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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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すでに王都はお祭りムード③


「——ベリル様!」

「これプレシア。挨拶が先であろう」


 タイタニオ殿の屋敷につくなりプレシア嬢はベリルの手を取って、なんぞ訴えようとした。

 言いたくて言いたくてしかたねぇことを抑えきれん、そんな様子だ。


 逆の画なら想像つくが……、いったいどうしたってんだ?


「どーどー、プレシアちゃんどーどーだし」

「どうどうではありませんっ。大人気で困っているのですから!」

「……なにが⁇」

「ベリル様の仕立てられたシャツのお話ですっ」


 そういやベリルが以前、プレシア嬢に『モデルさん』とか言って宣伝してほしいと頼んでたな。


「ここのところプレシアは、毎日毎日おトモダチに聞かれて大変なのですよ」

「おおーう。『どこで売ってるのー?』みたいな?」

「それもあります。けれど実家から送られてくる子もいまして、王都で買えるのはいつなのかと、みんなプレシアに聞いてこられるのです」


 なるほど。

 実は、まだシャツは王都の小悪魔ヒルズでは売りに出してねぇ。

 ワル商人ことノウロが多少は流してるかもしれんけど、アイツなら高く売れる競合の少ねぇ地方を優先していくに決まってるわな。

 その結果、王都で手に入らんのに王都で流行るって歪な状態になっちまってるってことらしい。

 

「ひひっ。イイ感じじゃーん」

「——イイ感じではありません!」

「まぁまぁプレシア、憤るでない。ベリル嬢もここまでの反応があるとは思っていなかったのではないか。悪気があってではないのだ」

「それは……、わかっておりますけれど……」


 タイタニオ殿が宥めてくれて、ようやくプレシア嬢は落ち着いてくれた。


「そーそー。プレシアちゃんが可愛すぎんのが罪だし」

「ふむ。ベリル嬢の申すとおりだ」

「プ、プレシアは、可愛くなんて……」


 そっからタイタニオ殿に大人の方(・・・・)の反応を聞いてみると、こっちはボチボチってとろこだった。


 その理由を考えるに、


「プルオーバーだし、小っちゃい子でも自分で着られるのが大っきいんじゃね。普段はいいけどー、自分で着替えられるよーにならないとゼッタイ困るときあるし」

「昔ながらの『着替えは従者に任せよ』と教える貴族家もある。しかし正装はともかく、普段までそうしていては不便が多くて叶わん。いまは寄宿舎でも、手伝いはすれど自分で着替えるよう指導していると聞く。その方が身嗜みにも気が向くようになるから、という理由だそうだ」


 ベリルとタイタニオ殿がまとめてくれたとおり。


「たしかにそれあるかもしんなーい。ちょっと服乱れたときも、パパッと直せないと困っちまうもんねー」

「プ、プレシアはお着替えくらい自分でできますよ」


 ベリルと同い年。つうことは八つだ。で、着替えにはまだ不安が残る、と。

 見るに、プレシア嬢の普段着ですら俺らが着る服よりゴテゴテ装飾が多くて大人でも大変そうだ。なら、しかたなしってとこか。


「つーことは、子供服を押しだすのありっぽい?」


 まーたベリルは商売の手ぇ広げようとしやがって。

 仕立て職人のサストロが泣くぞ。……いや、アイツなら寝る間がなくなっても喜んでやりそうだぜ。こりゃあ俺が注意しとかんと。


「それで、ベリルさま。シャツはいつごろ売りにだされるのですか?」

「発売日はスモウ大会とおんなじタイミングにする予定だし。小悪魔ヒルズの三階に並べるつもりー」


 これを聞いてプレシア嬢はあからさまにホッとしてみせた。気の毒に。よっぽど学友からの追及の手が激しかったんだろう。


「しかし疑問だな」

「どったの、父ちゃん」

「なんで王都から売りはじめなかったんだ?」

「そんなん数が揃わないからに決まってんじゃーん」

「出来上がるたんびに売ってけばいいじゃねぇか」

「ちっちっち、違うんだなーこれが。こーゆーのは初動が大事だし」


 はじまっちまったぜ。ベリルお得意の俄か知識の披露が。


「行列がさらなるお客さんを集めるっつーの〜? 並んでまで買ってる画って、めっちゃ話題になると思わなーい。ゼーッタイ買えた人は鼻高々で自慢しちゃうってー」


 んな鼻持ちならんマネすんのは、オメェくれぇなもんだ。


「でね、次の入荷待ちとかなると、せっかく待つんだしいっぱい買おうってなるし」

「加えて、その売り上げによってチビっ子ハウスの運営費にも貢献できる。この宣伝文句も利くであろうな」

「それそれー。着てるだけで立派な人的なー」


 おかしい。……なぜだ?

 ベリルは不憫なチビたちのためになることをしているはずなのに、とんでもない悪事を働いてるように見えちまう。

 ……考えるまでもねぇな。コイツがわっりぃツラしてんのがいけねぇんだ。


「バズり確定のお姫さまモデルとお妃さまモデルのリングも、おんなじタイミングで予約受付けちゃうもんねー」

「それ、イエーロには伝えてあんのか?」

「まだー」


 ゼッテェ困り顔されるぞ。呑気にスモウとってる余裕なんかなくなっちまうんじゃねぇか。


「やるなベリル嬢。さらに列の最後尾が伸びそうではないか」

「でっしょー。ついでにさーあ、列並んでる人たちに麦ジュースの試飲とかもやっちゃおっかー。ハンバーガーの屋台も近くに開いたりー」


 コイツはケツの毛まで毟るつもりらしい。


「そうであった。その話もせねばな」


 そっから悪どいツラを突き合わせて、ベリルとタイタニオ殿は商売の話を詰めていく。


「……トルトゥーガさま。お菓子でもいただきませんか?」

「そいつぁありがてぇ」


 俺とプレシア嬢はポリポリ菓子を食いながら、耳を傾けるに終始した。


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