スモウ大会、開幕
早ぇもんで、ちょくちょく身体を動かしては用事に駆り出されたりと忙しくしてたら、あっちゅう間にスモウ大会当日がやってきた。
前回とは違い今回は出場者なんで、チビたちのお守りはヒスイに任せてある。
ベリルは運営側の者が面倒見てくれるってことになってるんだが、それもそれで心配が尽きねぇ……。
俺を含めた選手は客より早くに会場へ赴く。
わざわざ魔導列車を走らせて届けてくれる厚遇っぷりだ。
ふと線路の傍を見ると、先日まで稽古場代わりに使われてた道はキッチリ舗装済みになっていた。
ここに観客が列をなすんだと想像したら、自ずと気分があがるってもんだ。それは俺以外も同じらしい。
到着早々に選手の待ち合い室に案内された。まだ予選も済んでねぇから芋洗い状態。
そこへ運営側の者がやってきて、
『ええー、本日の予定についてご説明します』
魔導メガホンで語りはじめた。
まとめちまうと——
予選は十人一組の勝ち残り方式。
制限時間中は順番に当たっていく。
なんど負けても負傷がなければ挑んでよし。ただし、途中に治療はないから各自自己判断で。
そのなかで勝星が一番多い者が本選へ進出。
だと。
誰の案かは知らんが、いいんじゃねぇか。
目一杯ぶつかってこそだぜ。
せっかくの腕試し、ここに集まった連中も一発勝負で決まったら心残りになっちまうもんな。
ちなみにチビっ子スモウ大会の方も、手押しスモウっつう違いはあれど段取りは変わらん。思うに、予選に限れば伸びしろたっぷりのチビたちの方が見応えがあるじゃねぇかな。
こっちは翌日の予定。チビたちの奮闘を見物させてもらうのは明日からだ。
『では、支度が整いましたので選手の皆さんは会場へお願いします。これから陛下ご臨席の元、開会式を行います』
◇
貴賓席の陛下を含め、皆が厳かに祭壇に向くなか、
『宣誓! 我々はスモウ競技者精神に則り、正々堂々、戦うことを誓います。選手代表ミネラリア王国第一王子プラティーノ——こと、スモウ大会のあいだはサボリ関』
殿下……。ずいぶんと茶目っ気のある宣誓をしちまって、まぁ。
つうか最後のは予定にないセリフだろ。陛下の側に立つ右大臣殿の生真面目ヅラがピクピク引き攣ってんじゃねぇか。これ、絶対にあとで小言食うやつだぜ。
つっても、
「「「キャー! プラティーノ殿下ぁあああー!」」」
「「「サボリ関様〜‼︎」」」
会場を温めるっつう意味では大成功だ。
『つづいては、スモウ大会並びにチビっ子スモウ大会実行委員長ベリル・デ・トルトゥーガ様よりご挨拶です』
おいコラ聞いてねぇぞ。
俺ぁてっきりそういう役はポルタシオ閣下が務めるもんとばかり思ってたんだが……、
『うおっほん……。あーしが実行委員長の小悪魔ベリルちゃんでーす。いぇいいぇーい! 父ちゃん見てる〜?』
あんの問題児め、よりにもよって最近ご無沙汰だった小悪魔仮装で登場かよ。
「「「……え、悪魔⁇」」」
『ひししっ。カワイイっしょー。えっとねー、お相撲大会の方は解説者しゃんしてー、チビっ子大相撲の方は審判さんやりまーす。あとあと〜、いっぱいコスするからそっちもチェックよろー』
脇役に徹しておけ、この目立ちたがりめ。
『おっとそーそー、もー知ってるかもしんないけど聞いてー。今回の入場料とか魔導列車の運賃とか、他にも屋台の売り上げとか賭けの利益とか——あっ、これってタイタニオ殿の協力あってだし。そーゆーのぜーんぶ、チビっ子ハウスってゆーとこの寄付金になっから。だからじゃんじゃんおカネ使ってねー。そーすっとみんなハッピー。つーわけでお相撲大会の期間中はママさんたちも、パパさん子供ちゃんたちのおねだりは大目にみてあげてプリ〜ズっ』
しかも長ぇ。
『ついでに言っちゃうとー、こないだ発売になったばっかでめちゃ話題のプルオーバーボタンダウンシャツも、今日の夕方から予約開始になるお妃さまとお姫さまモデルのリングも、実はチャリティーだし。オシャレさんはゼッタイゲッチューしなくっちゃ! んで〜』
『——じ、実行委員長! ご挨拶、ありがとうございました』
『はあー? あーしまだ言うことあんのにー』
冷や汗かいた司会の役人が止めにはいり、ベリルはブー垂れる。
『——きぃーっ。あーしのお話まだ終わってなぁあああ〜い!』
『わ、わかりました、わかりましたからっ』
まだ騒ぐワガママ娘は係の者に抱っこされて壇上から立ちのかされた。
それがツボだったのか、会場のあちこちからは笑いが漏れる。言うまでもなく俺ぁ苦笑いだ。
『最後に、国王陛下よりお言葉を頂戴したく存じます』
司会の役人に招かれて、陛下が壇上へ。
さっきまでのチャラけた空気が厳粛なものに変わる。
『うむ。余がミネラリア国王ディネイロ十八世である。先の実行委員長のくだりが長かったので、余は手短に済まそう。皆を待ち遠しくさせるのは本望ではない。それに、余もスモウ大会を心待ちにしておったのでな』
初めてお声を耳にする者も多く緊張感が満ちた場を、陛下は軽い冗談まで交えて解きほぐす。
『実行委員長が申しておったとおり、この催しでの利益は不憫な子らの施設運営に当てられてる。すでにその試みの一端ははじまっており、チビっ子スモウ大会に参加する者のなかにも施設の出身者がおるそうだ。……なんと素晴らしいことではないか』
なにを想像したのか、感涙する者までいた。
『それもこれもすべては一人の幼き娘の働きかけによるもの。言うまでもなく、先ほど長話をしたベリルだ。もちろん教会の全面的な助力、余の忠臣たちの尽力、そして今日観戦に参った其方らがあってのことだというのは忘れてはならない』
ここで陛下はチビたちへ目を向けた。
突然投げかけられた視線の先にいたギリギリお利口さん——言い方を変えれば、退屈そうにしていたチビたちは慌ててピリッと。
そのなかで、はじめっから話を理解していた一人であり最大の当事者は、陛下の眼差しを直に受け止めた。
『よくぞここまで参った。其方の試合も、余は心より楽しみにしておるぞ』
元奴隷のチビに、壇上からとはいえ国王陛下が言葉をかけた。前代未聞もいいところだ。気づいてる者は少ねぇだろうがな。
おいエド。オメェはチコマロの支えになるつもりで参加したのかもしれんけどよ、陛下がここまでしてくださったんだ。ヘタな試合は見せられねぇぞ。
テメェはテメェで精一杯やれや。それが、オメェらと似た境遇のチビたちを救うことにも繋がる。
って、いちいち言われんでも重々承知ってツラしてやがるぜ。おませなこって。
『今日この日を迎えられたことを、余は、嬉しく思う。皆、存分に楽しんでいくとよい』
さぁ、いよいよスモウ大会の開幕だ!
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