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戦場でデモ販する父⑬


 ようやくお待ちかねの実演だ。


 将軍閣下が気ぃ利かせてくれて、魔導ギアに興味もった全員を集めてくれた。その前で性能を披露する。

 ある種の余興みてぇになっちまったが、構わねぇ。さあさあ見て驚け!


「この魔導ギア、魔力を帯びることによって、その強度や鋭さが増します」


 宣伝用にってベリルに持たされてた実演材料を使って、わかりやすく。

 例えばこんな具合に……。


「ご覧ください。まずは、このハルバートの斧部に薄布を被せます」

「手入れの簡単さはもう見たぞ」

「斧で布を? まさか切るのか?」

「いやいや、薪ではあるまいし」

「しかし鉄兜ですら真っ二つだったぞ」

「あれは押し切っていたのでしょう」


 言いたいことを言わせとく。

 ムリだろってヤジが多い方が面白ぇ展開になるのは実証済み。うちの連中も俺も、ベリルにいいように踊らされたのは苦い思い出だ。


 つづきを催促する空気になるまでは、黙ってじっと待つ。


 いい感じに注目が集まる頃合いを見計らって、つづきを煽る。


「さぁ、みなさん……。見逃しご注意っ」


 この発声に、一斉に視線が斧部にかかった布に注がれた。


「驚く準備はいいですか? 財布の紐も緩めといてくださいよ」


「「「…………」」」


 肩透かし食らわすような軽口を挟んでみるが、誰ひとり反応しない。俺の胡散臭い口上、その嘘を看破ってやろうって目ぇ皿にしてやがる。それでいい。


 …………ゴクリ。


 注目に焦れったさが交じったところで——


 不意に魔力を軽く流してやると、


「「「——なっ⁉︎」」」


 ハラリハラリ。薄布は二枚に分かれた。


「ここ、こ、これはどういうことだ!」

「トルトゥーガ殿は斧槍に触れていただけだぞ」

「不可視の切断魔法か⁉︎」

「魔法発動の兆候はなかっただろっ」

「ではなぜなのだ!」


「「「トルトゥーガ殿っ‼︎」」」


 俺の実演よりわかりやすい反応を、どうも。

 ベリルが手本見せたとき、ドヤッとしたツラぁ向けてきた気持ちがわかるってもんだぜ。へへっ。こりゃあ気分爽快だ。


「斧部の切れ味が変わったのです。先ほど説明したとおり、魔力を通したことで鋭くなった結果、この薄布の自重で切断されました」

「そ、そんなことが……っ」

「……あったのだから驚くしかないであろう」


 驚きついでに、忘れず財布の紐も緩めといてくれよな。


 ちなみに、驚愕する面々とは別の席で将軍閣下とタイタニオ殿はご覧になってる。即席の貴賓席みたいなもんだな。

 おかげで、王国軍にくっ付いてきた傭兵団のような連中だって遠慮なしにこの場にいてもらえてるってわけだ。お二人の気遣いに感謝だ。


 このあとも、重量が変化するのを体験してもらったり、木板の上に逆さに立てた斧槍の重さで穂先が食い込んでいく様子なんかを披露した。


 その結果、


「「「——して、いくらなのだっ?」」」


 お偉方二人とおんなじ反応を得た。大成功と言っていいだろ。


 しかし、ここまできた時点でお偉方二人が口を挟んでくる。


「まてまて待て、まぁ待つのだ」

「そうだぞ諸卿ら。これほどの武具、トルトゥーガ傭兵団で数を揃えるのにも大変な苦労があったであろう」


 たしかに……。なぁんて呟きも聞こえてくる空気になった。

 だがすまんな。苦労したのは息子のイエーロとその一党の悪ガキたちだけなんだ。いちいち言わねぇけどよ。


「諸君らも見たとおりだ。魔力を帯びさせるだけであれほどの性能を示し、さらには手入れも楽とくれば、ここはミネラリアの平和を保つ我々王国軍の将兵にこそ優先的に配備されるべきだとは思わんかね」

「お言葉ですが将軍閣下、我々も領民の矛となり盾となる領軍の増強を計らねばなりません!」


「「「そうだそうだ!」」」


 おうおう、こりゃあまずお目にかかれない光景だな。抜け駆けしようとした将軍閣下が下のモンに責められるなんてよ。


「し、しかしのぉ……」

「どうでしょう、将軍閣下。まずはいかほどの値がするのかを確認してみては? 予算の都合もありましょうし」

「タイタニオ侯爵殿の言うとおりかもしれんの。してトルトゥーガ殿、未だ勿体つけておる件の魔導ギアとやらの値は?」


 さあて、どうするか。

 持ち帰ってベリルと相談したいところだ。この反応を伝えて『いくらにすんのか』まずその意見がほしい。


 材料なんか禿山に唸るほどあるんだし、作んのだって革鎧より楽なんじゃないか。

 だとしたら手頃な値をつけちまいそうなる。だが、なるべく高く売りてぇところ……。


 悩んだ挙句、俺は一部だけ正直に話すことにした。


「実は、まだ販売価格を決めておりません」


「「「……え?」」」


「ふむ。なるほどの。たしかに試作品と言っておったしのう」

「ええ。すみません。ですが可能でしたら魔導ギアをご覧になったみなさんの感想や『こういった装備が欲しい』などの意見や要望をいただけると……。図々しい申し出なんですが、今後の参考に」

「——ではこうしましょう。まずは製作して欲しい武具と必要な数を伝えて、その可否を含めた見積もりを返事にいただくということで」


 上手いことタイタニオ殿がまとめてくれて、スンゲェ助かった。


「聞くと、トルトゥーガ殿は大層な愛妻家らしい。領地の豊かさを左右しかねない品の値段は、一度持ち帰り大魔導殿と相談するべきであろう」


「「「——だ、大魔導殿っ⁉︎」」」


 それは致し方ない、そんな顔を揃って向けられちまったぞ……。


 おいタイタニオ殿、これだと俺は愛妻家じゃなく恐妻家みてぇじゃねぇか!

 誰が女房を怖がるかってんだ。夜は俺の腕んなかで鳴く可愛い女なんだぞ、ヒスイは!


 つうか、そもそも相談する相手を間違えてる。しかしここで五歳児に話してみるとは……言えねぇよな。


 ヒスイの雷名でゴタついた感じが収まるってんなら、余計なことは黙っておくか。

 俺は女房の尻に敷かれてるってぇ不名誉を甘んじて受け入れねぇとならんらしい。アイツのデカ尻の敷物なら悪くねぇ。そう思っておこう。


「では、お聞かせください。いまのところ完成しているのは、我らトルトゥーガ傭兵団が装備している鎧と斧槍のみです。色は白黒黄色の三色のみで、形状はある程度の自由が利きます」


 見積もりだけって気軽さもあってか、みんな遠慮なしに数量もカタチもぶっ込んできた。

 ホントに買ってくれんのか心配になる数だ。

 もし丸っと受注したら、いまの進捗で作ってったとして、納品までにはイエーロの代どころか孫の代までかかっちまいそうだぞ。


 こりゃあ本当に、うちの若い連中に傭兵以外の食い扶持を作ってやれるかもしれねぇな。

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