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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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スモウ大会、決勝①


 ベリルにはちゃんとヒスイが言含めておいてくれるだろう。

 アイツもガキだけどそこまでのガキじゃあねぇ。イエーロが望み、それにモモタ殿が応えた結果だってのくれぇ理解できるはず。

 ちぃとばかしキツめの決着にはなったが、そいつも受け入れるべきモンだとわかってもらいてぇところだ。


 決勝までに挟む休憩時間のあいだ、そんな心配をしていると、


「トルトゥーガ殿。ご子息のことだが……」


 当のモモタ殿が言いにくいそうに。

 加害者意識でもあるのかい?

 ったく。あれほど厳しいマネもできるっつうのに人がいいこって。


「気に病まんでくれ。イエーロだって反則紛いのエグい攻めしてたじゃねぇか」

「……うむ」

「アンタほどの御仁から本気の片鱗でも引き出せたと思やぁ、アイツも本望だろうさ。で、届かなかったのは息子の力不足。それだけだ」

「さようか。栓のないことを申したな」

「ああ、まったくだぜ」


 この気遣いを俺との試合中にもみせてくれりゃあ楽なんだけど、そいつぁ期待感薄か。



 ヒスイがイエーロんとこ行っちまったんで、俺らは宮廷魔道士たちによって癒やされた。さすがの腕で、もうバッチリ動く。


 いったん席を立った観客たちもチラホラ戻ってきて、そろそろ決着つける時間が近いと知らせてくれた。



 いまさらだが、このスモウ大会は奉納試合っつうことで祭壇の前で行われている。予選から全試合を対象にしてても、やはり決勝は別格らしい。


 初日にやった選手宣誓と同じふうに全員起立して、祭壇へ、それぞれの敬意を示す。


 ガシャ、ガシャンガシャン。


 そんな厳かな空気に不似合いな物音を立てるヤツが約一名。もちろんベリル……、か⁇

 こう俺が首を傾げちまうのもしかたのねぇこと。だってアイツ、全身を妙な甲冑で包んでるだもんよ。


「ほう、見事な。大鎧であるか」


 モモタ殿は知ってるらしい。

 つうか、そもそもベリルが着てるんだから大きくはねぇ。


 朱色に黒や藍色が交ざった色合いで、作りはいろんな素材を編み込んだり縫いつけたりしてるのか。

 肩を守る部位や丸っこく腹を覆う胴部分が特徴的だ。

 そして角付きのド派手な兜には——


『これ、まえだ、って書いてあるし』


 それ、模様じゃなくて文字だったんだな。

 たしかカブキ御免状んときにも似たようなこと言ってた記憶があるぞ。


 あとは手にした扇みたいなモンは、


『こっちは軍配ねー』


 だそうだ。


 格好はどうでもいいと流しきれんかったから気にしちまったけど、実際どうでもいい。

 ベリルの機嫌は治ったのか? 治ったっぽいけど……。そっちの方が気になる。


 そんなふうに俺の危ぶむ心中を察したのか、祭壇に向けた礼を終えると、ベリルはこっちへノシノシ歩きでガシャガシャけたたましくやってた。


「モモタロさーん。さっきはヘンな態度とっちゃって、マジごめーん」

「気にしておらぬよ。ベリル殿が兄君を案ずる気持ち、至極当然である」

「いやいや、そーゆーんじゃねーし〜。つーか兄ちゃんに叱られちったもーん」

「ほう。あの優しそうな兄君がか」

「そーそー。兄ちゃんのクセにー、あーしに『真剣勝負の結果がどーのこーの』って説教くれちゃってさーあ、めちゃウザかったし」

「カッカッカ。であるか」


 さて、胸の(つか)えは取れた。これで気持ちよくスモウとれるってもんだぜ。

 と思いきや、ベリルは俺も手招きして魔導メガホンに拾われんようコソコソ話す。


「でねー、決勝戦をドラマチックにするために、兄ちゃんのカタキ討ち的なバチバチな空気にしたいわけー。あーしも煽るし、そーゆー方向で父ちゃんもモモタロさんも、よろー」


