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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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すでに王都はお祭りムード④


 ふぅ……茶が美味ぇ。


 まだ二人の儲け話はつづいてる。

 ガンバって理解しようとしているプレシア嬢の姿が、娘にいいところを見せたいタイタニオ殿を余計に白熱させてしまってること、本人は気づいてるんだろうか。


「やはり、同日は避けるべきであろうな」

「タイタニオどののゆーとーりかもー。てなるとスモウ大会の二日前くらいがいっかー」

「うむ。客の取り合いになってしまうであろう」

「そしたらさー、ついでに試飲してもらって、どの麦ジュースの味が人気なのか絞ったらイイかもねー。在庫切れとかも対策できそーだし」

「うむ。目安にはなるか……。そのあたりは、屋台を担う者とイエーロ殿とで話してもらうとしよう」


 以前はイエーロが屋台やってくれる者に当たりをつけるって方針だったんだが、スモウ大会の規模に釣り合うほど手広くはできんという話になり、結局はタイタニオ殿を頼ることに。つまりはお得意の丸投げ。

 アイツもアイツでスモウ大会にかけてるモノがあるんだ。負担は少ねぇ方がいい。


「そーいや、タイタニオ殿んところからは誰か出場しないのー?」

「賭けの胴元なのでな。しかし子供たちの手押しスモウには、選手を出す予定がなくはない……」


 どうした? 歯切れが悪ぃ。

 その理由はタイタニオ殿のすぐ隣にあった。


「はい! プレシアが出ます」


「「——は⁉︎」」


 俺とベリルの声が重なる。

 ますますタイタニオ殿の顔色が優れなくなっていく。


「なぁプレシアよ、考え直してはくれないか?」

「いいえです、お父さま。プレシアはチャリティーで、まだシャツを着ることしかしていません。貴族として、お父さまの娘として、プレシアは催しにキチンと参加したいのです」


 なんと立派な……。

 タイタニオ殿はいい教育をされてる。ぜひ、ワガママ娘をそのまんまにしてる俺に、ご指南願いてぇぜ。

 おうベリル、テメェは人任せがすぎるからな。プレシア嬢をよっっく見習えや。


「めっちゃエライ! プレシアちゃんマジいい子!」

「ベリル嬢、煽ってくれるな。危険が少ない競技とはいえ、男女の区別なく競うのだ……」


 こんくれぇの子供なら、男女差は大してねぇはず。どっちかってぇと女子の方が育ちがいいまである。


「ひひっ。プレシアちゃんの対戦相手さ〜あ、手ぇピトッてしたらドキドキしちゃって試合どころじゃねーんじゃねー」


 途端にタイタニオ殿の眉間がビキビキっと。

 …………んだよ。そんなくだらん理由で反対してたのか。


「てて、て手を繋いだり握るのではありませんよ。押しあう競技なのですからっ」

「プレシアちゃんはヘーキでも、相手の子はムリっぽいなー。男子って基本エッチだし〜」

「おいベリルいい加減にしろ。神前試合を穢すようなこと言うじゃねぇ。バチ当たりめ」

「おっといっけね」


 ったく。ここらでやめとかんと、タイタニオ殿が本気でチビっ子スモウ大会を阻止しかねんぞ。


「ベリルさまは出場されないのですか?」

「あーし審判するし」


 初耳だが。


「お相撲大会の方は不公平にならないよーに解説役してっから、安心してー」


 こっちも初耳だ。


「まさか魔導メガホンを使うつもりか?」

「そりゃ使うっしょー。だいじょぶだいじょぶ。将軍さまもオッケーくれるってー」


 コイツのやりたい放題を阻止する機会は、ポルタシオ閣下んとこに顔出してからだな。いまは置いておこう。


「でもさー、マジ面白くなってきたねー。うちからはチコマロとエドが出るっしょー。プレシアちゃんも出てー、あとたぶんハナタレ山もでるし。いーじゃんいーじゃん、あーしワクワクしちゃーう」


 アイツか。間違いなく出るだろうな。どんな成長をしたか楽しみだぜ。


「……ベリル嬢。名前からして男子のようだが、どのような者なのだ?」

「チコマロとエドは、わんぱくボーズとマッサージ大好きお利口さん系男子のコンビ。でー、ハナタレ山は父ちゃんとスモウとったこともある未来の横綱だし」

「——なんと⁉︎ トルトゥーガ殿の前に立てたのか」

「めっちゃ頭突きしてたし」

「ええ。なかなか見どころのあるヤツでしたよ。少々おバカっぽいけど、母ちゃんを思いやれるいいガキだった」


 チビどもだって本気だ。お遊びなんかじゃあねぇ。

 それがタイタニオ殿にも伝わったのか、少し意見を変えてくれたようだ。


「いいかいプレシア。真剣に取り組みなさい。他者と対峙する、その空気を知るだけでもプレシアの将来に活きるのだからね」

「はい。お父さま」

「ケガがないように気をつけること。そしてチャリティーのことは考えないこと。この二つを約束できるなら私からはもうなにも言わない」

「あの……、チャリティーのことを考えてはいけないのは、なぜでしょう?」

「出場すること自体が目標になってしまうからだよ」


 それのなにがいけないのか。プレシア嬢はそういう表情だ。

 タイタニオ殿に、さっきの以上の説明をするつもりはねぇらしい。意外だぜ。テメェで考えろっつう厳しい教え方もするんだな。


「ゆーてみんなガチだし」

「ガチ……本気という意味ですね」

「そーそー。たくさんの人が観てる前で、いっしょーけんめー練習した子と試合すんだもん、他のこと考えてたらみんなに失礼になっちゃうし。タイタニオどのはそーゆーの言いたいんじゃね」


 それもある。が、タイタニオ殿が一番に伝えてぇのは、


「プレシア嬢、ちぃとキツいこと言うが気を悪くせんでもらいてぇ」

「はい。お願いします」

「たぶんいまの気分のまんまだと、相手に呑まれて終わる。それじゃあプレシア嬢の実りにはならねぇ。ベリルはああ言ったが、観客のことも対戦相手のことも考えなくっていい。当然、チャリティーのこともな。自分のためだけに戦う。それが土俵に立つ最低条件だ」


 やっぱり賢い子だぜ。伝わったらしい。


「……トルトゥーガさまのお言葉、プレシアは忘れません」


 ここで大仰に頷いとけばいいもんを、タイタニオ殿は『パパのお言葉は?』みてぇなツラしてらぁ。

 っとに。その過ぎた子煩悩はどうにかならんのかい。


「よーし。あーしがプレシアちゃんに秘技を伝授しちゃうし!」

「まぁベリルさま、ぜひに!」


 と、伝えられていくヒッデェ策に俺とタイタニオ殿はただただ眉を潜める。二人とも本気でやれと言った手前、止めるに止められん。


 この手管が披露されるのはチビっ子スモウ大会の当日。


「プレシアは本気で勝ちにいきます!」

「そのイキだし。ひひっ、めっちゃ楽しみ〜」


 きっと大半のチビはイチコロだろうな。そのたんびにタイタニオ殿のコメカミには青筋が……、目に浮かぶぜ。

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