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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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スモウ大会、予選④


 順番は俺からはじまって、アルコが最後。他の連中は知らん者ばかり。だからって気ぃ抜いたりはせん。


 が、そこまでの相手でもなさそうだ。


 つうかよ……。


「よ、よろしくお願いしまする!」


 ガチガチじゃねぇかよ。ったく。こっちはテメェの思い出作りにつき合うつもりはねぇぞ。

 せめて油断させるための芝居なら楽しめたんだがな、ぶつかってくんのも遠慮がちか。話にならねぇぜ。


 あったまキたんでドンと突き飛ばし、あえて俺は土俵際を背負う。


「ほら勝機だぞ。本気でぶつかってこい。テメェだって山ほど稽古を積んでここに立ってんだろうが。腹括って——こいや‼︎」

「クッ。や、やってやる!」


 おうおう、いい当たりできるじゃねぇか。

 って……コイツズリぃ。額から胸にぶつかってきやがって。ゴリゴリ頭頂部が顎に当たって痛ぇなぁ、おい。

 だがそれでいいんだ。勝つために許された手はなんだって使え。俺だってそうする。


 グイグイ真っ正面から押し合って、真っ直ぐなチカラで圧し合うだけ。

 もしかしたら観客を退屈させちまうかもしれねぇ。けど、んなもん知ったこっただ。


 押しきる手前で、こんどは相手が土俵際で粘りを見せる。そいつを技には頼らず、身体の圧だけで——寄りきってやった。


「……ふぅ。次!」


 ここまで予選で繰り広げられた展開とは違う本式に近いであろうスモウに……、


「「「おおおおおおおー‼︎」」」


 観客は歓喜した。

 こいつぁ予想外。でも悪くねぇ。


 つづいての相手は締まった身体つきの男だ。

 さっきまでたぁ目つきが違う。脅え交じりの情けねぇツラじゃあなく、なにがなんでも勝つっつう漲りに満ちていた。


 へへっ。おっかねぇ顔しやがって。

 もう土俵際からはじめる必要はねぇな。


『はっきょーい……——のこった!』


 ベリルの発声と共に最短距離を詰めてくる——と思わせといて、そうきたかっ。

 踏み込みに惑わしを入れ、外側を取りにきた。しかもギリギリまで屈んで下方から。

 掬い上げるチカラの流れで俺の腰を浮かしちまおうっつう狙いのようだが、甘ぇよ。


 こっちは伸びあがるタメを、突く。

 起こりを潰してやれば半端な当たりになって、組み合いは胸と胸がぶつかるほどに。

 あとは左右に揺すってやり、晒した足元の隙を掬ってやるだけ——これで終いだ。


「おう次! ドンドンこい!」


 そっからもなるべく相手の得意とする攻めを受けて立つ展開をつづけ、とうとう九人目。


「トルトゥーガ殿! 先日の借りを返させていただきます!」

「へへっ。こいや」

『実はこの二人ぃ、前にもお相撲したことありまーす。さーあアルコくんの雪辱なるかーっ。見合ってみあってー……はっきょーい——のこった!』


 相変わらずアルコは気持ちいいくれぇ真っ直ぐなヤツだ。

 前手の左で探り入れるなんてマネはせず、初っ端から全力の右張り手。

 当然、ここに至るまでの流れに則って俺も右で対抗。


 ——パァーァァン‼︎


 乾いた音が響く。期せずして手押しスモウみてぇに。

 だけど、ここまでだ。


 アルコの腕にも額にも血管が浮かび、ありったけのチカラが込められた。

 その力んだ手首を、極め、フッと下方へ落としてやりゃあ——


『ぬぉおおお〜う! でたー! コテン返し!』


 名前は間抜けだが効果のほどは聞いたまんま。

 ベリルのことだ、ヘタすっと技名を覚え間違えてんのかもな。


「……⁇ な、なぜ……?」

「そう不思議そうなツラすんなや。俺ぁ勝つためになんだってするんだよ。ここまでの八戦ぜんぶがオメェとの対戦を睨んでの伏線だ」

「……私は、全力で相手していただけたのでしょうか?」

「そう言ってんだろ」

「ならばぜひもう一戦!」


 へへっ。これで次の仕込みは完了だ。


『うっわー、父ちゃんめちゃドヤってるし。マジ悪役ヅラ〜。もーいーやっ。みんなっ、なんとしても父ちゃんの連勝を止めなさーい! この際だし多少の反則なら目ぇ瞑っちゃうもーん。見えない見えなーい』


 ハア? なんで立ち合い人のオメェが敵に回ってんだ。公明正大に審判しろや。


『手汗で砂いっぱいつけといて、張り手のフリして目潰しとかマジおすすめ。あとは内股蹴るよーにみせかけての、チンチンキーック!』


 こいつぁ奉納試合でもあるんだぞ。ちゃんとやれ。


『ほらほら次の人はやく早くっ。休ませたら損だし。見合ってみあって〜——』


 こんなふうにベリルの妨害はあったが、最後のアルコを裏投げで土俵の外へ放り出すまでキッチリこなしてやって予選終了。


『はいはい。父ちゃんの勝ちー。決勝おめー』


 ったく。もっと素直に親父の活躍を祝えっつうの。

 ほれ、観客席の母ちゃんを見習えよ。


「い、いけませんヒスイ様っ」

「——キャー! アセーロさん素敵っ。最強っ。非道っ。悪辣っ。その(いかめ)しさが堪らないわ〜♡♡」


 ……いいや、やっぱりこっちはこっちで小っ恥ずかしいから控えてもらいてぇ。

 なに騒いでるのか知らんが、興奮しすぎて側にいるダークエルフの姉ちゃんたちに諌められるじゃねぇか。


 まっ、なんにせよだ。俺の試合に限ってベリルに審判させるのは今後なしだな。

 こんどがあったら絶対に変更を要求しよう。つうか、あの醜態を見せたら次はねぇか。



 ちなみに、納得のいかん話だけども、ベリルが好き勝手に仕切りはじめてからが何気に予選試合で一番の盛りあがりを見せたんだ。

 いったいこれはどういうことか? もしや俺って実は嫌われてんの? いちおう王国公認の勇者なんだけど……。


『そんなん当然じゃーん。父ちゃんは人気の悪役レスラーみてーなもんだし〜』


 まったくもって、解せねぇ。

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