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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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チビっ子スモウ大会⑤


 気持ちのうえでは互角。とはいえ、


『見合ってみあってぇ〜……』


 二人のあいだには如何ともしがてぇ体格差が立ちはだかってもいる。

 おまけにプレシア嬢の得意とするところが、ハナタレ山にはまるで通じてねぇ。


『はっきょーい……——のこった!』


 ベリルの発声の直後、プレシア嬢はどっしり構えるハナタレ山を果敢に攻めた。

 ただガムシャラに。そのなかにも左右に強弱をつけ、押しにもメリハリを加えて。


「「「プレシアさまー! のこったのこったー! 効いてる効いてる、効いてるよー! ハイ、いまの効いたー!」」」


 いちおうチコマロたちも弁えてるらしく、対戦相手に暴言を吐くようなマネはせん。が、相変わらず煩わしい。


 プレシア嬢の勢いも、ずっとはつづかず。

 テメェよりガタイがデカいヤツを攻めるってのは、体力の消耗が激しいんだ。

 額からはパラパラと汗の雫が舞い、頬を真っ赤に上気させ、バクバク心臓を追い詰めていく息苦しさとも戦う。


『くぅ〜っ、あーし中立だから応援できねーし! そのぶん会場のみんなが声出ししちゃってー!』


「「「のこったのこった!」」」


 ベリルが煽ると、思いっきり観客は喉を鳴らす。

 どっちへ向けての声援かはわからん。

 直向きに励むプレシア嬢へか、はたまた怪童っぷりを発揮するハナタレ山に対してのモノか。いいや、ガンバってる二人に向けてだろう。


「ハイハイ! 世界一可愛いプレシアさま〜」


「「「ハイ、のこったのこったー!」」」


 一部のアホたれ共と、


「プレシアー! 押せ押せ、やってしまえー!」


 親バカを除いて。

 陛下のおそばだってのに、とうとうタイタニオ殿は我慢できなくなっちまったらしい。


 そんな大歓声のなか、ハナタレ山は受けに徹していた。


 なぜだ? 相手のスタミナ切れを待つようなヤツでもねぇはず。なのにどうしてここまで受けにまわっているのか……。

 なるほどな。どうやらアイツは勝負に徹しきれてねぇらしい。


 大事な心掛けではあるから甘ぇとは言わん。だが、そいつぁここでは無用だぞ。


『うほっほーい、モ〜レツな攻めだし! プレシアちゃんの猛攻に、ハナタレ山はこのまま押し切られちゃうのか〜⁉︎』


 んなわけねぇだろ。

 よっく見ろや。アイツは困惑してんだよ。


 チッ。どいつもこいつも。

 こいつぁ遊びじゃあねぇんだ。相手が女であろうが子供であろうが、やるからには本気でやれ。勝ちを譲るにしても本気だせ。そいつが最低限、勝負を受けて立つ者が払うべき礼儀だろうが!


「オイこらハナタレ‼︎ 手加減して横綱スモウかっ。テメェに手抜きなんぞ百年早ぇ!」


 つい熱くなっちまったぜ。聞こえるわけねぇのに。

 と、大人げねぇマネを後悔する間もなく、


 ——なんでオメェはこっち向く⁉︎


 ハナタレ山が俺の声に反応したんだ。よりにもよってバカ正直に顔をクルリと、出どころを探してキョロキョロと。


 これを勝機と見たプレシア嬢は渾身の圧をかけた。

 対してハナタレ山は不意を突かれた結果、はずみで必要以上にリキんじまう。


 プレシア嬢の、軸を傾けるほど身体ぜんぶ全身全霊を注いだ攻め。そいつが丸ごと本人へ——いいや足りん。ハナタレ山の意にそぐわず繰り出しちまった押し返しも加わり、


 ——危ねぇ‼︎


「「「————ッ⁉︎」」」


 プレシア嬢は、ポーンと宙を舞ったんだ。

 会場の誰もが声を失う。


「————っ‼︎」


 がしかし! プレシア嬢が地面に叩きつけられる最悪の展開には至らなかった。


「「「……………⁉︎」」」


 一瞬のことだったんで、まだ皆ほとんど理解できてねぇ。


『えっと……いまの、庇い手ってやつ⁇』


 どういう約束事かは想像つく。

 土俵の外までスッ飛んでったプレシア嬢を、ハナタレ山は咄嗟に追いかけ、飛びつき、背中から落ちた。

 つまり先に土をつけたのはハナタレ山。でも、庇った者の勝ちって話なんだろう。


 んなことより二人の安否は?


『——ちょ、ちょ! 二人ともヘーキ?』

『ヘーキだど』

『プ、プレシアも大丈夫です。けれど……』

『ほっ……。だいじょぶならいーんだけど。つーかめちゃ焦ったし』


 パッと浮かんだ問題のうちの一つは解決。

 さて残る二つだが、一個は勝敗の行方。それについては庇い手とか言っていた。


『はいはい解説しまーす。いまのは庇い手ってゆってー、ゼッタイ勝ったと思ったあと、相手がケガしないよーにするってゆー紳士的なやつでーす。だから、先に動かした足が地面についたのはハナタレ山だけど、ハナタレ山の勝ちっつーことでー。みんなオッケーイ?』


 これについて観客はあまり気にしてねぇようだ。

 なにせ一部の者にとっちゃあ、もっと衝撃的な光景は未だにつづいてんだから。


 地面に叩きつけられんよう庇ったハナタレ山は、いまもゴロンと仰向け。

 その上にはプレシア嬢が身体を預けたまんま。まだ試合の熱がこもってるのか頬を火照らせていて……違うな。それ以上のモンにポッと浮かされちまったようにも見える。

 これが羞恥によるモノなのか、はたまた別の感情によってなのか。


 なんにせよ——


「「「んぬぁあぁああぁあっ! プ、プレシアだばぁ〜あ……」」」


 チコマロたちは驚愕から嘆きへ。ガキらしくねぇ悲壮を浮かべて膝をつき、なんども地面を叩き血涙を流す。

 そしてもう一方からは、


「い……——いやぁあああああああああああああああああああああーッ‼︎ ダメだダメダメ! ダメー‼︎ プレシアにそういうのはまだ早ぁあああああーい! 父はそんなの認めなぁあああああーい‼︎」


 立場も忘れてタイタニオ殿は喉が裂けるほどの絶叫。かつて猪豚種(オーク)に囲まれたときよりもヒデェ悲鳴をあげた。


 一部がギャーギャー騒ぐのを無視して、ベリルは試合のまとめに。


『ねーねーハナタレ山。アンタいまので何気にオトコあげたんじゃね』

『母ちゃんの言いつけだど』

『へえー。女子には優しくしなきゃメッ、みたいな感じー?』

『にっひー』


 得意のアホっぽい笑みを浮かべる。庇いにいったときぶつけたのか、遅れて鼻血がタラ〜っと垂れた。

 そいつをゴシゴシッと袖で雑に拭い、ハナタレ山はしがみついたままのプレシア嬢をそのままに土俵へ戻ると、


『ハナタレ山の勝ちー! プレシアちゃんも残念だったけど、めちゃイイ勝負だっし。みんなー、もっかい拍手お願いしまーす』


 勝ち名乗りを受けた。

 二人の潔いさまに、会場からは惜しみない拍手が。

 ついでに鳴き止まねぇ嘆き声も。


『あとそれとー、誰とは言わないけど、チビっ子スモウ大会のあいだはヤジっぽいの禁止っ。ホント迷惑だし。あーゆーのマジ妨害行為だから。誰とは言わないけどー』


 そ、それについちゃあ……ホントすまん。

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