戦場でデモ販する父②
傭兵団にも出兵の依頼があった。王様へのおねだりは快く了承されたってわけだ。
さっそく俺らは戦地へと赴く。
ベテランも若ぇ連中も総動員。つっても数は五〇に届かない程度。
だが、他とは練度と装備が違う。
傭兵団の先頭は、ドラゴンを模った装甲を纏うスッポンに跨がる俺。その後につづく立派なガタイにゴツい魔導ギアを装備した屈強な兵たち。
槍は試作魔導ウェポン零壱そのまんまだが、鎧に関しちゃあ改良済み。
膨張する筋肉に対応できるようにって、動作一つで革紐を緩められるようにしてある。
あと、訓練してみて装甲が厚い方がいい部位と薄くても平気なところ、動きの邪魔な部分なんかも洗い出して、みっちり作り直した。
だから鎧は『試作魔導アーマー零弐』って名称になってる。ほとんど使われることはねぇ名だが。
だいたいのヤツは魔導ギアでとおしてて、単に槍と鎧って呼んでるヤツらの方が大多数。
せっかくカッコいい呼び名を考えたってぇのによ、ノリの悪い連中だぜ。ったく。
出発に際しての見送りなんかも省いた。
チンタラ活躍を祈られてる場合じゃねぇ。それに、ヒスイの猪豚人嫌いは相当なもんだから無駄に発破かけられるだけだしな。
狙うは一番乗り。
それを理由に一番槍も主張してやる。軽く一当てでもいい。敵も味方も注目してるところで、魔導ギアの性能を見せつけてやりゃあいいんだ。
◇
へへっ。予定どおり。
まずもって俺らの行軍速度は段違い。
スッポンが連結させた荷車を引っ張るから、俺らは身軽だ。そもそも、装備の重量が革の品と変わらないってのもある。
さらには、散々ぱら走り込んだからアホほど健脚。体力は有り余ってしかたねぇ。
だから休み知らずってな。
誰も音をあげねぇからサクサク進んで、俺らは王国軍の陣地へ真っ先に駆けつけたってわけだ。
んで到着早々に、指揮官である将軍閣下からいただいた言葉は、
「じ、事前に兵を進めておったのか?」
ってな感じの驚愕の第一声。
ミネラリア王国で上から四番めに偉い将軍の度肝を抜いてやったぞ。尊大に労ってみせることすら忘れて、唸ってやがる。
あんまりに思惑どおりで、ついついほくそ笑んじまいそうになった。
「いいえ、ポルタシオ将軍閣下。我々は、正式に依頼を受領したうえで出発しました」
「……そうか。トルトゥーガ殿の兵はよほど士気が高いと見える。援軍、かたじけない」
武人としては立派な方なんだろう。取り繕うことなく、お褒めの言葉をくださった。
「とんでもありません。私以下数名はお国の大事に駆けつけたまで」
ここらで、しっかり義務と仕事の区別をしておかねぇとな。
褒美と報酬は別会計で頼むぜ、将軍閣下。
「……となると他の者は?」
「稼ぎどきだと腕まくりしてついてきた者共です。ぜひともコキ使ってやってください」
ポルタシオ殿、これで俺の言いたいことは伝わったか?
活躍の場を用意して、槍働きを目ん玉かっぽじってよく見ておいてくれよ。そのぶん、他所よりムチャする腹は括ってきてるからさ。
「はやる気持ちはわかるが、しばし待たれよ。まだ他の援軍が到着しておらんのでな」
半々ってところか。
俺としても、他のヤツらが来ねぇうちにウマいところを掻っ攫っちまおうとまでは考えてない。
しっかり、誰が一番最初に駆けつけたかを覚えてくれてたらいいさ。いまは、な。
「ではポルタシオ将軍閣下。我々トルトゥーガ領軍並びにトルトゥーガ傭兵団は、王国軍の指揮下に入ります」
「うむ。よろしく頼む」
それだけ告げて、俺は陣幕を出た。
で、すぐに回れ右っ。すっかりスッポンのことを説明しとくの忘れてたんだ。
せっかく一番乗りして回りくどい会話までしてカッコつけたってのに、台無しだな。
さっそく遠巻きにされてるスッポンのところへ、ポルタシオ将軍閣下を案内した。
「これは……。ドラゴン、ではないな」
「ええ。模した装甲は施してますが、手懐けた亀型の魔物です」
「なるほどの。戦場で大暴れするのを楽しみにさせてもらおう」
「ご期待ください」
それから指揮官たちを集めて事情を説明してくれたみてぇだ。
どうもスッポンの噂を耳にしてたヤツもいたようで、味方なら百人力だと好意的な態度だった。さすがに撫でにくるほどの物好きはいなかったが。
「オメェら、寝床の用意すんぞ」
「「「応ッ!」」」
「kukyuuu」
「テメェはそこら辺の草でも食ってろ。騒ぎになるから離れんなよ」
「kyuuu」
これから設営だってのに、手が埋まってるときに面倒くせぇことを平気で要求してくるあたり、主人そっくりだな。
あとから来る連中に気ぃ使って、俺らは陣地のなるべく隅っこに天幕を張ってった。
他所よりも使用頻度が多い年季ものだから、ボロっちくてしかたねぇな。ツギハギだらけで『うちは貧乏です』って自己紹介してるみてぇだ。
こいつも今回の戦で稼いだら、ビシッと新調しようじゃねぇか。
「旦那、済みやしたぜ」
「おう。したらオメェら、メシまでキッチリ身体を解しとけ」
「「「応ッ!」」」
威勢いい返事のあと、うちの連中は二人一組になってストレッチをはじめた。
これもベリルがやらせまくったやつだ。
「ぬ、ぬごぉああ、あくっ!」
「オラオラ、息止めてんじゃねぇぞ! スースーハーハーって具合に呼吸を乱すな!」
「ぬごご、すぅぅぅ、はぁぁぁぁ……。おう。もっとグイグイこいや」
「言ったな、テメェ」
「——ぐえっ! い、勢いつけんなっ。覚えて、やがれ……ぬぐぐっ」
俺らは和気藹々とやってんだけども、周りからの目は間違いなくケンカかなんかと誤解したものだった。
ま、これも目立つための一要素になるかもれん。放っておけばいいか。




