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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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チビっ子スモウ大会⑦


 グッダグダな茶番のあと、チコマロたちプレシア嬢に骨抜きにされたガキどもは、抜け殻のように競技場の隅で膝を抱えたまんま呆けてる。俺らの客席の真下でだ。


 次の試合はトルトゥーガの代表としてエドが出るっつうのにチコマロは、


「ボク行ってくるね」

「……ガンバれー」

「あはは。まぁ見ててよ」


 気持ちもなんもこもってねぇ投げやりな態度。

 対してエドは愛想笑いを返した。


 そして土俵へ。


『にぃし〜、エドのや〜ま〜。ひが〜し〜、オベソう〜みぃ〜』


 呼び出しに応え、チビっ子スモウ大会準決勝第二試合の場に立った。


 エドに相対するオベソとやらは、上着の丈が足りとらんようでデカデカと腹がはみ出すほど丸っこい。あとデベソだ。

 二人には背丈の差もあるけど、横幅が大違い。


『おおーう。オベソ海、めちゃお相撲さんチックじゃーん。マワシとかマジ似合いそーだし。んじゃ、さっそくアピってど〜ぞっ』

『んと、オラ、村の大人よりスモウ強ぇぞ』

『ほーほー。でもこれからやんの手押し相撲だけど、そっちもイケちゃう感じー?』

『イケちゃうぞっ』

『目標はー?』

『オラ一番なって、王様からお菓子たっくさんもらうぞっ』

『おおーう。デッカい野望もってんじゃーん』


 オベソの素直な物言いに会場の空気が和む。

 チビっ子スモウ大会なんだから、こんくれぇがちょうどいいのかもな。


 一つ前の準決勝とは打って変わって、ベリルは対話形式で言葉を引き出す方針に変えたらしい。

 ムチャ振りには変わらんが、さっきよりだいぶ選手の心にかかる負担は少くなったんじゃねぇか。


『ほい次、エドの山っ』


 と思いきや、雑っ。

 いくら知ってるヤツだからってそりゃあねぇだろ。とくにエドは人前とか苦手っぽいのに。


『…………えっと……』


 ほれ見たことか。

 ……おや。どうも緊張したとか、そういう類の吃りではねぇようだ。


『ボク、二つ決めてたことがあって……』

『へえー初耳ぃ。せっかくだし聞かしてみー』

『……うん』


 頷くも、エドの視線はしばらく宙を彷徨う。

 そうやって選んだ言葉を丁寧に紡ぎはじめた。


『一つは、チコマロが優勝できるように支えること』

『たっは〜。それもーダメなやつじゃーん』


 身も蓋もねぇベリルの発言に、エドは乾いた笑みを返して『でも』とつづける。


『負けちゃったけど、ホントのチコマロはボクよりずっと強いの知ってるから。ボクが勝てば、それをみんなに知ってもらえるかなって』

『なになに〜、めっちゃ友情(ゆーじょー)っぽーい。マジ少年マンガしてるし。んで、他のはー?』


 ここでまた、エドはまた思案に入る。

 どう言えばいいのか悩んでるってよりは、言ってもいいもんか判断つかん。そういう姿だと俺には見えた。


『小悪魔センセー。もしボクがヘンなこと言ってたら教えてね』

『ヘンなことってエッチぃやつだったり?』

『ち、違うよ』

『ならヘーキじゃね。あっちにヘンなのいっぱいいるしー』


 と、ベリルはチコマロたちへジトッとした目を向けた。

 が、おい待て。たしかにアイツらは珍妙なマネを繰り返したけどよ、そもそも嗾けたのはオメェだろ。

 どんだけイジっても平気そうなヤツらだとしても、さすがにハシゴ外しがすぎねぇか。

 まっ、本人らに悔い改める気もなさそうだし、構わんか。ガキなんて恥かいてナンボみてぇなところもあるもんな。

 だからエド、オメェも試合前に恥かいとけ。


『つーわけで張り切ってどーぞっ』

『えっと、ボクには按摩でゴハン食べられるようになりたいって夢があります。いまはトルトゥーガ様や小悪魔センセー、それとゴーブレじーじに育ててもらってて、ボクと同じような子たちと暮らしてる』


 おおっと……。ここでその話を切り出すのか?

