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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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スモウ大会、準決勝①


 一晩明けて——今日はスモウ大会の準決勝と決勝戦。予定されてんのは三試合だけだ。


 ついこのあいだはギュウギュウ詰めだった控え室が、いまはガランと。

 だってのに、これまでにはねぇピリついた空気に満ちている。そいつぁ、


「お待たせし——……しました。きゃ、客入れが終わりましたので、みなさま会場へお願いします」


 呼びにきた係の者のツラが引き攣るほどだ。


 まずウァルゴードン殿が立ち、イエーロがつづき、俺とモモタ殿はゆっくりと。


『おおーう。きたきた〜!』

『うむ。皆よい顔つきだのう』


 実況解説席は昨日と変わらず、土俵と同じ競技場に設けられてた。

 今日もケッタイな格好してんな、アイツは。


「これは驚いた……巫女様の装いとは……」


 ここまで感情が揺れてるところをほとんど見せなかったモモタ殿だが、ベリルを見て驚いてるようだ。あれって東方の衣装なんだろうか?

 ちなみにその服装は、


『いぇいいぇーい。緋袴とか、めっちゃ神事っぽくなーい。幼女の巫女コスに需要あんのか微妙だけど〜』


 だそうだ。なんぞ紙切れを括りつけた棒も振り回している。

 どうでもいいけどよ、おバカっぽくご機嫌に話すさまはてんで神事らしくねぇぞ。


『そーそー。今日は試合ごとにゲスト呼んでるし』

『ほう。それは初耳だのう。というかベリル嬢、そういうことは先に話しておいてくれんかの』

『ひひっ。サプライズゲストだもーん』


 うちの問題児にポルタシオ閣下も手を焼かされてるようだ。すんません。


『じゃーさっそく準決勝第一試合、父ちゃん対ワル辺境伯戦の実況をお手伝いしてくれんのは——』


 俺らが出てきたのとは別の入り口から現れたのは、


『残念だけどベストエイトで負けちゃった、初代横綱のサボリ関でーす! わーぱちぱちぱちー』


 プラティーノ殿下かよ。

 いくら陛下肝煎りのスモウ大会とはいえ、第一王子ともあろうお方がなんと腰が軽い。


『ほら、イケメン要素足んないと客足にも響くじゃーん』


 こっち見んなや。テメェ、暗に俺らのツラを揶揄してんのか? つうか遠慮なしにそう言ってるよな、おうコラ。


『ひひっ。父ちゃーん、そんな怖い顔しちゃや〜ん。だってしゃーねーし。オッサン率が七割越えなんだしさーあ』


 たしかに若いのはイエーロだけか。

 いや待て、ベリルは忘れちまってるかもしれんがな、実はウァルゴードン殿はイエーロより少し上くらいで、まだまだ若僧なんだぞ。


「…………フンッ」


 ほれみろ。ちっと怒ってんじゃねぇか。


『ねーねーサボリ関はこの試合、どんなふーになるって予測してんのー?』

『そうだな。技のトルトゥーガか、力のウァルゴードンか……』

『うへー、ありきたりー』

『そう言うベリルはどうなのだ? ポルタシオも申してみよ』

『そうですな……。殿下の予想と似ておりますが、トルトゥーガ殿の妙技が観られるかと』

『ひひっ。たぶんそーはなんないんじゃないかな〜。だって父ちゃん負けず嫌いだもーん。ワル辺境伯もだけど〜』


 アイツを好きに喋らせておいたら、俺の手の内ぜんぶ話しちまいそうだぜ。

 まっ、


『まっ、あーしから言えんのは〜、バッチバチになんじゃねってことくらいだし。あとは試合を観てのお楽しみってことでっ』


 そのとおりだ。


「——親父っ」

「ひと足先に決勝で待ってるからよ。いまはテメェのことだけに集中しておけ」


 イエーロから仕切り線に立つ俺に声がかけられる。

 どうやらコイツにはわかっちまったか。だったら親父の矜持を黙って見とけ。

 とはいえ、べつに隠すようなことでもねぇから構わんけどよ。仮にウァルゴードン殿が知ったとしても展開は変わらねぇさ。


 だって俺は、


『見合ってみあってー……はっきょい——のこった!』


 真っ向から受けて立つ気ぃ満々なんだからよ。


『どっちもノシノシよってってからの〜……ガンくれあーい! めちゃヤンチャ、マジどっちも野蛮人丸出し〜!』


 ギリギリでメンチきると——ダムッッ!

 ウァルゴードン殿の張り手。胸で受けてやる。

 すぐさまお返しに——ダムッッ!


『ベリル嬢が言っておったのは、これか⁉︎』

『やっぱしこーなったぁあああー!』

『これではスモウというより……』

『ド突きあいだし』


 スモウの約束事なんざ関係ねぇ。

 一歩でも先に退いた方の負け。俺らは暗黙のルールんなかで意地を張り合ってんだ。


 蹴りもなしで、ただただド突く。


『ふぉおお〜う! めちゃ盛り上がってきました〜! やれやれ〜イケイケー!』


 どこに当たっても急所になっちまう一撃。それほどウァルゴードン殿の張り手にはリキが込められてる。

 避けも躱しもせんが、ぜんぶまともに食らってやるまでの義理はねぇ。だってめちゃくちゃ痛ぇんだぜ。

 だから、胸骨が歪んじまいそうな強烈な一撃を——食らった勢いそのまんまお返ししてやる!


『父ちゃんカウンターしてっしー』

『返し技のことかの?』

『まさかトルトゥーガには効いていないと?』


 効くは効いてんぞ。


『んっとね、ドンッてされた勢いも利用して反撃みたいな感じ。だから躱してクロスカウンターみたいのとはちょい違うし。でも!』

『つまりトルトゥーガの掌には、常以上のチカラが乗っている。というわけだな』

『わけだし』


 おんなじ返し技されねぇように、身体の芯を狙って打ってる点も忘れねぇでくれよ。


「クッハッハッハ‼︎ いいぞトルトゥーガ。そうこなくてはなっ。我と真っ向からやり合えるのは貴様だけだ!」


 くっそ。ちっとくれぇ痛がればいいもんを。


「うっかりアゴ先を潰しちまうかもしれねぇぞ。つまらねぇ口を叩くなや!」


 さぁ、こいつぁしんどい意地の張り合いになりそうだぜ。

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