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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第六章

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すでに王都はお祭りムード②


「邪魔してるぜ」

「親父、来てたんだ。ずいぶんと早いね」


 イエーロのやつ、見ねぇと思ったら早朝から走り込みしてたらしい。


「——ぱぱぁ〜っ」


 ベリルの構い倒しから抜けだしたサユサが、膝に飛びつく。

 うちの娘はなんとも言えんツラして、それを見送ってた。


「サユサ。ちゃんと朝の挨拶はできたかい?」

「……んと、おはよ」

「は〜い! おはよーおはよー、おはよーさーんっ。ふひっ、めっちゃお利口さーん」

「ベリルは相変わらずだね」

「なーに兄ちゃん大人ぶってんのさー」


 もうイエーロは立派な大人だ。オメェとは違ってな。


「おっ、コメを持ってきてくれたのか」

「そーそー炊きたての銀シャリっ。兄ちゃんも一杯いっとく?」

「ああ、もらうよ」


 着替えたイエーロが食卓につくころに飯も炊きあがり、賑々しい朝食がはじまった。

 ベリルはコメを口に運んでは頬を綻ばせ、クロームァに世話されて辿々しく食うサユサの姿を見ては頬を弛ませ。


 イエーロはその光景を微笑ましく眺めて、テメェでおかわりをよそう。


「親父は?」

「おう頼む」


 にしても食うな。トルトゥーガにいたときから食う方だったが、それ以上だ。けども……。


「オメェ痩せたか」

「前より背は少しだけ伸びたかも。でも痩せたかな? 自分じゃわからないや」


 多少タッパが伸びたのも見て取れてた。

 元からイエーロは贅肉蓄えてたわけじゃねぇし、身体つきが弱っちくなったっつうことでもなし。となると……、


「立ち方が変わったとかじゃね。ダークエルフのお姉さんたちに鍛えてもらってんでしょ。そーゆーのありそーじゃーん」


 なるほどな。適当こいたわりには、ベリルの意見は的を射てるかもしれん。


「ひししっ。そーゆーのはクロームァちゃんが一番よくわかってそーだけど——いたっ」


 ったく。コイツは朝っぱらから。


「……あはは。答えづらいけど、たぶんまだクロームァは知らない、とだけ」

「ほーほー禁欲生活までしてんのかー。父ちゃんヤバくね。兄ちゃんマジだし」


 んなもん雰囲気の変わりようを見たらわかるさ。



 ベリルが弁当とオヤツのオニギリまでこさえさせたせいで、出発が少々遅れちまった。

 とはいってもまだ朝の内っつう頃合い。


 最初に向かったのは教会だ。


「神官長殿。いまいいですかい?」

「これはこれはトルトゥーガ様にベリル様。ようこそお越しくださいました。さぁ、奥の席へどうぞ」

 

 意外と混んでるが、平気か?

 自信の品を供物に捧げてる者もいれば、カネの出し入れに訪れてる者もいて、静謐な雰囲気とは程遠い。


「どーお、チビっ子力士は集まりそーお?」

「ええ。各地より多くの子が手押しスモウの大会に出場するため、押し寄せてくることでしょう」

「おおーう。めちゃ楽しみー」

「ほっほっほ。まっこと」


 教会に一任しちまって正解だったな。

 聞くに、大きな問題など起こらずつつがなく広められたって話だ。


「して、分度器定規についてご相談させてもらっても?」


 なんぞあったのか?

 少し遠慮がちに神官長殿は切り出した。


「ありゃりゃ〜。売れ残っちゃったとか?」

「いえ、その逆でして……」


 どうやら売れ行きがよすぎて品物不足に困ってるらしい。

 サクサク作れるんだから追加分もなんとか用意できるだろ。と、俺は思ったんだが、


「いまより増やすのは、やめといた方がいっかなー」


 ベリルは違うらしい。いつもの勿体つけでもねぇ。


「分度器定規って一回買ったらずっと使えんじゃーん。小っちゃい子とかが勉強に使うよーになるんなら、作るの増やしてもいーけど」


 つまり、需要を満たしたらそれまでって品だから作りすぎるとムダになっちまう。

 それに加えて競合相手はなし。なにせ教会印の品にケンカ売るような商人なんざぁおらんからな。

 こんな理由なんでだ。


「左様で。でしたらいまのままがよろしいでしょうな」

「うん。でも神官長どのたちが、どーしても困ったらもっかい言ってー」

「ええ。その際は頼らせていただきます」


 こんな具合に教会での話を終え、つづいてはタイタニオ殿の屋敷へ。

 事前にブロンセを使いに出してるから、ここから真っ直ぐ伺う。


 その道中、ふと気になった。


「今日なんかひと多くなーい」


 いつにも増して賑やかな王都の往来。きっとこりゃあスモウ大会の効果なんだろう。


「ほらベリル」

「キャハッ」


 ひょいっと脇を掬いあげて、肩車だ。


「こーゆー違いがわかるくらい王都に連れてきてもらってんだねー」

「いきなりなんだい」

「べっつに〜。なんとなくだけどー」


 似合わん殊勝なセリフはやめておけ。びっくりしちまうだろ。あと、面倒事が舞い込むイヤな予感も同時にな。


「ほらほらあすこー。デッカい人いるし」


 と、ベリルは俺の頭のわきから屋台の方を指差す。

 そこにはたしかに身なりのいい大柄な男がデデンと、一角に居座っていた。で、ソイツは従者の手で次々と運ばれてくる屋台メシをムッスリ顔でバクバク腹に収めてたんだ。

 つうかあれって……。


「ワル辺境伯じゃーん」

「だな」

「なんか前より大っきくなってなーい」

「……だな」


 他人(ひと)のこと言えねぇのは重々承知のうえで、


「どうして辺境伯殿が屋台なんかでメシ食ってんだよ」

「上品なお店だとゴハンくるまで待たされるからイヤ、とかじゃね」


 ありそうな話だ。目に浮かぶぜ。


「あーしらもよってく?」

「タイタニオ殿んとこの上等な茶菓子が入らなくなっちまうぞ」

「よゆーだもーん。ゆーてお菓子だし。別腹だし」


 こりゃあコイツまたデブっちまうな。


 結局、冷やかすことになった屋台では、飴屋や乾物屋らの懐かしいツラに会えた。

 こうして前回やったスモウ大会の顔ぶれを見ると、もうじきなんだってぇ気分になる。


 大きな違いは、俺もウァルゴードン殿も今回は出る側ってことだ。

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