すでに王都はお祭りムード⑪
先手必勝だぜ。
装飾品やらの決めるまで時間がかかりそうな贅沢品を選んでる客じゃあなく、俺は魔導ギアを選んでる実用性に重きを置いてそうな客から声をかけた。
「いらっしゃい」
「ああ、今日は短槍か短剣を——ヒッ‼︎ ォ、オーガ⁉︎ まさかトルトゥーガ子爵様? ……ですか⁇」
「おう、嬉しいねぇ。アンタぁ俺のこと知ってんのかい。割り引いてやるこたぁできねぇが、魔導ギアのことならなんでも聞いてくれ。いっちゃんの品を勧めるぜ」
身なりからして、この若い客はどこぞの貴族の従者だろう。まだ少年が抜けきってねぇ。
となると、おそらくは主人の使いで魔導ギアを買いにきたってところか。
「本当によろしいので? 子爵様のオススメであれば主人も喜ぶことでしょうけれど……」
客とはいえ俺との身分の違いに気が引けちまってんな。こりゃあよくねぇ。
「ここにいるのは傭兵のアセーロ。猫の手でも借りてぇってんで駆り出された日雇い店員だ。細けぇことは気にせんでいい」
「……そういうことでしたら」
こうやってなんとか聞き出した要望は、戦場で主人の周りを固める従者たちが持つ武器を求めてる、だそうだ。
「普通に考えると腰のモノを選びそうだが、俺は短槍を勧める」
「というと……、その理由をお聞かせ願えますか?」
どうやら戦の経験はねぇらしい。
「鞘に収めた腰のモンを抜く機会ってのは、思ったより少ねぇんだ。いざって場面で役には立つ。けども、そうなる前に間合いの取りやすい武器を持っておく方が主人を逃す時間を作りやすい。相手に見せておくってのも充分な牽制になるんだぜ」
「なるほど!」
「アンタらの腕を疑ってるわけじゃあねぇが、側付きなら僅かな対応の遅れが主の命取りになるってことは想定しておくべきだろ」
「はい! では、オススメしていただいた短槍をお願いします」
「何本ご入用で?」
「五本お願いします」
「まいど」
へへっ。何気に俺、イエーロに跡目を譲ったら武器屋のオヤジでも食ってけそうじゃねぇか。
気分よく会計を済ました品を包んで客を見送った。
そこでチラリとベリルの様子を伺うと……。
「きゃっははっ、それマジ〜!」
まるで接客しとるようには見えん。
がしかし、展示棚近くのテーブルには、積まれた装飾品やサンダルの見本品が山みてぇになってやがった。
相手はイイとこの、たぶんスモウ観戦に王都までやってきたどこぞの奥方だってのは見てとれる。間違いなく財布んなかには、あれらの品すべてを買えるカネが入ってるに違ぇねぇ。
「では、こちらの品を人数ぶん頂こうかしら」
——なっ⁉︎ 何人かは知らんが、あの数が倍々でまだ増えるだとっ。
正直勝ったつもりでいた俺の鼻っ柱はベッキベキ。
が、こっちの驚愕をよそに、ベリルは「つーかさー」と、ご婦人に控えるように告げた。
「シェアしたらよくなーい。奥さんが使うんじゃなくって、身の回りのお世話する人たちのぶんなんでしょー。ならさっ、みんなで使ったらどーお? 毎日気分変えていろんな種類たくさん楽しめんじゃーん」
「そうねぇ。それならあの娘たちも、お互い身なりに気を配るようになるかもしれないわ。打ち解けもするかしらね」
「うんうん。きっと仲良しするし」
と、ベリルはさらに別の意匠の品も勧めていく。当然、二つ目の品物の山が。
「そーいえばー、これ、まだ王都では売りに出してないんだけどー」
と、自分が着てるシャツと、展示された品のいくつかを見せることまでした。
「まぁ、これはオパァリア様がお召しになっていた……」
「そーそー。オシャレさんの普段着にもいーしー、忙しくしてる住み込みのお手伝いさんとかめっちゃ重宝しそーじゃね? あと小っちゃい子とか」
「ええ。そちらもいただいていくわ」
「マジごめんだけど、さっきも言ったとーりでまだ発売してないのー。でーもー! でもね、予約は受け付けてっからよかったらどーかなって」
「そうねぇ……。けれど、すぐにはあの娘たちの寸法がわからないのよね」
「それならだいじょぶ! 身長わかればオッケーだし。あと買ってもらう前に試着してもらって取っ替えるのもありだから」
「まぁ! 仕立て直す手間もかからないなんて」
「まーねー。なんたって、あの有名なサストロがパターン引いてっから」
「では取り急ぎ……」
と、ご婦人はスンゲェ数の予約をした。
さらにベリルはシャツだけに留まらず、
「でねでね、耳寄り情報パートツー。お妃さまとお姫さまの指輪、見たことあーる?」
「ええ、緋色の素敵な……——もしや⁉︎」
「そのとーりー。あれ、あーしデザインだもーん。つーことは〜」
「——くださいな!」
「ひひっ、まいどー。色味は琥珀色っぽい感じでー、いまでてる装飾品と同じだけど、お妃さまお姫さま公認のモデルだし」
「入荷はいつごろなのかしら?」
「シャツはお相撲大会の時期でー。ごめんだけど小悪魔ヒルズまで取りにきてもらわなきゃだし。試着もあっから。でー、お妃さまモデルとお姫さまモデルは完全受注生産って感じだから、同じ日に予約取りはじめてー、注文の数にもよるけど翌月くらいかなー」
もう財布の紐がビロンビロンなご婦人に、
「ホントはまだ予約できないんだけどね。たくさん買ってくれるみたいだし、奥さんだけ特別に」
トドメの小悪魔の囁き。
ご婦人はバカスカ買い物して連れの従者らの両腕を荷物で塞いだら、ホクホクな様子で帰っていった。
「そのうち会員カードとか作ろっかなー」
だとよ。
荒稼ぎしたってのに、ベリルはなんでもないふうに言ってのける。
こっちに寄ってくる足取りにも特別ドヤッた雰囲気はなく、当たり前の結果とでも言わんがばかりだ。
「ねーねー調子どーお? お客さん多いしめちゃイージーじゃね?」
このひと言で——俺の心は折れた。
「くひひっ。父ちゃんだってガンバったじゃーん。まさか接客できるなんて思ってなかったしー」
ぐぬぬぬぅ……くぅうう。なんも言い返せん!
コイツにイジる気も悪気もねぇのが、余計に悔しい。
認めよう。今回は俺の完敗だ。
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