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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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スモウ大会、準々決勝①


 煙をあげる鉄板に、ひたすらミンチ肉をならべてはひっくり返していく。

 もうさっきから汗だくだ。


 チビっ子スモウ大会が終わってからずっと、俺はハンバーガーの屋台でコキ使われている。誰に強いられてるかは言うまでもねぇ。


「またオーダー入りました〜っ。父ちゃん早く焼いてやいてっ」


 どうして俺がこんなことを……と、愚痴ってる間もねぇよ。そんな暇あったら水差しから直に水分補給すんぜ。


「ほらほら、あーしのお手伝いガンバんなきゃ。カワイイ娘といっしょにお料理とか、父ちゃん冥利に尽きるってもんでしょ」


 いくつもツッコミてぇところがある言い草だが、手を動かしておく。ここで休んだら把握し切れんほど注文が溜まっていくからだ。


「ヘイ、お客さん。トリプルおデブバーガーお待ちどっ。三段腹間違いなしのボリュームだし。ん? まだイケちゃう? 父ちゃーん、オーダー入りましたー。トリプルおデブバーガー、スリープリ〜ズ。テンキュー」


 いちいち注文を知らせるセリフが意味不明なのも困りどころ。


「頼むからわかる言葉で話してくれ。三枚ハンバーグが入ったバーガーが三つだな。つまり九枚も焼けってことか……」

「——ちっがーう!」

「ハ? 合ってんだろ。三掛け三で九じゃねぇか」

「そーじゃなくってー、ハンバーガー屋さんはハンバーグって言わないのっ。パティって呼んでっ」


 くっそ面倒くせぇこだわり発揮しやがって。


「チッ。パティを九つな」

「ちぃ、じゃないし。店員さんはテンキューって答えなきゃなのーっ」

「……てんきゅう」

「ちっがーう! もっと心を込めてっ。テンキュ〜♪ みたいに伸びる感じでっ」


 コイツ、いつにも増して喧しい。つうかさっきのと変わってんじゃねぇかよ。


「テ、テンキュー」

「もーそれでいーや。まったくもー父ちゃんは、まったくー」


 さて、なぜこうなったのかといえば、ベリルのやつが本当に大食い大会を開きやがったからだ。

 チビっ子スモウ大会に参加した者だけじゃあなく、観客だった連中まで巻き込んで。もちろん陛下が支払いをもってくれる者以外は普通にカネを取って。


 ちなみにヒスイは、エドとチコマロに豪勢な晩メシを振る舞ってやるんだと。さっさと二人を連れて行っちまったぜ。俺もそっちがよかったのに……。

 んで保護者として傍観きめこんでたら「暇なら手伝ってー」だとよ。ったく。


『優勝者には、小悪魔ヒルズの割引クーポンをプレゼントだし! 本人のみ一年間有効(ゆーこー)で、そのあいだ全品三割引っ、なんと全品三割引っ。さーさー、食べたたべたー!』


