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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第一章

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戦場でデモ販する父⑫


 今日で、ほぼ戦の勝敗は決した。


 勢いづいた右翼がグイグイ敵陣営に食い込んでいくと、中央も左翼も拮抗が崩れてオーク側の前線が崩壊。

 じゃんじゃか逃げてくところを追い立ててヤツらの砦まで詰めたら、終い。

 あとは、まだ砦にこもってる残党が魔道士殿らの魔法の的にされるだけだ。

 


 日暮れごろ——


 意気揚々と陣地へ戻った俺らを出迎えてくれるのは、昨日とは打って変わって褒め称えるような空気だった。

 それともう一つ。


「トルトゥーガ殿のご活躍、とくと拝見させてもらったぞ」

「いやはや見事なものだったな」

「して、やはり装備が違うのだろうか?」

「おおっ、それよそれっ。ぜひとも話を聞かせてもらいたい」

「貴公、抜け駆けはいかんぞ」


 っつう調子で、魔導ギアに興味津々な各領主たちによるヨイショ。


 話すのは吝かじゃないどころか大歓迎なんだが、いかんせん腹が減ってるんだ。もう少し待ってもらいたいんだけどな……。

 ただでも不味い戦場メシ。せめて、冷めて固くなる前に食いたい。


「これこれ諸卿ら落ち着きたまえ。あれだけの活躍のあとだ。さぞ空腹であろう。どうだねトルトゥーガ殿、食事を用意したのだが」

「ふむ、ならば私も同席させてもらおうかのう」


 右翼指揮官タイタニオ侯爵殿は俺をメシに誘ってくれた。そこへミネラリア連合軍総指揮官であるポルタシオ将軍閣下が加わることで、他の面々はいったん引かざるを得なくなる。

 俺も釣られて下がりたくなったくらいだ。わだかまりも解消できて多少は戦地でやり取りできたが、偉い人たちとのメシか……。

 俺のくたびれた身体より宣伝の機会より、優先するべきだよな。


 宣伝に関しちゃあ、また明日にすればいいか。どうせ明日以降は、猪豚種共に睨みきかせてるだけ暇こいてるだけだしな。


 ゴーブレに『晩飯は侯爵殿と将軍閣下と共にする』って旨を伝えて、俺は招かれるまま陣幕へ。


 そこにあったのは、とても戦場で食うメシとは思えない豪華な料理の数々。つうか我が家じゃあ滅多に食卓に並ばねぇような品々。

 いや、べつにヒスイのメシに文句があるってぇわけじゃなく、心底『金持ちってスゲェな……』って驚いたんだ。


「将軍閣下、こちらへどうぞ」


 さすがに召使いは同行させてないようで、侯爵自らイスを引いて将軍閣下に席を勧めた。


「トルトゥーガ殿もかけてくれ」


 将軍閣下の右側に腰掛けたタイタニオ殿の声を受けて、俺は向かいの席に座る。


「給仕もいない席だ。体裁など気にせず、遠慮なく召しあがっていただきたい」

「ふむ。しかしさすがはタイタニオ侯爵殿だ。戦場でここまでの料理を用意させるとはの」

「まったくです」

「命からがら生還させてもらったのだ、贅沢くらいするさ。さぁ冷めてしまう前に」


 思わず『いただきます』と言いかけちまったが、喉元ギリギリで抑えた。


 ナイフとフォークを手にして、目の前の肉料理から食っていく。

 きっと下味を付けてから丁寧に火を通したんだろう。めちゃくちゃ美味い。そのまんまでもソースを絡めてもイケる! 侯爵であるタイタニオ殿が贅沢って言うだけはあるな、うん。


 こういう場だからか武人気質だからなのか、二人共揃って食事の行儀は微妙。これならベリルの方が品よく食うまでありそうだ。

 

 いつもならメシが足りんといけねぇから、ガキ共が腹いっぱいになるのを見計らったあとにおかわりぶんを平らげる。

 だが、いま目の前に用意されてる料理は、どんだけ食っても無くなりそうもねぇ。


 ちょいちょい思い出す家族のことを頭の片隅に追いやって、俺は美味いメシをガツガツ頬張ってった。


 するとタイタニオ殿からの視線に気づく。


「あ、いや失礼。トルトゥーガ殿は、食事の所作に於いても大胆かつ洗練させているのだなと思ってな」


 お、おう……。ちょっくらガッつきすぎたか。


「教育熱心な女房に、ガ、子供の躾けに託けて仕込まれまして」

「トルトゥーガ殿の奥方というと……」

「大魔導殿であるな」

「——だ、大魔導殿の伴侶であったか⁉︎ いや驚いたっ。だが、納得もしたぞ」


 しれっと出ちまったが『大魔導』っつうのは、うちの女房であるヒスイの二つ名だ。俺の代わりに将軍閣下が答えちまったけどよ。

 ヒスイはこの呼ばれ方を極端にイヤがる。でもよ、残念ながらこの二つ名がミネラリア王国では一番とおりがいいからな……。


 しかし驚くのはわかるが、納得ってなんだ? メシ食うのに行儀と魔法は関係ないだろ。


「ガッハッハ。トルトゥーガ殿は自己評価がまだまだ低いようだ。奥方の評価についても、のっ」


 ヒスイの魔法の腕がヤバいのは重々承知したうえで一緒になったんだ。最近はもっとヤバそうなのが産まれちまったがよ。

 相当な有名人だったことも知ってる。これでもまだ足りねぇってか。


「どういうことでしょう?」

「大魔導殿はどうしても魔法の腕ばかりに注目が集まってしまうが、彼女の出自は南方妖精種(ダークエルフ)だけでなく、東方の流れもくんでおるのだろう」

「東の地では、魔法と体術や剣術を融合させた技を使うという。私が納得したのは、その流儀を修めたからこそ、トルトゥーガ殿が率いる兵らの軽技や妙技があったのだと理解したからだ」


 なるほど。俺らの動きを、ヒスイが東方の技を仕込んだもんだと思ったわけだ。

 それ、実はぜんぜん違うんだけどな。

 まさか五歳児に、いいオッサンたちが扱き倒された結果だとは思うまい。


 ここは曖昧に頷いておく。俺ら傭兵団の沽券に賭けて。


「なにより昨日も誇っておった装備品よの」

「ええ。自分の目が曇っていたことを実感させられました。トルトゥーガ殿、改めて詫びさせていただきたい。生命を預ける武具を貶したこと、まっこと申し訳なかった」

「いやいや頭ぁあげてください、タイタニオ殿。ポルタシオ将軍閣下もニタニタ笑ってねぇで、なんとかしてくださいよっ」

「貴公、ずいぶんと言葉が乱れておるぞ」

「んなもん、あとでいくらでも謝りますからっ」


 しばらくつむじを向けられたまんまの気まずい時間を過ごして、ようやくタイタニオ殿は詫びを引っ込めてくれた。


「あの件を謝られたら、俺はタイタニオ殿に一発キツいのをもらわにゃならんでしょうが」


 ってのが、決め手。

 たいそうツボにハマったみてぇで、将軍閣下はゲラゲラ笑ってやがった。

 ったく。さっさと止めてくれりゃあいいのによ。そもそも『水に流せ』って言った張本人だろ、アンタは。


「さてさて、誼を通じたところで」

「私もトルトゥーガ殿に伺いたいことがあるのだ」


 なんだなんだ? お偉いさん二人揃って、妙な圧をかけてきやがったぞ。


「「して、いくらなのだ?」」


 おお! 降って湧いたように魔導ギアの商談の機会が到来かっ。

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