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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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チビっ子スモウ大会⑧


 エド対オベソの試合は意外な立ち上がり。かえって一番手押しスモウらしい展開と言ってもいいかもしれねぇ。


 互いに左右をパンパンと、丁寧に相手を探りながらも激しく押し合ってんだ。


『すごいすっごーい。どっちが押してんのかぜんぜんわかんねーし! わっかんないけど、どっちものこったのこったー‼︎』


 土俵に設けられた魔導メガホンは、手のひらが鳴らす音も拾う。だからベリルも負けねぇよう顔を真っ赤にして声を張り上げる。

 観客も真剣勝負を『のこったのこった!』と煽りに煽った。


 体格はザックリ二回りも違う。その差をエドがどうやって埋めてるかと言やぁ、左へ右へ鋭く絶え間なく腰を切り返すんだ。

 一見、ムダな動きにも思えちまう。

 しかしオベソの張り手は空振りの連発。となると、即座に止めなきゃあならねぇぶん消耗を相手に強いる。

 んで、腕を畳んだところに——


 パンッ! パパンッ!


 軸の回転を掌の圧に届け、突く。


 ガタイはまだまだ出来上がってねぇが、ここまで勝ち上がってきてんのはダテじゃあねぇらしい。

 

 だが問題は、


『乱打戦っっ! どっちがバテちゃう⁉︎ みたいな感じになってるし。そーそー、こーゆーのこーゆーの! さー先に音ぇあげるのは、エドか、オベソか!』


 どっちにも決め手がねぇこと。

 オベソもオベソで、思い切った攻めに繋げられとらん。

 尽く相手のいいところを潰してるように映るエドに至っても、あれ以上はできずじまい。


「かなり拮抗していますね」

「ああ。もう軽く二試合ぶんくらいは経ってんだろ。しかも様子見なしだからな、どっちもしんどいころだぜ」


 こうなってくると半ば運みてぇなモンを掴んだ方が勝つ。だが、そいつも実力あってのこと。


 でもって地力が釣り合ったときほど勝負の行方は見えず、決まるときはアッサリ決まるのが相場。


 バテて雑になってきたオベソ。腕の引きも開始直後よりトロい。

 この攻めどころをエドは見逃さず、体重ぜんぶ乗せた両手押しで一気に勝ちをもぎ取りにいった——が。


 ——ヌルッ。

 ぶつかりあった手のひらが、滑る。


「「「————あっ!」」」


 どっちも互いに触れんよう耐え………、


『『——ぐぐぐっ』』


 その果てに…………、


 ペタン。


 長くつづいた攻防、それとオベソが肥満児なのもあり手汗が勝敗を分けた。僅かに体軸側へ向けたエドの手のひらはポヨンポヨンに膨らんだ胸元へと流れちまった。

 だが、この結果を運だとは言っちゃあなるまい。最後の最後まで勝負を投げなかったオベソがスゲェんだ。いったんは手放しかけた勝ちを手繰り寄せ、エドの反則負けを誘発させたんだからよ。


