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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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チビっ子スモウ大会⑥


 ようやく我に返ったプレシア嬢は、


『ハッ! プレシアはプレシアは……えっと、えっと……——な、なんとはしたないマネを!』


 ようやくハナタレ山に縋りついたまんまだったと気づいたようだ。

 パッと離れてからイジイジ恥じらうさまが、真に迫るな。まだ子供なのによ。ずいぶんとマセてらっしゃる。


 当然、タイタニオ殿がこの様子を傍観してられるわけもなく——


「プレシアァアアア〜ッ‼︎」


 競技場所に飛び降りてった。

 そんでもって駆けよりプレシア嬢を抱きすくめると、


『き、ききぃ、貴様っ‼︎ 貴様なぞにうちの可愛いプレシアはやらん!』


『『『そうだそうだ! オマエになんかやらないぞ!』』』


『——貴様らにもだ!』


『『『そんなぁ、お義父さま〜っ』』』


『ええいやめい‼︎ お義父さまではない!』


 チコマロたちまで乗っちまい、しょうもねぇ茶番がはじまった。

 この醜態を、魔導メガホンが余さず客席まで届ける始末。


『そーゆーのさーあ、どっか別んとこでやってくんなーい』


 よしベリルよく言った。さっさと見ていて小っ恥ずかしい連中に引導を渡してやれ。

 と思ったら、あの問題児め。なにやらよからぬことを閃いたようで、


『いひっ。つーか〜、ハナタレ山がタイタニオどのに勝てるよーになったらお付き合い認めちゃうとか、どーよ?』 


 だとよ。

 ったく、どーよじゃねぇぞ。なに唆してんだ。事態を余計にややこしくすんなや。

 

『——お、お付き合いっっっ』

『プ、プレシア〜。なにを頬を赤らめて……。ぐぬぬっ、こうなれば受けて立つぞ。子供相手でも容赦はせん』

『……?』


 ほれ見ろ。ハナタレ山だけ話についてけとらんじゃねぇか。


『よっしゃ! んじゃー緊急エキシビジョンマッチだしっ。タイタニオどのブイエス、ハナタレ山っ。空気読まないタイタニオどのが大人げなく勝っちゃうのか、はたまたハナタレ山がプレシアちゃんをゲットしちゃうのかぁーっ!』


 なにを勝手に盛り上げてんだ、アイツは。

 つってもスモウの試合が一つ二つ増えたところで時間的には問題ねぇし、構わんのか。

 さすがに決勝戦に差し支えるようなマネまでは、いくらなんでもせんだろ……。いいや、プレシア嬢が絡んだときのタイタニオ殿は信用ならねぇ。


 とはいえ茶番は茶番。と思いきや——


『んと、オデ、オニがいい』


 ここで場をめちゃくちゃにするヤツがいた。ハナタレ山だ。

 いまのは俺に対する挑戦状なのは明らか。だいたいの者がわかってると思うがな。色恋なんぞ、あの鼻垂れボウズにはピンときとらんと。


 だが、あの土俵周りには捉え違える者たち、聞き違えたフリをする愉快犯までもが揃ってる。

 結果は、


『ええーなになに〜。ハナタレ山はあーしがいーのー? プレシアちゃんあんなにカワイイのにー。いや〜ん照れちゃうし〜』


 ほらやっぱり。はじまったぞ。


『——き、貴様ぁーっ。うちのプレシアのなにが気に入らんと言うのだ!』

『ベリル様は可愛らしいですけれど、プ、プレシアは負けませんっ』


『『『そんなの聞きたくなぁあああ〜いぃいいいいー‼︎』』』


 ここまでグダついたら、一時(いっとき)はポカンとしてた観客らもだんだん面白がる方へ傾いていく。

 っとに、どんだけ娯楽に飢えてんだよ。

 いい加減誰か止めろと貴賓席へ目をやれば、お偉いさん方も似たような顔してらぁ。若く生真面目な右大臣殿だけは、あっちゃ〜と額に手を当てている。


『んっと、オッサンに勝ったら、次はオニ?』

『やんや〜ん。あーし、ハナタレ山にロックオンされちゃってるじゃ〜ん』

『ぐぬぬ、もう我慢ならん!』


 はいはい。ケガのねぇようにな。


 タイタニオ殿は上着を放り、土俵の上へ。

 まさかの手押しスモウではなく、スモウで勝負するらしい。

 受けて立つとハナタレ山が構えで示す。と——


『……ほう。遊びではないと。ならば私も応えねばならんな』


 どうやらアイツはタイタニオ殿を本気にさせちまった。武人に、そうと値する気迫をみせたってことだ。

 怖いもの知らずここに極まれりってところか。


『——ちょ、マジやりすぎないでねっ』


 煽っておいてよく言う。

 面倒増やしやがって。


「おうヒスイ」

「ええ。すぐに動けますよ」

「もしものときは頼む」


 これで万が一はねぇ。


 あとはタイタニオ殿相手にハナタレ山がどこまでやるかだが……。よくよく考えてみりゃあ、アイツは巨漢のウァルゴードン殿と稽古を積んでたんだよな。

 こりゃあそこそこの見物かもしれんぞ。


 ハナタレ山の本気な様子に、会場からも大人対子供のお遊びってぇチャラけた雰囲気は掻き消えた。


「大したもんだ」

「うふふっ。あなたがあの子に気をかけるワケ、私にも少しだけわかりました」


 仕切り線に二人が立つ。

 会場は静まりかえっていく。

 土俵の周りにもただならぬ緊張感が走り——


『見合ってみあってー……はっきょい』


 のこった! の発声と共に——ハナタレ山が動いた。

 爆ぜるように額から突っ込む。

 それを真っ向から受け止める姿勢のタイタニオ殿は、どっしり待ち構え——


 万が一が起きた。


『————————ッ⁉︎ ッ、ッ‼︎』


 あまり口にしたくはねぇんで言葉は濁すけど、地を這うほど低いハナタレ山必殺の頭突きがタイタニオ殿の急所を必殺しちまった。以上が結果だ。


 狙った結果じゃあなく、これは事故。

 プレシア嬢を庇ったときハナタレ山の肩まわりについた土が、押さえ込もうとしたタイタニオ殿の手を滑らせて下方に流しちまい起きた悲劇。いや喜劇か。


 勝敗は勢い余ったハナタレ山が思いっきり地べたにズテンと土をつけて、敗け。


『これはキョーレツ〜ッ‼︎ プレシアちゃんは弟ちゃんか妹ちゃんを諦めなきゃな、ソーゼツな一撃ぃいいいー!』


 タイタニオ殿の顔色はみるみる真っ青になっていく。それでも姿勢を崩さない。

 なんとか娘の前でクソ意地を貫いたんだ。あんまり尊敬できん展開の果てにだけども。


『あーあー。ハナタレ山の反則負けー。アンタもーちょい身長伸びてからじゃねーとムリかもねー。つーかタイタニオどの……マジ、だいじょぶ?』

『——ハスッ、な、なにが、ハスッ、かね?』


 スンゲェ浅い息で、なんとか堪えてるらしい。

 つうか見てるだけで痛ぇよ。


「……ねぇあなた」

「ああ、あれは治してやらなくてもいい。たぶん両方とも大丈夫だろ」

「そう言ってもらえて助かりました」


 こうして会場は乾いた笑いに包まれた。

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