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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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スモウ大会、準々決勝②


「父ちゃん、これ」


 と、一足先に出発するベリルから包みを渡された。察するに弁当のようだが……。


「昨日あんまし食べらんなかったから、オニギリ詰めといたし」

「ほお、オメェにしちゃあ気ぃ利くじゃねぇか」

「いちいちそーゆー憎まれ口いらないっつーのー。んじゃいってきまーす」

「うふふっ。それではあなた、また後で。いってきます」

「おう。いってら」


 二人揃って俺より先に宿を出発した。

 せっかくだ。あっちついてから食うとするかね。



 少し早めについた控え室——


 もうすでに主要どころの選手は揃っていた。どうもせっかち者が多いらしい。

 俺の腹も負けず劣らず『さっさとメシをよこせ』とグーグー急っついてきたんで、適当な場所に腰をおろして、ベリルに持たされた包みを開く。

 すると、なかにはギッチギチにオニギリがミッチリと……。


「こんな食ったら試合に響くだろうが。ったく」


 このボヤきを聞きつけたのか、はたまたコメの匂いに誘われたのか、


「この地で握り飯とは珍しい」


 聞き覚えのある凛とした声が。


「モモタ殿もどうだい?」

「かたじけない。いやはや、催促してしまったようでお恥ずかしい限り。しかし久しく口にしておらなかった故郷の味には抗えぬ。ありがたくご相伴に預かろう」

「おう。たんまりあるんだ。ベリルが握ったんで口に合うかはわからねぇが、それでもよけりゃあ遠慮なく食ってくれ」


 パシンと両手を合わせ、モモタ殿は「いただきます」とオニギリを手にとる。しばし眺めてから、一口一口をゆっくり噛み締めていった。


「口に含んだ瞬間にほろほろと崩れる。絶妙な握り加減であるな」

「なんぞ拘りがあるみてぇだ。たいていは他人任せ(魔法任せ)だが、スシっつう魚もいっしょに丸める料理したときも加減にはうるさかったぜ」

「ほう。スシも握るとは恐れ入った」

「ここいらの魚なんで、モモタ殿が知ってるモンとおんなじかはわからねぇけど。こんどよかったらスモウ大会のあとにでも新鮮な魚が食えるところへ案内するぜ。もちろんコメもまだまだあるからスシだって握れる」

「願ってもない申し出なのだが……、某は返せるモノを持ち合わせておらぬゆえ」


 んなこと気にせんでもいいのに。

 東方の武人の話が聞けるだけでも俺ぁ満足なんだがな。

 おっ、そうだ。


「モモタ殿は包丁も扱えるのかい?」

「うむ。そういうことか。ではその際には、角の立つ切り身をご覧入れよう」

「そいつぁベリルが喜びそうだ」


 前に俺が捌いたときは適当だったからな。骨の多い魚になると思ったようにいかん。

 その点モモタ殿は魚に慣れてるようだし、刃の扱いはお手のモン。そっちを任せちまうってので釣り合い取るには妙手だろ。


 そっからもモモタ殿とスシ談義をしてると、


「ねぇ親父、それ俺と家族も誘ってもらえるの?」


 イエーロが絡んできた。


「店ぇ空けられるんなら構わねぇぞ。魔導トライクで引っぱってもらやぁ往復に何日もかからんだろう」

「そっか。なんとか出勤の予定を調整してみるよ」

「貴殿がイエーロ殿かな。某、モモタ・タロウと申す」

「挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。私はイエーロ・デ・トルトゥーガ。父と妹がお世話になったようで」

「いやいや、こちらこそトルトゥーガ殿とベリル殿には大変世話になった」


 イエーロも腰が低い。モモタ殿もで、二人して譲り合いみてぇな挨拶の応酬に。


 ここには他の者もいて、ピリついてんのは伝わってきてた。ただ、べつに俺らは騒いでるわけじゃねぇし構わんでおいたんだ。

 そしたら——


「勝負の前に食い物の話とは、相変わらずだな」


 誰よりも食ってそうなヤツが苦言を呈してきた。ウァルゴードン殿だ。

 一回りも二回りもデカくなった身体でのっしり立ち、


「トルトゥーガよ。我との因縁、よもや忘れてはおるまいな」


 ついさっきまでは静かにムッツリヅラしてたのに、いまこの場ではじめちまいそうな殺気を放ちやがる。


「俺ぁけっこうな人気者ですんで、ご指名が多い。悪ぃがウァルゴードン殿以外にも名指しが立て込んでしてましてね」

「フンッ。必ず勝ち上がってこい。よいな」


 言いたいことだけ告げて、ウァルゴードン殿は去っていった。


 いまさらながら控え室の様子を窺う。

 入れ込みすぎの者もいれば、例えばブロンセみてぇに己とだけ向き合い集中する者、王国兵のランシオなんかはフンフンと屈伸して身体をあっためてたり、人それぞれだ。


 共通してんのは、予選を勝ち抜いただけあって、どいつもこいつも油断ならねぇってところか。

 一癖も二癖もありそうな連中が雁首ならべてやがるぜ。


 そして最後に控え室入りしたのは、


「よい。楽にせよ。以前も申したとおり、スモウ大会のあいだはサボリ関である」


 プラティーノ殿下だ。

 総勢十六名。これで役者は揃った。


 見計らったように係の者が呼びにきて、俺らは競技場へ。


 足音がやたら響く薄暗い通路を抜けると——


「「「わぁあああー‼︎」」」


 目が慣れる前に大歓声の出迎えが。

 

「「「キャー♡♡ サボリ関殿下ー!」」」


 こんな黄色い声援に交じって、


「ランシオー! 王国軍の矜持をみせろー!」

「辺境伯様ぁあああー! トルトゥーガ者に目にもの見せてやってくださーい!」

「あなたー! 今日も(いかめ)しくって素敵よ〜♡」


 皆、騒ぐは騒ぐ。


 本日はカラッカラの晴天。慣れ親しんだ戦たぁ違う、観衆の前でのチカラ比べ——スモウを楽しめる日和だ。

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