『オベソ海の勝ちー!』


 二人とも限界だったらしく、地べたに座りこんじまう。

 俺個人の好みとはかけ離れてるが、どっちも勝ち、それでもいいとも思えるほど白熱した競り合いだったぜ。


 エド、よくやった。

 客席を見てみろや。もう誰もオメェに憐れむような目なんか向けちゃあいねぇぞ。

 だからトボトボ土俵を降りんな。負けたって胸を張れ。オメェはそんだけの試合をしてのけたんだからよ。


 こんな俺の心中が伝わったなんてこたぁねぇんだろうが、エドは土俵を跨ごうとして、立ち止まる。

 それから四方の客へ丁寧に頭を下げた。


 ——パチパチパチパチ。


 退場していくアイツの背中には、たくさんの声と拍手が。

 どの音色にも同情なんかはなく、ただただいい勝負をした者に贈る賛辞だけが込められていた。



 おいおいエド……。

 そりゃあねぇだろ。休憩前と後で、ここまで違いが激しいと複雑な気分になるぜ。

 ヤツがどんなマネしてるかってぇと、チコマロたちとおんなじナリしてオベソを応援してるんだ。

 ガッカリさせてくれるぜ、ったく。さっきの退場はカッコよくキメてたのによぉ。


『ハナタレ山をぶっ飛ばせー!』


『『『オベソ海、やっちまえー!』』』


 ときおり困り顔しつつも、他のアホガキたちと同じように悪ふざけしちまって。

 どっかの問題児じゃあねぇんだからノリだけで立ち位置変えんなよな。

 まっ、ある意味でガキらしいとも言えるのか。


 ちなみに反対側では、


『ハナタレ山さま。ご武運を……』


 プレシア嬢がモコを応援するもんだから、火に油を注ぐ。

 か細く、しかも呟くように心を込めて。その本気具合は誰の目にも明らかってなもんで——


『『『きぃいいいいー!』』』


 嫉妬の炎は燃え盛るばかり。


『オベソ海、バレないように指とっちまえ!』

『そうだ。折ってよーし!』

『——え、それは反則だよ⁉︎』

『うるさいエド!』

『なら手に砂を仕込んでおけーい!』

『おお目潰しだな。いいぞ、オレが許す。ハナタレ山をやっちまえー!』


 まだ両外野は未だ見合ってもねぇのに白熱する。

 あんまりなさまに、観客席からの視線も徐々に生暖かいもんへ。


『応援すんのはいーけどさーあ、いい加減お口悪ぃと退場にすっかんね。マジげんじゅー注意だし』


 一番口汚ぇヤツにまで指摘される始末。


『んじゃチビっ子スモウ大会の決勝戦っ——その前にー、両選手を紹介しちゃいまーす』


 これにはお得意の勿体つけってより、仕切り直しの意味合いがありそうだ。

 未だ土俵の周りで待つハナタレ山とオベソ海を、ベリルは紹介とともに土俵際まで招く。


『まず、がっしりノシってした方がハナタレ山ねー。そーいや今日はママさん来てないん?』

『母ちゃん仕事だど』

『そっかそっかー。お風呂屋さんまだやってくれてる感じー?』

『やってるど』

『ほーほー、えらいじゃーん。こんどリリウムさんち行ったとき入りにいくし』

『らっしゃいだど』

『じゃーハナタレ山は、おうちで待ってるママさんに勝ったよーって自慢しなきゃかー』

『えとぉ……、迷惑かけるなって、母ちゃん言ってたど』

『ひししっ。そっちかー。あんた何気にやらかし屋さんだもんねー』


 オメェにそれを言う資格はねぇ。


『最後に、決勝戦に向けての意気込みをどーぞっ』

『オデ、勝つど』

『おおーう、勝利宣言でちったし! みんなー、ぜひぜひハナタレ山を応援してあげてくださーい。ペコリ。……ほれ、アンタもっ』

『ぺこり、だど』


 ベリルの真似して不器用そうに頭を下げるさまは、観客にウケたらしい。あったけぇ拍手が送られる。


 さすがに空気を読んだのか、チコマロたちも大人しくしていた。


『もう一人の選手はデカい。マジでデッカいし、横に。つづいてイッチバン貫禄あるオベソ海を紹介しまーす。ねーねー、つーかさっきの試合の疲れは残ってないん?』

『メシ食ったからへっちゃらだぞっ』

『えっ。そんなに休憩時間なかったのに、食べちゃってヘーキなん⁉︎ オエッてしないでね。割とマジで』


 腹を打たれることはねぇんだから問題ないだろうけどよ、やっぱり見た目どおりよく食うんだな。


『つーか緊張とかまるでなしっぽーい。アンタも何気に大物じゃーん』

『オラ大盛りがいいぞっ』

『いや違くてー……。てゆーかアンタら、どっちもあんまし頭に栄養いってない感じ、キャラ丸被りなんだけどー。そーゆーの司会者しゃん的に困っちゃーう』


 丸被りってこたぁねぇだろ。

 つうか勝つべくして勝った両者が雌雄を決するわけだ。どっちにも気負いなし。いい勝負になりそうじゃねぇか。


『せめてさー、キャラ付けしよーよ。よし決めたし。アンタ今日から語尾に、ごわすってつけてっ』

『ごわす? で、ごわす?』

『そーそーそれ! イイ感じー。めちゃお相撲さんじゃーん』


 ったく、しょうもねぇ水差すなや。


 とはいえ、ベリルの『にぃし〜……』と呼び込みが入ると和やかな雰囲気が一変。

 土俵は、とてもガキが放ったモンとは思えん覇気に包まれた。

 そいつぁ、釣られた客席が固唾を呑むほどだ。


『見合ってみあってー。はっきょーい………………』


 決勝戦に相応しく、いつもより多めに引っぱり——


『のこった‼︎』


 スパァァァーンッ! 

 手のひらと手のひらの弾ける音が、会場中に響く。

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