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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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すでに王都はお祭りムード⑤


 タイタニオ殿の屋敷をあとにした俺とベリルは、その足で王宮に向かった。

 大貴族の邸宅から陛下のお膝元へか……、慣れってのは怖ぇな。数年前の俺なら胃がキリキリしてただろう。


 お偉方に良くしてもらえんのはありがてぇが、気安くなりすぎんよう気を引き締めとかんと。

 近々スモウ大会ともう一つ国を挙げての催しが控えてる。となれば普段は顔を合わさんで済む口煩ぇ連中と王宮で鉢合わせっつう可能性がないとはいえん。

 できることなら、アレ(・・)だけは参加したくねぇんだがな……。


 王宮の門前で肩車してたベリルを降ろし、俺も屈んで目を合わせた。

 その様子に、近衛たちが不思議そうにこっちへ目をくれるのも一瞬で、内の一人はすぐポルタシオ閣下の元へ知らせに向かってくれたようだ。


「ん、どったん?」

「いいかベリル。絶対に知らん貴族とモメるなよ」

「はあー? あーし、父ちゃんみてーな無法者じゃねーし」


 それだそれ。そういう軽口を控えろっつってんだよ、俺ぁ。


「オメェから絡むだけに限らん。なんの気なしにとった態度で因縁つけられることだってあんだろ。知らん貴族を見かけたら大人しくしておけって意味だ」

「つーかー、知らない人だったら貴族さんだってわかんなくね?」


 ああ言えばこう言う。ったく、コイツは素直に頷けんのかい。


「あからさまに鼻持ちならねぇヤツはだいたいそうだ。あと見栄っ張りっぽいのとか性格悪そうなのを見かけたら貴族だと思え」

「迷宮オジサンみたいなー?」

「そうだ。ああいう手合いは意外と多い。気に入らん者は貴族だと決めつけておけば、まず間違いねぇ。覚えとけ」

「ほーい」


 わかったならよし。と、立ち上がったら門の向こうっ側には、


「……のう、トルトゥーガ殿。そういう話はここでせん方がよいと思うがの」


 いまにも頭を抱えそうなポルタシオ閣下が。


「ひひっ。父ちゃん注意されてやんのー。将軍さま、おひさー」

「うむ。ベリル嬢も元気なようでなにより」


 どうしてこの方は、いちいち出迎えにくるんだ。そういう立場じゃねぇだろうに。


「なぜか気になるかの?」


 どうやら顔に出ちまったらしい。

 俺が否定せずにいると、答えたのはポルタシオ閣下ではなくベリル。


「どーせ放っとくと、すぐ貴族さんとケンカしそーだからじゃね。ゆーて父ちゃんトラブりまくりじゃーん」


 んなマネするわけ………ハァ〜ア。どうやら閣下も、うちの娘と同じ印象を抱いてるらしい。そういうツラしてらぁ。


「もちろんそれだけが理由ではないがのう。ワシなりに礼を尽くしているつもりだ。気を悪くせんでくれ」


 ホントかよ。



 ポルタシオ閣下の執務室に通されると、


「そういえば、ベリル嬢からの紹介状を持った者がきておったぞ」


 さっそくモモタ殿の話題に。


「おおーう。将軍さまはモモタロさんに会ったん?」

「いいや。東方の者がスモウ大会に出場したいとやってきた、そう報告を受けただけでのう。残念ながら会えんかったがな」

「そっかー。あーし的にめちゃ注目選手だし」

「ほう」

「腕が立つのはもちろんですが、できた御仁でして」

「トルトゥーガ殿がそこまで推すとは。ますます会えなかったことが残念でならんのう」

「モモタロさんは出場できそーな感じ?」

「うむ。なにせスモウ大会の発起人であるベリル嬢直筆の紹介状を携えてきたのだ。断る理由がない」

「そっかそっかー。よかった〜」


 へへっ。実際に手合わせしたら腰抜かすぞ。

 ありゃあ一種の極みまで達してる類だ。なんも知らずにモモタ殿とスモウとるハメになるヤツらが不憫でならねぇよ。


 東方からきた達人の談義が終わると、つづいては大会の受け付け状況や進捗云々の話へ。

 そんなかで問題児はしれっと、立ち合い人をやるやら実況がどうのこうのとテメェの要求を混ぜてった。


「ワシとベリル嬢とで解説するとな?」

「どっちもぜんぶの試合はムリだけど、知らない人が観てもわかるよーにしといた方が盛りあがりそーだし」

「それもそうかの。しかし観客の前で話さねばならんとは……。ワシにはちぃと荷が勝ちすぎるのではないかのう」

「将軍さまイヤなら、サボリ関でもいーけど」

「それが、プラティーノ殿下は——」

「もしかして出たがってたりしてー」

「……そのとおりだ」


 おいおい勘弁してくれよ。俺ぁ絶対当たりたくねぇぞ。


「しかも今回は身分を隠さずにと仰せでな」

「なにがダメなーん?」

「試合にならんであろうて」

「いやいや。自分から出るんだし、もし父ちゃんがポイ〜ッてしちゃったとしても怒んないっしょー。そもそもお相撲はルールに則った試合なわけじゃーん。誰が文句言うのさー」

「門前でトルトゥーガ殿が話しておったような者たちがコソコソと喧しいのだ。勝っても負けてもの」

「うっざー」


 殿下も殿下で不自由されてんだな。


「選手センセーみたいのしてもダメかな〜?」


 首を傾げるポルタシオ閣下にベリルは、言葉をつけ足す。


「『センセー、あーしらスポーツマンシップに則り、せーせーどーどーガンバるって誓いまーす』みたいなやつ」

「そいつを誰に誓う?」


 俺の問いに、


「そんなんセンセーじゃね。あとは神前試合だし、女神さまたちしかなくなーい」


 ベリルは深い考えもなく答えた。

 しかし悪くはねぇ案。

 あとよベリル、オメェたぶんだが『先生』と『宣誓』を間違えて覚えてんぞ。


「閣下、一考の余地がありそうでは?」

「うむ。よき案ではないかの。一度、参議殿たちと図ってみよう」

「やってやってーぜひやっちゃってー。あっ、そーそー将軍さまー、お孫ちゃんたちは出ないの?」

「もちろんランシオもアルコも出場するぞ。日々、打倒トルトゥーガ殿と励んでおるわい。また胸を貸してやってくれ」

「ひししっ。あーしワクワクが止まんなーい」


 まったくもって同感だ。


「でーも〜! も〜っとあーしがウキウキしちゃうのは〜、父ちゃんの勇者さまゲラゲラの式典の方だし!」


 それについちゃあ真逆。


「では、次はそちらの打ち合わせとするかのう」

「…………頼んます」

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