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問題幼児のブランディング案②


 いつつ……頭痛ぇぇ……。

 俺としたことが、まさかの二日酔いかよ。


「あなた。大丈夫ですか?」

「ああ。寝てりゃあ治る」

「そうですか。では、お食事がとれるようでしたら、台所に用意してありますので」


 ヒスイのやつ出掛けんのか?


「イエーロくんとベリルちゃんが、実験をしたいというので、私はその付き添いに」

「おう、わぁった。ヒスイが見ててくれんなら安心して寝てられるぜ」

「ふふっ。では『いってきます』」

「おお『いってらぁ』」


 目を瞑ると、楽しい時間だった昨晩の宴の記憶が蘇る。つってもほとんど覚えてねぇから微かになんだけどよ。

 ただ、頭んなかでは常にベリルの妙ちくりんな歌が繰り返される。

 たしか『電波ソング』とか言ってたな。精神汚染の一種なんじゃねぇのか? 耳鳴りみてぇに頭にこびり付いて離れねぇんだが……。まあいい、寝るか。



 宴会の翌々日——


「では、あーしの研究結果を発表しまーす」


 拍手しろ、そう訴える態度でベリルは踏ん反り返った。いつもどおり俺の膝をお立ち台にして。

 テーブルに乗っからねぇところはエライがよ、箱馬でも積めばいいもんを。ったく。


 ヒスイは「ベリルちゃんは天才ね」なーんて囃したてて、イエーロもなんとなく倣う。


「もーっ。父ちゃんノリ悪ーい」

「オメェが落っこちねぇように支えてっから手ぇ空いてねぇんだよ。わかれっ」

「えへへっ、そっか。ごめんごめん」


 それからベリルは「お手元の資料をご覧くださーい」と話しはじめた。

 さっきも言ったが、俺の手は埋まってて資料とやらを見られんぞ。


「父ちゃんは、あーしが持ってるの覗き込んどいてー」

「そうかい」


 なになに……。つうかヘッタクソな字だな。魔法は上手にこなすってのに。まぁ、こういうとこは歳相応ってことか。


「ええーと結論から言っちゃうとー、父ちゃんの予想どーりでしたー」


 端折りすぎだろ。


「どんな実験したかってゆーとー、ママの話でピーンときたの試してみたー」

「おうベリル。ピーンとなにを閃いたんか、どんな実験なのかを頼む」

「それをいまから発表するんじゃーん。もーっ。父ちゃんはチャチャ入れないでーっ。まったくーもーっ」


 ぜんぜん話が進まんから促しただけなのに。なんでか怒られちまった。


「あーし天才だから、まず『比較したらいーんじゃね』って思いついたし。んで、普通の革鎧と魔導アーマーで比べてみたら、魔導ギアを着てた方が運動能力が高かったってゆー結果ぁ」


 さっそく賢そうな喋り方はやめたんだな。


「次にぃ、魔導ギア同士で比べてみたってわけー。自分用のと予備の新品を着させて兄ちゃんたちで試したところー、ひひっ、どーなったか気になる?」


 いちいち勿体つけねぇでくれ。あと『兄ちゃんたちで試した』ってなぁ、もっと言い方を考えてやれよ。

 イエーロのやつ泣きそうな顔してんじゃねぇか。

 いや、ありゃあ違うな。言い草なんかじゃなく実験内容を思い出してんのかもしれん。

 ヒスイが見てたんだから、滅多なことはさせてないと思いたいが……。いったいどれほど過酷な実験をさせたんだか。


「父ちゃん! あーしの話ちゃんと聞いてんのっ?」

「聞いてるって。いいからさっさと話せ」

「しゃーないなー。えっとねー……。あれ、どこまで話したっけ?」

「使い込んだ魔導ギアと新品の性能比較だ」

「あ、そーそー。なんだー、ちゃーんと聞いてんじゃーん」

「んで、結果は?」

「それそれっ。なんと! 使い古しを着た方が動きがめっちゃよかったしっ」


 使い古しって言うな。ボロみてぇじゃねぇか。毎日キッチリ手入れしてピカピカなんだぞ。

 しかし、そうか……。


「つまり、使い込むと身体に馴染むみてぇなことが起こるってわけか」

「まだ可能性だけどねー。だからぁ〜」


 言葉を区切ったベリルは、俺の膝の上で足踏みする。クルッと一回転して向き合うカタチに。


「ん、んだよ」

「継続的に調べないといけないって、あーしは思ったわけー」

「つ、つまり、なにが言いてぇ」

「訓練中に魔導ギアを装備すんのは当たり前としてー、他にもちょいちょい体力テストしよっかなーって」

「——ひっ!」


 体力テストって響きに、イエーロが悲鳴をあげた。ったく、いったいどんなヒデェ目に遭わせたんだよ。おっかねぇな。


「魔導ギアを着たときと、そうじゃねぇときで比べるってこったな。まぁほどほどにしてくれりゃあ構わねぇよ」

「父ちゃん話わっかるー」


 いつ俺が頭の固ぇことを言った。


「んでね、とりあえずなんだけど、見積もり頼まれたのはぜんぶ作ってみよーと思ってー」

「——ちょ、ベリル待ってまって! さすがにぜんぶはムリだ」

「サイズ違いは省くからヘーキヘーキー」


 平気かどうか決めんのはオメェじゃなく兄ちゃんたちなんだがな。


「まぁ、それならなんとか……」


 あーあ。本人が頷いちまった。なら俺が口を挟む必要ねぇか。


「でー、出来がいいのをあげよーかなって」

「誰にやんだ?」

「えっとー、なんつったっけ? 父ちゃんがお世話になった偉い人でー……」

「まさかタイタニオ侯爵殿か? それともポルタシオ将軍閣下のことか?」

「それそれ、どっちもー」


 侯爵と将軍つかまえて『それ』とか言うな!


「侯爵さんと将軍さまにプレゼント〜っ」

「欲しがってたから断られることはないと思うがよ、なにが狙いなんだ? ただ贈るだけだと相手を困らせちまうぞ」

「そんなんわかってるってー」


 貴族に対する贈答ってのは、近所に野菜のお裾分けってのとはワケが違うんだぞ。ホントにわかってんのか?


 この懸念はすぐに払拭された。

 しかし、ベリルが曰う狙いを聞いて、俺は目ん玉ひん剥いて驚くハメになる。

 その狙いとは——


「王様にプレゼントするために決まってんじゃーん」


 つまり、魔導ギアをお偉方二人への贈り物にする目的は、国王陛下に魔導ギアを献上する口利きを依頼するため……ってことらしい。

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