「「…………」」


 目を合わせると、モモタ殿は困り顔。俺もそうは変わらんツラしてると思う。


「なぁベリル、それを観客いる前で相談してたらヤラセ臭くてしかたねぇだろ」

「そんくらいがちょーどイイんだってー。マジモンのケンカとか見ててチキぃし。二人ともちゃーんと話合わせてねっ。んじゃ、そゆことでっ」


 好き勝手言うだけ言って、ベリルは解説席へ戻ってっちまった。


「モモタ殿、なんかうちの娘がすまん」

「カッカッカッ。よいではないか。祭りは祭り、しかも神事なのであろう。勝負とは別に考えるゆえ」

「ああ。土俵の上では茶番なしだ」


 仕込みの様子を見せてるからこそ、安心して楽しめるってこともあるらしい。

 まっ、ガキも大勢見てるんだから、こんくれぇでちょうどいいのかもしれん。


『……ダメだったし』


 なにを深刻そうに。嘘くせぇ。


『おや、ワシには和気藹々と——』

『ぜんぜんだし。父ちゃんってば兄ちゃんのカタキとったるでーって、あーしの言うことちっとも聞いてくんないの』

『え? あのトルトゥーガ殿が⁇』


 こっち見られてもよぉ……。

 困った。割と本気でどうしていいのかわからん。ええっと、ゴタ起こすときどうしてたっけ? メンチでも切っとけばいいのか⁇

 苛ついてもねぇのにムリだろ。いざやってみるとなると、ケンカの売り方なんてわからんもんだな。


 俺がいきなりのムチャ振りに困惑してると、モモタ殿はバサリと東方の服を脱ぐ。そんでもって、細く締まってはいるが鍛えあげられた強靭な肉体を披露した。


「「「キャ〜!」」」


 で、一部の女衆が喜ぶ。


『ほーほー。ナイス細マッチョだし。てゆーかー、凶器とかマジよくないじゃーん。だからあーし、危ねーしって正々堂々パンイチでやるよーに説得してきてー』


 …………。


『説っ得っ、してきて〜』


 つまり俺にも脱げと。


『あなたー! 正々堂々よー!』


 なぜヒスイも煽る。

 つうか、どうして観客席じゃなく解説席(そこ)にオメェがいるんだ⁇


『いっけね。そーいや紹介すんの忘れてたし。決勝戦の解説はママに頼んどいたから』

『いやはや、よく大魔導殿が受けてくれたのう。しかし、東方の技にもトルトゥーガ殿の体術にも詳しいという点では、これ以上はない解説役だの』

『でっしょー。ゆーてあーしのお願いだかんねー。ママも断れねーし。てかさー、父ちゃんまだなーん』


 ウヤムヤになるかと思ったが、逆効果。

 俺にだって羞恥くれぇある。観衆の前で無意味に脱ぐのは、けっこう抵抗あってだな……。


 と、機を逸してしまったことを後悔してたら、


 ——スパァァァン!


 モモタ殿がテメェの胸板を打って、挑発してきてくれた。

 面倒かけちまってホントすまん。とにかく、これに乗っかって勢いよく脱ぐしかねぇ!


 普通に脱ぐだけじゃあ許されん空気に流され、勢いよく上着もズボンも破り捨ててやった。いちおう下履きは残してあるぞ。

 ほれ、これでいいんだろ。


 あとよ、べつに構わんのだが、俺が脱いで黄色い声をあげたのは女房のみ。あとのほとんどは野太い騒めきだけだった。べつに構わんのだけど。


『うんうん。お相撲さんはこうあるべきだし。さーて、兄ちゃんのカタキ討ちに燃える父ちゃんか、横綱の座を狙う東方からの刺客か、どっちが勝つのか! 大注目の一戦がはじまるし‼︎』


 ……。この様子だと、まだまだ茶番に付き合わされそうだぜ。

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