピコ振りながら解体作業してる連中に交じってった。
「おう、悪ぃがガキの面倒を頼む。コイツは流水をつくる魔法が使えるからコキ使ってやれ」
「よろー」
「「「応ッ」」」
そんなに気合い入れんでもいいのに。
こりゃあバラし班の作業が捗りそうだ。さっさと次の獲物を見つけちまわねぇと、手を空けさせちまうな。
◇
陽が高いうちに狩りを終えた。
結局ベリルが探してた赤い亀は見当たらなかったが、成果は二匹。上々だ。
しっかしそれにしちゃあ荷が多すぎる。
肉と皮、甲羅に、爪と牙……。
「おいベリル。骨まで積んでるのはオメェの仕業か?」
「そーそー」
「前に使い物にならんって放っただろうが」
「それなんだけどさー、それって武器とか防具にはムリっぽいってだけじゃーん」
「なんか使い道を思いついたんか?」
「ソールにしたらどーかなって」
「ソール?」
「えっとねー、靴底のこと。裏っかわー」
「理解した。でもどうなんだ? こんな半端に固いもん靴の裏に貼っても歩きづれぇだけじゃねぇのか」
「ちっちっちっ。カカトとつま先でパーツ分けて作るし」
「ほう。閃きがあんなら好きにすりゃあいいけどよ。だが、これ以上イエーロに負担かけんな」
「……え……あー、うん!」
また兄ちゃんコキ使うつもりだったんか。
「いやいやいや、しないってー。サンダルとかあーしでもできそーなのを、ママに手伝ってもらって作るしー」
見るに、ベリルの角も尻尾も短杖もよくできてる。なら、サンダルの出来も期待できそうだな。
「簡単に作れるんなら、うちの連中の履き物が増えて結構なことだ」
「今回はそーゆーコンセプトだし」
「そうかい。んじゃできたら知らせてくれ」
「ほーい」




