問題幼児のブランディング案①
もうじき宴会だってぇのに……。
「手早く済ませんぞ」
こう切り出して、俺とイエーロは、現場で聞き取りしてきた魔導ギアについての感想や意見要望などを伝えてく。
質問や閃きは後ほどまとめてってことにして、まずヒスイとベリルには報告を聞いてもらうことにした。
ちなみに、ヒスイはスッカリご機嫌だ。寝床で骨折った甲斐もあってな。へへっ、俺が本気だしゃざっとこんなもんよ。
さあ、要点だけまとめてサクサクやっつけちまうぞ。なにせ宴の時間になったら、切り上げなきゃならん。
だってのに、ベリルはのっけから話のコシを折ってきやがった。
「てゆーか数がよくわかんないしー。えっと兵隊さんが二〇〇〇人いてー、なんで貴族?みたいなお客さんになる人が一〇〇もいんのー? 一人で一〇〇人とか連れてくる人いなかったとか? 王国軍の偉い人もいたんならありえなくなーい」
「ベリル、もしかしてオメェは一人で何人の指揮するかわかってねぇな」
「当たり前だしー。あーしまだ五さーい」
こういうときばっかり幼児ヅラしやがって。
「そうかい。直に指揮とれんのは、だいたい一〇から多くても二〇だ」
「父ちゃん五〇人くらいで行ったじゃーん。おかしーし」
「俺の指示を、ゴーブレやブロンセが下に伝えてんだ。あんな煩ぇところで声なんか通るわけねぇだろうが」
この程度の説明でわかってくれるから、質問挟まれても構わねぇんだけどよ。
「なるほど。それでも、やっぱし見積もり一〇〇は多いし」
「あとは二、三人で参戦してる小領の者もいるんだ。うちだって傭兵の依頼がなきゃあ、一〇も連れてかなかったぞ」
「そっかそっかー。めちゃガッテーン」
なにが『ガッテーン』だ。意味不明な言葉使いやがってからに。
「見積もりの内容についちゃあ省くぞ。写しと、種別にまとめた紙があるからあとで目ぇ通しといてくれ」
「まずは紙面でってやつねー。オッケー」
ちょいちょい挟んでくるベリルの軽口には付き合わん。いちいち構ってたら宴がはじまっちまう。
「こいつぁ、頭の片隅に入れといてもらいてぇ俺の所感なんだけどよ……」
タイタニオ侯爵殿の窮地に駆けつけるために、俺がスッポンの背から飛んだ話をした。
思ってた以上に高く跳ねちまったこと。
脳天からブッ刺した威力が凄まじかったこと。
戦場で空は意外な盲点だってこと。
その他いろいろだ。
途中から、興奮したイエーロが「オレも跳んでさ」と話を巻き取って自分の武勇伝語りになっちまったが、おおよそんとこは伝わったはず。
「それ、めちゃ竜騎士じゃーん。父ちゃんパクリだしー」
「知らねぇよ。あんときは攻撃の助走みてぇにするつもりなんざなかったんだ」
「アセーロさん。良い戦術かとは思いますけど、それと魔導ギアの話とは、どのような関係が?」
「ある。二つもな。まずフルプレートほどでないにしても鎧着て槍持った兵が、ヒトの背丈一〇を超えるほど跳んだんだぞ」
「例の魔法を使ったのでは?」
「母ちゃん。いくら『筋肉盛々』を使っても、あんなに跳べないよ。ベリルにやらされた、高いとこから突き落とされて着地したらすぐ跳ねるって拷問——」
「特訓だし!」
「……特訓でもあんなには跳べなかった」
はじめに、着たら誰でもわかる軽さが、思ってたよりも重要だったと落とし込んでいく。
イエーロが話したがるから、ある程度好きにさせた。
「そういうことですか。私はあまり戦場で動き回った経験がないので。でもイエーロくんのお話でよくわかりました」
ヒスイも腹落ちしたみてぇだ。
「で、父ちゃーん。二つめはなーにー?」
「おう。こりゃあ俺の感覚の問題かもしれねぇから、そのあたりを踏まえて聞いてくれ」
念のための断りを入れて、つづける。
「空中に飛んだときな、いや、槍を振るってても攻撃をいなしてるときも、魔導ギアが動きの補助をしてくれてるような気がしたんだ」
「あーし、そんなふーに作った覚えないし」
「だよな。でもおかしいだろ。相手が麦粒くれぇ小さく見える高さまで跳んだってのに、落ちる場所は毎度ほぼ狙いどおりって。しかもムチャした身体にガタがきてねぇ。あり得んだろ」
俺の指摘に、ヒスイとイエーロは首を傾げてる。
ヒスイは魔法以外はからっきしだな。イエーロに関しちゃ当事者だろ、おかしいと思えよ。ったく。
「それって、姿勢制御ってやつかもしんなーい」
「姿勢を整えてなんの意味があんだ?」
理解が及ばない二人は放置して、俺はベリルの思いつきを根掘り葉掘り。
その結果——
「父ちゃんが感じたとーり、魔導ギアの鎧『試作魔導アーマー零弐』は、動きを助けてくれんのかもー。空中で方向の微調整したりとかさー」
ベリルはいちおうの推論を出した。
「俺から言っといてなんだが、そんなことあんのか? いくら魔力を帯びるっつっても、ありゃあ鎧だぞ」
「あるある。てゆーか魔力注いだ装備が勝手に動くとか助けてくれるとか、めっちゃテンプレだし。もー『何番煎じ?』ってくらいやり尽くされてっから」
魔力と聞いた途端、ヒスイが話に復帰した。コイツのこういうところはわかりやすい。
「魔剣やそれに類する武具などでは、よく聞く話ですよ。魔法の発動を手助けをしてくれたり、威力を増してくれたりなどが有名です」
「なるほど。てぇことは確かめる必要があんな。ベリル、宴んときに聞いて回ってみてくれ。結果ありきじゃなく、自慢話させる感じでよ」
「りょー。ひひっ。おっちゃんたちってば、あーしにメロメロだから余裕だし。リサーチはお任せーっ」
ベリルは背筋伸ばして額に手を当てて、妙ちくりんなポーズをとった。どうやら敬礼のつもりらしい。
「てか父ちゃん。結果次第だけどさー、魔導ギアの鎧は売らないほーがいーかも」
「そうだな」
「え? 売らないの? いっぱい見積もりもらったのに?」
「慌てんなイエーロ。盾や武器、あとは兜くらいまでは売る。だが鎧はダメだ。説明できんもん売って文句つけられたら堪らんだろう」
「そうだけどさ……。でも一番高く売れるよ」
そこをツッコまれると弱ぇんだが、でも却下だ。
戦士の力量を増しちまうかもしれん鎧を売るなんて、んな怖しいマネできるわけねぇ。相手が装備してくることもあるんだぞ。
もし俺の予想どおりだったら、腕の立つヤツが着込んだとき手がつけらんねぇ敵になりかねん。
「あなた。そろそろ」
「ああ、そうだな。ここらで魔導ギアの話はひとまず終いだ。つづきは明日……いや、明後日に今後の方針を決めんぞ。それまでに思いついたことをまとめといてくれ」
「はーい」
「わかったよ」
さあ、こっからは楽しい楽しい宴会だ。
ベリルにゃあ仕事を言いつけてあって申し訳ねぇが、今回は俺ら傭兵団の祝勝会だからな。貧乏くじ引いといてくれ。




