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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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チビっ子スモウ大会⑨


 ほう。真っ正面からやり合うたぁな。


『——ふおっ。相四つだし! どっちもめっちゃ前のめりじゃーん。すごいすごーい。のこったのこったー!』


 ハナタレ山もオベソ海も、引くことや小手先の技なんか考えちゃあいねぇ。

 お互いにチカラとチカラを真っ向から押しつけ合って『オメェが退け』と譲らんのだ。


 一つでも先に息継ぎした方が負ける。それがわかってんのか、試合開始からずっと、二人はまるで時間を止めたみてぇに微動だにせん。

 よっく見れば、徐々に上気していく顔色や力みで震える腕や脚なんかの差異はある。が、そんくれぇだ。

 

 技のねぇ取り組みは一見すると地味。

 だけども、こっちの拳まで固く握らせちまう熱が、たしかにあった。


 俯瞰してるからこそわかるが、ヤジ飛ばしまくって騒ぐと思ってたチコマロたちも大人しい。あの舞台に立てなかった自分を悔いている。俺にはそう見えた。

 もうどちらかに向けた気持ちじゃあなく、本気で手押しスモウしてる試合そのものに魅入らせれてる。


 そいつは俺も例外じゃあなく、


「あなた」

「悪ぃ。目ぇ離したくねぇんだ」


 女房の声より、いまはガキの我の張り合いを優先しちまう。


 上背があるぶんハナタレ山は上からいける。

 逆にオベソ海は、どっしりした体格で掛けられた圧を受け止める。


 次第にベリルの口数も減っていき、観客も静かになっていく。

 べつに飽きたわけじゃねぇ。むしろチビたちが励んでる姿に引き込まれてんだ。

 拙さなんかどうでもいい。駆け引きなんぞなしでガンバる二人が、見る者を魅せて離さねぇ。


 とうとうデカい会場には息遣いすら聞こえなくなり、土俵の上での歯ぁ食い縛る力みすら聞こえてくる。


 勝負に出たのは——


 ズズズズズズッ。

 鼻を啜ったハナタレ山だ。


 その腹がポコンッと膨れると、オベソ海をグイグイ押し潰し、耐え切れんところまで追い詰めた。


『お、お腹当たんないよーに注意ねー!』


 触れるか触れないかスレスレ、手押しスモウなのに密着寸前だ。

 それだけオベソ海は粘った。肩が押し込まれすぎて背の肉が寄ってやがる。

 コイツの良さは粘り強いところ。ここを乗り切れば盛り返せるんじゃないか、そう思わせるほどのクソ根性だ。


 そして勝敗の命運を分けたのは、


『けぷっ』


 僅かに一つ()いた、ゲップだった。

 踏ん張りで腹に圧が入りつづけて、オベソ海の息が抜ける。と同時に反射的に吸っちまった結果、チカラの拮抗が一気に傾き——


『勝負あり!』


 オベソはドテドテっと足を動かしちまう。


『チビっ子スモウ大会の優勝は、ハナタレ山ぁあああ〜‼︎ 横綱ハナタレ山の誕生だしー! わーわー! みんな拍手よろー!』


 勝ち名乗りを受けたハナタレ山は『にっひー』と常から見せるアホっぽい笑みを浮かべて、倒れたまんまのオベソ海に手を差しだす。

 その光景を見たベリルは『うむうむ』と、まるで保護者目線で頷いてた。偉っそうに腕を組んで。


『つーか試合前にドカ食い早食いすんの、やっぱしよくねーし。身体にもマジ悪ぃから気をつけてねー』


 ベリルは軽くオベソ海の失敗をイジり、チビっ子スモウ大会の締めくくりにはいる。


 ふぅ……。ようやくこっちも一息つけるぜ。


「そういやヒスイ、なんぞ言いかけてたな」

「うふふっ。もう忘れてしまいましたわ」

「なんだいそれ。気になるじゃねぇかよ」

「ほら、陛下からあの子たちにお褒めの言葉があるようですよ」


 忘れたんならしかたねぇ。俺らは促されるまんま貴賓席へ向き直った。


 国王陛下が席を立つと、左大臣殿は魔導メガホンを手にそばへ。

 観客も姿勢を正す。と、すぐに『楽にせよ』と

お言葉がはじまった。


『昨日本日と、良いものを見せてもらった。まずはどの試合も素晴らしかったと賛辞を贈りたい。ひとえに、知恵のあるものは知恵で、腕力を誇る者は腕力で、技に長けた者は技で、それぞれに己が持つ才を遺憾無く発揮できた結果であろう』


 ここまでは観客向けか。


『優勝者には余から褒美がある。だが、他の者もチビっ子スモウ大会に参加して楽しませてくれた。その奮闘ぶりにはぜひ報いたい』


 おっ、これは予定にないやつだな。


『左大臣』

『はっ。仰せのままに』

『うむ。子供たち——いや、手押しスモウの力士たちよ。のちほど係の者より参加賞を受け取るとよい。これは余からのほんの気持ちだ』


 なんだろう? 俺がもらえるわけでもねぇのに気になるな。そいつは観客も同じで、この空気で口を開くのは決まってベリルだ。


『ねーねー王様っ。あーしらにもご褒美なにあげんのか教えてほしーしー』

『うむ。本当に細やかなモノだ。スモウ大会の期間中、会場付近の屋台すべての食事代を余が持つという証書である』

『おおーう。屋台メシ食べ放題パス! けどヘーキなーん? そこのオベソ海とか見るからにめちゃ食べるっしょ。試合と試合のあいだ、ゲップしちゃうほど食べてたくらいだしー』

『次は大食いで勝負でごわす』

『オデ、たくさん食うど』

『ほれみてみー。ひひっ。お城の貯金ぜんぶ食べられだちゃうかもよー』


 土俵の上では畏まりもせんチビたちがわちゃわちゃやってやがる。

 その様子を陛下は咎める様子もなく、むしろ優しげに目を細めるだけ。


『もし国庫で足りなければ、ここにいる観客たちが馳走してくれるのではないか。小さな力士たちは、それほどのモノを見せてくれたのだからな』


 陛下の茶目っけに影響された会場のあちこちからは、


「おう。ハナタレ山ぁ、オレが好きなだけメシ奢ってやるぞ」

「オベソ海くーん、お腹いっぱい食べさせてあげるわ」


 などなど羽目を外した声が飛び交う。

 でも一番調子こいてんのは、


『そいじゃーみなさーん、次回は第一回チビっ子大食い大会でお会いしましょーう。ごっきげんよーう』


 やっぱりベリルだった。

 つうか冗談でも吐きっぱなしのウソはやめろよな。真に受けるヤツがいるだろうが。

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