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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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チビっ子スモウ大会①


「父ちゃん予選突破おめでとーう!」


 さっそくベリルは乾杯の音頭をとった。どうやらコイツはまだ仕切り足りんらしい。


 いま俺らは個室のメシ屋で、予選通過の祝い兼チビっ子スモウの壮行会をしている。

 この席にはヒスイはもちろんとして、他には明日の主役であるチコマロとエドも参加。


 さらにはどうしてか、


「いやぁ、やっぱり旦那は強いな」

「ええ。僕もはじめてトルトゥーガ様の勇姿を見ましたが、心が震えましたよ」


 吟遊詩人とリーティオまで。


 イエーロやブロンセたちはおらん。試合が終わるまではピリピリついちまうかもしれねぇから今回は、このメンツだ。


「ひひっ。勇者さまゲラゲラの歌作るときの参考にしちゃってー」


 オイこらベリル、余計なこと言うなや。


「あらまあ、アセーロさんの歌とは興味深い」

「すでに竜騎士のやつと、あとワル辺境伯と橋で決闘したやつはあっからねー。ん? つーかママの歌はないのー? 大魔導なんだし普通にありそーなんだけどー」

「——べ、ベリルちゃんやめて。ないわよね。私、認めた覚えはないわよ」


 キッと圧かけられた吟遊詩人は、首をブンブン左右に振って命乞いみてぇに否定した。


「なーんだー。めっちゃヤバめのありそーだと思ったのになー」

「ありません。ねえ」

「は、はい。ございませんんっ」


 俺もヒスイのマネして睨んでみたら、あの小っ恥ずかしい歌ぁやめてもらえっかな。

 などと割と本気で考えてたら、


「父ちゃんとママの恋バナとか、けっこー面白いラブコメになりそーじゃね」


 ベリルのやつ、もっと小っ恥ずかしい、いいや、羞恥に悶えちまいそうなお題を振りやがったんだ。


「——なるなる〜なるわ! 心を閉ざしたダークエルフの娘が勇猛なオーガの青年と恋に堕ちる物語、よくてよ……嗚呼、よくてよ……」

「か、考えておきま——」


 ここで俺は本気の睨みを利かす。

 ヒスイもヒスイで、別の意味でキッと。


「おいおい旦那、そのくらいにしといてくれよ。トルトゥーガの奥方様もさぁ。オレらはか弱い演奏屋なんだぜ」

「あら私ったら」

「それより、明日はどの選手が見どころなんだい? チコマロとエドの意気込みも聞いておきたいな」


 こんな具合にリーティオが割って入り、話題はチビっ子スモウ大会へ。


「あーしチビっ子たちほとんど知んないけど、注目してる子は何人かいるし」


 それをさっさと話せばいいもんを。勿体ぶりやがって。


「どうせ、ハナタレ山とプレシア嬢だろ。あとはエドとチコマロくれぇか」

「——ちょ! なーんで父ちゃんが言っちゃうのさー」

「そういえばリーティオから少し聞いてたね、見どころある子がリリウム領にいたって。実際はどんな子なの?」


 親子喧嘩(ベリルの一方的なポカスカのこと)が勃発する寸前に、吟遊詩人が差し込む。


「ハナタレ山はハナタレ山だし。オデってゆーし」


 それじゃあ説明にならんだろう。

 見かねたリーティオが、つづきを巻き取る。


「たしかに鼻垂れボウズだな。モコっていうんだけど、オレもそんなに関わりなくて。頭角を現したのは実家でやったスモウ大会でね……」


 と、ハナタレ山の武勇伝を語りはじめた。

 さすがは本職だけあんな。アイツの心情でも覗いてきたみてぇに言葉を紡いでくもんだから、聞きいっちまうぜ。


「あまり頭の巡りがよくないようだから、上手な子と当たったら往なされてしまうかも。そうオレは考えてる。……けど、旦那は違うみたいだね」

「おうよ。アイツぁよく見てるぞ。言葉が足りんタチなのは間違いねぇがよ、相手も周りもよく観て察して、そのうえで物怖じせんのだ。ありゃあ強ぇぞ。チコマロ、エド、心しておけ」


「「はい!」」


 声は揃ったが、エドの素直に聞き入れる様子とは違い、チコマロは……なんつうか妬いてるっぽいな。

 うちのチビんなかでは無双してっから、それもしかたねぇことか。その負けん気は嫌いじゃあねぇ。


「あの、僕の聞き間違いでなければ先ほどプレシア嬢と……。まさかとは思いますけど、タリターナ侯爵家のプレシア様のことでしょうか? ああいやいや、そんなわけないですよね」

「んーんー。タイタニオどのんちのプレシアちゃんだし」

「——ホ、ホントですか⁉︎」


 こういう反応が普通だよな。このなかで俺以外の常識人は吟遊詩人だけかもしれん。つうか酒場で稼いでるだけあってコイツは情報通らしい。

 元貴族家三男のリーティオは、どこの誰かも知らんかったっぽいのに。


「侯爵令嬢がスモウ大会に出るのか……。それってお転婆どころの騒ぎじゃないな」


 オイそこの太鼓叩き。いまのがタイタニオ殿の耳に入ったら磔にされちまうぞ。


「プレシアちゃん、マジお淑やかでめちゃカワイイお嬢様だし。なんかー、チャリティーに参加したいってゆー理由で出るの決めたみたーい」


「「すごく、いい子なのかい?」」


「あーしとタメ張るくらいイイ子だし」


「「……………」」


 ベリルの物言いに、二人はどう返してイイのかわからんようだ。


「ひひっ。ゆーてー、あーしが秘策を伝授したかんねー。いろんな意味で男子たちイチコロだもーん」


 プレシア嬢は慎みのある令嬢。滅多なことはせんと思いてぇが……、心配だ。


「とくにチコマロみてーなエッチぃ男子なんて、余裕で引っかかんじゃね」

「——オ、オレ、そういうの興味ねぇもん。オンナとかどうでもいいし」

「あっそー。でもあーしレベルでカワイイかんねー。マジで」


 この図々しいベリルの物言いに、チコマロは心底不思議そうに首を傾げた。


「……⁇ まだ赤ちゃんなのか?」

「むっかーっ‼︎ そこのわんぱくボウズ、表ぇ出ろっ。あーしと手押し相撲でガチバトルだし!」

「こらベリル。騒ぐな」

「やるったらやるのー! このチビ、キャンゆーまでシメたるしっ」

「小悪魔センセーの方がチビじゃんかよ」

「もう、チコマロやめなって。小悪魔センセーごめんね。コイツ、女の子が苦手なんだよ」

「——は、はあ⁉︎ オレ、オンナなんか!」


 ここでベリルは「ひひ〜っ」と、意趣返しの性悪ヅラ。


「そっかそっかー。な〜る、チェリーくんにはちっと早かったかー」


 無意味にテーブルに肘をついたり、短い脚を組もうとしてやめたり、とにかくデカい態度でチコマロをイジり倒す。


「うんうんわかるよー、アンタまだお子ちゃまだもんねー。オッケーオッケーイ。そーいやアンタ、ガッコで女子と話すときキョドって目ぇそらしてたっけー。ごっめーん。キレそーになったあーしが大人げなかったし。ソーリーソーリ〜」

「だ、だから、オレ……くぅぅ。違うもん、そういうんじゃねぇもん」


 チコマロは真っ赤になって俯く。

 あぁあぁ。この様子だと、プレシア嬢と当たったら本当にやられかねんな。

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