 しれっと魔導メガホンを持ち出して、ベリルは客を煽りに煽る。

 つうかそれ、国で禁止してる品なんだろ。王国軍ももっと厳しく管理しとけよな。


 それからも溢れんばかりの文句の数々を呑みこみ、ひたすら焼きつづけてく。

 すると、


「——パティ薄いよ! なにやってんの〜‼︎」


 ケチってたのバレたか。


「もう材料が足りねぇんだよ! 明日の仕込みぶんまで手ぇつけてやっとなんだぞ」


 そもそもスモウ大会の行き帰り、主には昼メシどきを狙った屋台だ。こんな日暮れ近くまで材料が保つわけねぇだろ。


「尤もっぽいこと言っちゃってー」


 違う。俺ぁ尤もなこと言ったんだ。

 ほれ見ろ、その証拠に他の従業員たちもうんうん頷いてんぞ。


『えーと、マジごめんだけど品切れ近いんで、いまの時点で上位の三人が優勝ってことでいーい?』


 ここからじゃあ屋台の外の様子はハッキリせんが、


「おいおいそりゃあないだろ!」

「こっちはこれから追い上げるとこだったんだぞ」


「「「そうだそうだ!」」」


 避難轟々なのは伝わってくる。

 どうやらチビたちは腹一杯になったのか、または引率の貴族から労いの食事に誘われたらしく、もういない。

 代わりに観客の大人——とくに若ぇ男衆ばかりが本気になって大食いに挑戦してるようだ。

 すでにけっこうな散財をさせてるし、そう簡単には諦めんだろ。


 ベリル、悪ぃが今回は助けてやらんぞ。テメェの巻いた種だ。責任とって頭下げろや。


『みんな大人げないなー。ちっとムキになりすぎじゃね。んん〜……あっ。ならさ、いま十番目までの人まで予選通過ってことで……どーお?』


「「「——冗談じゃない!」」」


『で、明日のスモウ大会のあと決勝戦やるし』


「待てまてまて!」

「そうだよ、明日もなんて財布が保たない!」


「「「そうだそうだ!」」」


『そこも含めて勝負ってことじゃ……ダメ?」


 チッ。さすがに見てられん。


「おいベリルいい加減にしろ! んなもんダメに決まってんだろうがっ。明日に持ち越しなら、最低でも決勝に出る者のぶんはテメェが持て。いくらチャリティーでもケツの毛まで毟っていいわけがあるかい!」

「…………ちぃ。父ちゃん聞こえてたか。ならしゃーない。けっこー儲かってるし、そんくらいならいっか」


 店先まで顔を出して叱りつけると、ベリルはしぶしぶ頷いた。


『つーわけで、大食い大会の決勝でる人はあーしがゴチるし』


「「「おおー‼︎」」」


 ったく。手間かけさせやがって。

 収まりはついたと鉄板の前に戻ろうとしたら、


「……あの、トルトゥーガ子爵様ですよね?」


 不意に客の一人から声をかけられた。まだ苦情でもあるんだろうか?


「ああ。せっかく盛りあがったのにホントすまんかったな。もう材料がなくってよ、どうにもならねぇんだ」

「いえ、それはまぁお祭りですから多少のことは……。明日埋め合わせしてくださるのですし構いません。それより、貴族の方に失礼かもしれませんが——」


 と、その男が切り出してきたのは、


「なんぞ記念になることを、だと?」

「はい!」


 どうせいっちゅうんだい。

 この申し出も祭りの気分に当てられてのことだから細かいことなんぞ気にはせん。しっかしなにをしたらいいもんやら。なんかしてやるのは吝かじゃあねぇんだけども……。


 困惑しちまった俺だが、こういう場面でしゃしゃるヤツが一名。ある意味で頼りになるとも言えるが、まったく褒める気にはならん。

 そいつが誰かと言やぁ、やらかしたばっかりなのをスッカリ忘れたベリルだ。


『はいはーい! 大食い大会予選に参加してくれた人には、記念にお相撲大会でも大活躍の父ちゃん——アセーロ・デ・トルトゥーガ子爵のビンタ握手会に参加できまーす。はいはーい並んで並んでーっ』


 おい待て。


「なんだよ、ビンタ握手会ってぇのは⁉︎」

「まんまだし」

「握手は、まぁわからんでもねぇ。だがビンタはいらねぇだろ」

「いるってー。気合い入れるみたいに『だっしゃーオラ!』って顔をパッチンすんのっ。こーゆーイベントだと必須だし」


 本気でなに言ってるのか理解できん。

 が、続々と客は並びはじめちまった。ここにはアホしかおらんのか。


「お、お願いします!」


 先頭の男が目をつむり頬を差し出してきてる。


「なぁ……せめて、胸元あたりにしとかねぇか? 加減はするつもりだけどよ、なんかあったら俺が困る」 

「ではそれで!」


 勢いよく答えると、ソイツはいそいそ上着を脱ぐ。

 っとに、ため息堪えんのにも一苦労だぜ。


『おおーう、面白そーだし。父ちゃん、景気(けーき)イイの一発パチンといっちゃってー。モミジモミジ〜!」


 モミジ? おおかたベリルは腫れのことを言ってるんだろう。

 それはいいとして……しゃあねぇ。もう列はできちまってるし捌いていく他ねぇか。肌の表面を弾くように打ってやりゃあ赤くはなっても大事には至らんだろ。ほれ。


 ——スパシッッッシーン‼︎


「くおっ……っ、っ、ゔぅ……。あ、ありがとうございました」


 ちょこんと触れるような握手のあと、ソイツは上着を拾いあげて帰っていった。


『うっひゃ〜、真っ赤っかだし〜。よーく冷やしてねー。はい次の人ど〜ぞ〜!』

「お願いします!」


 俺、明日っからスモウ大会の本選があるんだが……。だってのにどうして半裸の男の列を張り手してかなきゃあならんのだ。



 結局、日が暮れるまでアホったれどもの行列は絶えず、俺らは晩メシを食いそびれた。

 しかたなしにハンバーガー屋台の余り物を少々腹に収めて、宿へ帰るハメに。

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