 どういう意図かさっぱりだぜ。

 予想外の切り出しにベリルも様子見に入っちまってる。


『あんまり難しいことはわからないけど、おスモウ大会はボクたちみたいな子を助けるためにもなるって聞きました』

『そーゆー面もあるけど……。つまりアンタはお礼が言いたいん?』

『うん。それもある。けど』

『けど?』

『ボクたち、可哀想だったのかもしれないけど、もう可哀想じゃなくって……。いまは毎日が楽しくって……、だから……んっと……。ごめんなさい。もっと勉強しないと上手に言えないけど……もう大丈夫になりました。だから、そういうふうに見てほしいなって……』


 言い淀んではいる。だがエドの視線は会場にいる観客すべてに、そして貴賓席の陛下へ真っ直ぐに向けられていた。

 うちに来たはじめっからだったが、やっぱりコイツ肝が据わってやがる。


 言いてぇことは充分に伝わってきた。

 しかしな……。このまんまだと対戦相手のオベソはやりずれぇぞ。

 こいつは(いくさ)じゃあなく試合だ。いくらなんでもこの雰囲気でチビ同士がやり合うのは感心できん。


 エドは狙ってやったわけじゃあねぇ。それはわかる。

 アイツは(かしこ)くはあるが(さか)しいヤツじゃあねぇ。きっと会場の空気と一部からの同情の視線に当てられて、モヤモヤした気分を口にしちまったんだろう。


 さあベリル、こっからはオメェの役目だ。試合前の昂った者に話を振ったんだからよ。キッチリ責任取れや。

 つうかそういうの得意だろ。いつもどおり場の空気を読まずにまとめてみせろ。


『アンタさー、ホントそーゆーとこだかんね。つーかなにナマイキ言っちゃってんのー。掛け算も微妙なクセにー。そもそもそーゆーのまだ早いっつーのー。まだ子供なんだからお利口さんしなくってもいーしっ。普通に『チャリティーどーもでーす』とか言っとけばよくなーい。アンタは同情されたくなくって言ったかもだからいーんだけどさーあ、これから試合するオベソ海、どーゆー空気かわかんなくってめっちゃ困っちゃうじゃーん』


 あまりに明け透け言い草。

 だがベリルはまだ語り足りんらしく、


『こーゆーの気遣いってゆーから。相手がどー思うか考えて喋れねーうちは、まだまだ子供だし』


 テメェのことは棚にあげて言いたい放題。


『そんな頭でっかちなアンタにいーことを教えてしんぜよーう。それはそれ、これはこれ。どーせ自分たちと似たような子のためにもー、とか考えてんだろーけどー、そんなん他の人には関係ねーし。みんなそれぞれ自分のためにガンバってんの! いーい?』

『……はい』

『つーか勝負にヨケーなモン持ち込むなっ。マジ白けっから。ゆーて観客のみんなもあーしも、きっと王様だって、チャリティーはスモウ大会の、つ・い・でっ。みんなそれぞれ事情はあるもんで、それが当たり前っ。そのついでに『ちょこっとイイことできたらいーかもね』くらいの気持ちなのっ。だからアンタがいちいち気にする必要なーしっ。オッケーイ?』


 カネ儲けの話とか悪巧みしてなきゃあ、ベリルのセリフにも説得力あるんだがな。俺にはサッパリ響かんぞ。

 だが、言いてぇことは俺と同じだ。


『はい! 小悪魔センセー』

『わかればよろしー。オベソ海も、ヘンな空気にしちゃってマジごめーん。いますぐガチでやんのムリっぽいなら、もーちょいあーしがトークで場ぁ繋ぐけど?』

『……ん⁇』

『ひひっ。あんましよくわかってねーし。なら、はじめちゃってヘーキそーかなっ』


 この件に関しちゃあ、どこかで触れとかんとならねぇことではあった。スモウ大会にチャリティーを絡めるんなら、いつかブチ当たるのは必然だ。

 そいつをこの場で吐き出せたのは、ある意味でよかったのかもしれん。結果論だけどな。


 エドのやつ、ずいぶんとスッキリしたツラで試合に臨もうとしてんじゃねぇか。


 それはそうと外野のチコマロ。せめてオメェだけは態度を改めとけや。共感するでも感じ入るでもなく、他の同輩とイジけてる場合じゃあねぇだろ。ったく。

 まっ、コイツはコイツで、とうの昔にエドの境遇について色眼鏡をなくしてんのかもな。


「本当にアセーロさんは、心配症ですこと」

「そんなんじゃねぇよ」


 ヒスイにツッコまれちまったことだし俺も余計なことは考えず純粋に、本気になったチビ同士の手押しスモウを楽しむとするかねぇ。

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