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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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スモウ大会、準々決勝⑧


 ムチャ振りされたブロンセをそのままに、


「やり遂げた男が女子(おなご)へ想いを告げる。素晴らしきかな」


 モモタ殿は勝ち名乗りを受けたらすぐに土俵から降り、俺の隣に腰掛けた。で、どういうわけか「天晴れである」と。


「てっきり不心得者とでも言うと思ったが」


 つい意外感をそのまま口にしちまった。


「カッカッカ。勝敗は兵法家の常。それに『試合が終わればノーサイド』という言葉もある」


 なんだかベリルが言いそうなセリフだな。


 さて、土俵に取り残されたブロンセはといえば……。


『さーさー告っちゃってー。あーしら見守るのに徹してるし。空気くーき。だから気にしないで一世一代のプロポーズを、どぞっ』


 ずいぶんと野次馬根性に溢れたゲスっぽい空気だなぁオイ。 

 つうか似たような流れを前にも見たことあるぞ。イエーロんときと同じじゃねぇかよ。


 会場中からニタニタニマニマした視線を浴び、カチンコチンになるブロンセ……。

 それに痺れを切らしたルリが、競技場まで降りてきちまった。

 そして、


「……不器用な人」


 と、ひと言。


『これフラちゃうパターンじゃね。えっ、折れちゃう? ブロンセのルリちゃんフラグぽっきし

いっちゃうん?』


 いいからテメェは黙ってろ。


「……オレは勝てなかった。あんなに面倒をかけさせたのに」


 そういう気持ちはわからなくもねぇ。アイツにも矜持ってモンがある。

 だが、譲りたくねぇモンはルリにだってあるんだろう。


「ねぇブロンセ。あたしに、あなたとあなたの子を看取らせて」


 ダークエルフなりの求婚のセリフ。永い寿命をもつ種だからこそ、こうなる。


 種が違う者と結ばれると子や孫でさえ、先に逝く。

 しかも身持ちが固ぇヤツばかりだから、ヒト種と結ばれたダークエルフの女はひとり残される。


 その点をブロンセもわかってて踏ん切りがつかなかったんだろう。

 であっても添い遂げたい決意の程をリルは言葉で示し、


「……ああ。なるべく長生きする」


 見事に寄り切った。


『——言ったぁあああー! お二人さんゴォオオオ〜ル、インンン‼︎』


 ベリルの煽りに会場から拍手が。

 そして感極まったルリは、


『ぬひょ⁉︎ ぶっちゅうううううーう‼︎ ちゅー、ちゅー、ぶっちゅーしてっし〜!』


 人目も憚らず、か。


 キャーキャーとベリルは恥ずかしがり、真っ赤になった顔を両手で覆う。

 が、指のあいだはバッチリ開いてて、血走った目で凝視。フンフン鼻息も荒ぇ。


「うむうむ。めでたきかな」


 ついさっき、いま祝福されてる者を打ち負かしたばかりだってのに、モモタ殿はカラカラ朗らかに笑ってのける。

 東方ならではの変わった気質ってのもあるんだろうが、ブロンセは恥じることねぇ勝負をした、そう相手した本人が認めたんだ。


『くひひっ。あれを用意しといた甲斐あったしー。係員さーん、帰りの魔導列車をブライダルシフトにしちゃってー』


 なんぞ仕込みがあるらしい。如才ないっつうか用意周到っつうか……。



 準々決勝のあとすぐ——


 ルリは白と桃色のヒラヒラだらけの、やたらと装飾の多いドレスを着せられていた。

 ブロンセの方はビシッとした白いスーツ上下の合わせ。

 二人の装いに周りの者、とくに女衆がため息を漏らす。


 明日にでもガキをこさえそうな勢いで、ルリはブロンセにベッタリだ。

 そんな二人を、


『新婚さんごあんなーい』


 と、べリルは魔導列車に連れていく。

 車両の後ろには、縄で括られたさまざまなモンが。木製の器やらコップやら……、発車したら煩さそうなモノばかり。


 つうか普通に魔導メガホン持ち出しやがって。ポルタシオ閣下、実況席で隣にいたんだから止めろよな。


