戦場でデモ販する父①
いまさらだが、俺の我流魔法に名前がつけられた。
いらねぇと思ってたから放ったらかしにしてたんだが、どうにも魔法名があった方が具合がいいらしい。
らしいってのは、以前から聞いちゃあいたんだ。でもなかなかしっくりくるのがなくってな。あと小っ恥ずかしい気がして、決められないでいた。
だが、もうそんなことは言ってられねぇ。なんたってうちの連中全員が使う魔法になるんだから。
勿体つけたみたいになっちまったが、そろそろ発表しよう。その名も——
『筋肉盛々』
カッコ悪りぃ……。
ご想像のとおりだ。ベリルが決めやがった。勝手にな。
俺としては『強制筋骨強度激増』みたいな、せめて『超身体機能強化』ぐれぇの、強そうな名がよかったんだが、
「絶対つっかえたり噛むってー。あと間違えて覚えるに決まってるし。とくに兄ちゃんとか」
と言われてしまえば納得するしかない。
「あーし的には『なんたら拳』とか『なんとか解放』みたいなのでもよかったんだけどさー、ママに聞いたらわかりやすいのが一番なんだってー」
ヒスイが言うんなら本当なんだろう。
初めて聞く知識だから、たぶんベリルの様子を見てて気づいたことなのかもしれねぇ。
「せっかくだしさー、かっこいーマッチョポーズとかもやってみる?」
「やめてくれ」
休憩中も休まずに訓練内容について語り合う連中を眺めながら、ベリルと話してる。ちっとも親父と娘の会話じゃねぇけどな。
身体機能を強化する魔法、改めて『筋肉盛々』を覚えたこともあって、それをベリルの訓練の最中も使うように指示された。
当然、ムチャの度合いが天井知らずになっていく。ヘタこいたら怪我じゃ済まねぇ危険度で、これなら戦場の方がまだ安全に思えるくらいだぞ。
…………見上げる高さなんだが、これ。
「いーい。この台の上から飛び降りて、足ついた瞬間にジャンプして、反対の台に飛び乗る」
「「「応ッ‼︎ 小悪魔殿!」」」
「ふむ。いー返事っ」
ベリルのやつ、偉っそうに。
「てな感じで五つ台を乗り越えたら、スタート地点までダッシュして、繰り返しー」
こいつぁ脚のバネを鍛えるってぇ話だ。なかなかどうして、脚のバネってのはいい言い表し方だな。
頭の出来が悪いうちの連中でも、ストンと腹落ちしたくれぇだ。
こんなふうに理屈がわかるものから、どんだけ聞いても意味不明なモンまで、俺らは相当な量の訓練をこなした。
そして、とうとうお待ちかねの手紙が届く。待ち焦がれた王都からの出兵要請だ。
◇
うちには寄親すらいねぇ。だから直に送り主へ返事を書くことになる。
宛先は、ミネラリア王ディネイロ十八世。つまり王様宛てだ。
どうせ本人が読むことはねぇに決まってるし、多少厚かましく書いても問題ないだろう。
堅っ苦しい文だが、要約すると——
王様へ
お手紙拝見しました。
出兵要請の件、喜んでお受けします。
うちの連中はヤル気いっぱいで、誰が行くかで揉めてるくらいです。
そこで相談なのですが、傭兵のご依頼をいただけないでしょうか?
みんな、鍛えあげられた技と体、それに最新装備を披露する機会にウズウズしています。
ご検討ください。
お国の危機ということで、多少勉強させてもらいます。
アセーロより
——みてぇな感じだ。
あとはヒスイに添削してもらったら、出来上がり。
上手いこと、傭兵の仕事と活躍する機会を得られたらいいんだが。そうすりゃあ、亀装備の宣伝はいくらでもできるって寸法だ。
いちおう、うちの連中には装備の素材については黙っとくよう言含めてある。が、ポロッと口にしちまう可能性は拭いきれねぇ。
となると仮称だけでも決めておいた方がいいか……。
てことで、
「なんであーしが決めなきゃなのさー」
ベリルに考えさせることにした。突拍子もない命名に期待してのことだってのは言うまでもねぇ。
「まーあ、あーしくらいセンスないと、大事な商品名決めるの任せらんないっつーのはわかるけどー」
「おう、そういうこった。それとよ、注文つけるみてぇで悪ぃんだが、素材がなにかバレないようにしてくれ」
「そんなの当たり前じゃーん。てゆーか、仮の名前ってことでいーんだよね?」
「そうだな。売りに出すときに変えるってのもありだ。あくまで俺らがポロッと情報を漏らしちまわねぇようにって、用心のための呼び名だ」
そこまで聞いたベリルはあっさり決めた。
もっと悩んだり、妙ちくりんなのをいくつも並べたてると思っていたんだが。
「なら、鎧は試作魔導アーマー零壱。槍は試作魔導ウェポン零壱。まとめて魔導武装、みたいな。こんな感じでどーお?」
「おお! 普通にカッコいいじゃねぇかよ」
「うわっ。父ちゃんオッサンなのに厨二くさっ」
なんだかバカにしくさってきた気がしたが、わかりやすいから「うるせぇ」の一言で流しといてやる。
「にしても、いい命名だ。売りにしてぇところも引き立ってるしな。文句なしだ」
「ならそーしてー」
「ん? オメェさっきから、あんまり興味なさそうだな」
不思議に思って聞くと、
「あの鎧とか槍とか、ぜんぜん可愛くないんだもーん。あとあーし使わないし」
納得の答えだ。言い分にではなく、こいつならこう考えるだろうって部分だけな。
なんにせよ、これで憂いはなにもねぇ。あとは魔導ギアを使って、猪豚人相手に大暴れするだけだ!
 




