表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

337/339

スモウ大会、準決勝④


 さすがに三度目はなかった。


 致命的な損害こそ出さなかったが、鳩尾狙いの前蹴りはモモタ殿に捉えられ、逆にイエーロは腹打ちをもらう。


 だってのにアイツは未だユラユラと、表情に至ってはさらにヘラヘラと。

 そんでもって、またおんなじ展開へ。


『つーかモモタロさん、張り手すんのもはじめてじゃね』

『先の突きは、逆技を仕掛けるための崩しだったのではないかのう』


 ポルタシオ閣下が言ったので半分正解だ。

 その証拠に、


「イエーロ殿。某は未熟ゆえ、これ以上は加減ができぬぞ」


 モモタ殿が甘っちょろいことを言いはじめた。つまり転かすに留めておくのが難しいってだけで、強引に関節を圧し折ることはできたんだ。


「アハハッ。そこをなんとかお手柔らかに」


 このヌルい口ぶりとは裏腹に、イエーロのツラは相変わらず余裕を保っている。

 まさかモモタ殿の手心につけ込もうってつもりでもねぇだろうし、いったいなに考えてやがる?


「貴殿の狙いは承知しておる。しかし、それは戦場に立つ者の考え方ではなかろうて」

「わかりませんよ。モモタ殿が大将首なら、どうですか?」

「生き残ってこその武術。某の極めんとするところとは異なるゆえ……」

「では、意地のぶつかり合いってことで」


 そこらで立ち話してるような穏やかさで、再びイエーロから——


 触れにきた手を弾き、モモタ殿は蹴りの起こりを潰しにいく。軸足の指を鋭く踏み抜いた。


 が、イエーロはピクリとも痛みを見せず、対角の腕をしならせて打ちおろし。


 スパンッと肩口を抉る平手打ちをモモタ殿は取り、指から手首、肘、肩と一気に極めにいく——


 と——————ゴギッ!

 鈍い音が響く。どうやら極められたどれかが折れた。

 だってのにイエーロは、ヒュンと脚を巻きあげ変則蹴りを返す。そいつは脇腹を掠め、再び互いの距離を取り直すキッカケに。


「まだ、ヤルというのだな」

「……ッ…………。ええ、やりますよ」

「カッカッカ、であるか。天晴れ」


 深く腰掛けといてよかったぜ。でもなけりゃあ、いまごろ止めちまってたかもしれん。


『ちょっと! 兄ちゃんマジやりすぎだってー。もー負けでもいーじゃん!』

『ベリル嬢。試合の最中であるぞ』

『はあー! なに言ってんのさ! 腕ボギィいってんでしょーがっ。ムリだってー。つーか父ちゃんもママも観てないで早く止めてよーっ』


 観客も、半数以上がベリルと同意見らしい。

 だが俺もヒスイも動かねぇよ。


「ベリル‼︎ 黙ってろ!」

『でも兄ちゃん腕っ——』

「折れてても打てる。これが親父ならオマエは止めないだろ。だから見ていてくれよ、なっ」

『…………でも!』


 まだ納得いかん様子のベリルは放って、イエーロはモモタ殿の間合いへユルユル歩んでいく。

 いいのかイエーロ。そこまで啖呵きったからにはモモタ殿に加減はねぇぞ。


「うちの妹が水差してしまい申し訳ありません」

「ベリル殿の言い分、某には尤もに聞こえたが?」


 ほれ。嗜めてはいるが、それだけだ。

 さっきの、少なくとも四つ極まったうちから一つ折ったのは最後の警告だった。それでも止まらんなら、あの御仁は厳しくするのを躊躇わん。


 それでもイエーロは仕掛けた。


 なんと——約束事を違えての顔面蹴りを!


 しかしあっさり躱される。これは当たっとらんので反則にはならず。

 そこまでを含めた行動によって、なにをしてでも勝つっつうアイツの明確な決意を突きつけちまう。


 モモタ殿は円を描く軽やかな動きで脚を取り、

 ——ベキボギッ!

 一発で使いモノにならなくした。

 いったいいまイエーロはいくつ折られたんだ⁉︎


 だが、ここまでぜんぶがアイツの張った伏線だったらしい。

 おかしな方へ向いちまった脚をそのままに、反対っ側で跳ね——


『『『首っ⁉︎』』』


 イエーロは脚を絡めて締めにいく。

 グルンッと背後へ周りこみ、膝を曲げて。


 こうなっちゃあモモタ殿はヘタに動けん。

 仮にイエーロを先に地面につけようと倒れこんだら、アイツは宙へ逃げるだろう。かといって体軸を使わん腕力のみでは関節を極めきれねぇ。

 折れた脚で締めにいってる時点で、腹ぁ括ったイエーロに痛みなんぞあってないも同然だ。半端な打撃は、文字通りテメェの首を絞める結果になる。


 どっちも顔色が悪ぃ……。


 脚以外をダラリと緩くしたイエーロの重さが、モモタ殿には大きな苛みになっていて、そいつがゴリゴリ体力を削っていく。

 息継ぎもままならん状況で己を倍する負荷を支え、カタカタ膝が笑う。


 もしや捨て身のイエーロが決めちまうのか?

 そう思った矢先、状況は一変。


 苦し紛れに——俺にはそう見えた——モモタ殿はイエーロの脛と足の甲に触れる。


 と、


「痛ッ————ッ、苦ッ、ッ——」


 なぜかイエーロの身体は丸まり、反りかえり——


 クルリと反転したモモタ殿は両膝の逆関節を極め——


 ズンッッ! と、地面から響く鈍い音。

 背中から叩き落とされたイエーロは、地面に真っ逆さま。


「「「………………」」」


『…………しょ、勝者はモモタ・タロウ殿』


 立ち合い人は勝ち名乗りを、ポツリ呟くのがやっと。


 よく見ればイエーロの脚には二つ窪みが穿たれていた。そして、土には深くめり込んだモモタ殿の足の指の跡も……。

 

 いったいモモタ殿はなにした⁇

 あまりに急な展開に頭が追いつかん。


「——父ちゃん‼︎ 早く土俵から降ろしたげてっ。兄ちゃんマジヤバいし!」


 解説席から飛び出したベリルに怒鳴りつけられて、俺はようやく我に返る。


「揺らしちゃダメ!」


 なるだけ早く、でも丁寧にイエーロを土俵から運びおろすと、すぐさまやってきたヒスイが最上級の治癒魔法をかけた。


「…………っ。………オレ……」


 事なきを得たのを確認した会場中からは、安堵のため息が。


「兄ちゃんめちゃコテンパだったし」

「……そっか。負けちゃったか」


 さすがにベリルももうなにも言わん。

 

「イエーロくん。よく、ガンバりました」


 治りたての身体をヒスイに支えられて、イエーロは控え室へ。


『ベリル嬢。あとの案内はワシらが』


 こんなポルタシオ閣下の気遣いもあって、ベリルは二人の背中を追っかけていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