『そんじゃーお二人さんの新しい門出に、出発しんこーう!』


 ベリルの発声を受けて、車輪が回る。

 カタンコトンとゆっくり。それが徐々に速まると、カラカラコンコンと賑やかす音を引きずって。


『みなさーん。花びら花びら〜』


 あらかじめ配られてた花弁を、見物客たちは思い思いに宙へ放る。すると魔導列車がゆっくり進む風の柔い圧で淡い色がヒラヒラと舞う。

 それは俺みてぇな者でも、思わず「ほう」と息が漏れるほどの光景だった。


「素敵な光景ですね」

「ああ」


 寄り添うヒスイと、魔導列車が小さなっていくさまを見送った。


 が、ここで喧しい問題児が風情を台無しに。

 せめて花びらが地面に落ちきるまで余韻に浸らせてくれりゃあいいもんを、


『さーて、こっからが本番だし』


 ベリルが煽る。

 ——途端、なんでか女衆は一斉に駆け出す。

 とくに若い者らがゆっくりと加速していく魔導列車に喰らいつく勢いで追う。ちっと怖いくれぇの目つきで、全力疾走で。


『第一回ブーケトス争奪せぇえええーん! 次の花嫁は、いったい誰かぁあああー‼︎』


 ニコニコ後ろを振りかえったルリは、魔導列車から輪になった花束を放る。空へと高く。

 女衆の視線は「あっ⁉︎」と口を開け、天を見上げた。


 どうしてこんなことになってんのかと言えば、


『ブーケキャッチした人が次の花嫁さーん! しかも! コロシアムで結婚式プラス魔導列車でブライダルイベント無料券をしんてぇえええーい!』


 つうことらしい。

 よくもまぁついさっきの話で、ここまで多くの者が聞きつけたと呆れちまう。

 少々執念じみたモンを感じなくもねぇが、そんだけ女にとって祝われるってのは大事なのかもな。余計なこと言わねぇよう俺も認識を改めてといた方がよさそうだ。


 ちなみにだけど、このブーケトス争奪戦とやらにダークエルフ一党は参加しとらん。

 勝ちが決まってんのと、ヤツらのなかで物騒な奪い合いに発展しちまうのは火を見るより明らかだからな。おおかたベリルが事前にお断りでもしてたんだろう。


 で、花束の行方は、とある商家に勤める王都住まいの娘の手に。


『おめでと〜う! 結婚決まったら、小悪魔ヒルズでドレスとかも用意しちゃうかんねー。知らせてプリ〜イズッ』


 と、ここまではただの祭りの騒ぎ。

 だがこんだけで終わるベリルじゃあねぇ。ここまでやったからには、


『小悪魔ヒルズでは、いろんなウェディングドレスとプランを用意してっし。魔導列車のオプションもありまっせー! ご相談は店長クロームァちゃんまでっ。あとあと近々っ、服も大々的に取り扱いまーす。せっかくだしブランドも発表しちゃうし〜!』

 

 そうくると思ったぜ。

 ちゃっかり便乗しての宣伝。


『さっきのウェディングドレスとか、日常使いするシャツとかワンピース、子供服も男子用のスーツとかまで。めちゃ幅広な、そのブランド名は——』


 まぁた勿体つけやがって。

 どうせ小悪魔なんちゃらだろ。オメェの浅知恵なんぞ父ちゃんは丸っとお見通しだ。


『ディアボリータ、ってゆーし』


 おや、予想と違ったぞ。サッパリ意味がわからん名だ。


『訳すと小悪魔って意味ねー。たしかぁ……えっと、ヨーロッパ語だったはず』


 んだよ。由来に捻りはねぇんかい。


『つーわけで、小悪魔ヒルズではいろんなモノ扱ってるから、まだ見てない人はお相撲大会のあと見るだけ見にきてねっ。サンプルいっぱい並べてあっからゼッタイ楽しーし。ウィンドウショッピングも大歓迎でーす』


 この半分が来たときても、一階から三階までみっちみちになるぞ。

 ベリルめ。スモウ大会も新婚二人もダシにして、ホント商魂逞しいやっちゃな。

 

 まぁいい。これでアイツの気も用も済んだだろう。

 連日やりたい放題な娘の元へ向かい、


「そろそろ帰るぞ」


 ひょいっと小脇に抱えてやる。すると、


「んだよ」


 ベリルに服を引っ張られた。


「父ちゃんなんか忘れてなーい?」

「なにをだ」

「大食い大会っ」


 ……。そういやそうだったな。

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