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おサムライさーん③


 宴会は、日が暮れる前からはじまった。


 うちの連中はそれぞれ気が合いそうな船乗りを掴まえては酒を勧め、船旅や東方についての話をサカナに一杯二杯と重ねていく。


 マルガリテはヒスイら女衆に囲まれて、服やら装飾品など魚介種(マーフォーク)の風習について根掘り葉掘りと。


 んで、ベリルはチビたちを集めてコメ料理を振る舞ってた。

 オニギリに東方の調味料を塗って軽く焦げ目をつけた片手で食えそうなモンだが、香ばしい匂いに食欲を唆られちまう。

 でもって『俺らにゃあお裾分けなしか』と思いきや、とっておきを分けてくれたんだ。


「ふぅ……。このコメの酒、どっしり酒精がキていいな。それでいて甘くも辛くもある。飲み口も含めて気に入ったぜ」

「カッカッカッ。であろう。故郷の酒を誉められるとは、これほど嬉しいものなのだな」


 そう述べるモモタ殿。気持ちはわからなくもねぇ。うちに地酒なんざぁねぇけど。

 ではお返しにと、こっちからは王都で人気のぶどう酒を。それとキツめの麦酒も。


 しばらくして腹一杯になったチビどもが船乗りたちに話をねだると、マルガリテは女衆から引き剥がされ、


「驚くくらい順調だったさぁ……」


 言葉と雰囲気がまるで合ってねぇ語り口で、報告も兼ねた冒険譚がはじまる。


 初の航路ということで、かなりヒヤッとする場面も少なくなかったそうだ。

 時化(しけ)に難儀したり、勝手にどんどん沖へ流されてって岸を見失ったり、ようやく停泊できたと思えばあたりを魔物に囲まれたり、東方についてからの困難なんかも……。

 そして語りは、モモタ殿との出会いに差し掛かる。それは東方での取り引きを済ませ、荷を満載にした復路でのことだそうだ。


「ふむ。面映いな」


 当の本人は謙遜するくせでもあるのか、ポリポリと頬を掻く。


「すごいすごーい。海の上ダッシュして浮かんでる船を真っ二つとか、めちゃヤバーい!」


 マルガリテたちは『さぁ帰るか』って出航した矢先、海賊に絡まれちまったんだと。

 東方は平和な土地と想像してたが、どこにでも破落戸(ごろつき)みてぇな輩はいるもんなんだな。


 でだ。船乗りたちだって荒事でならした連中、いざ応戦って構えた。

 そこへ、たまたま釣りに出ていたモモタ殿が割って入ってくれたんだそうだ。


「異国から遥々やってこられた方に、東方は不成者(ならずもの)の地と思われては叶わぬゆえ」


 っつう理由で、はじめは賊たちに引くよう説得したらしい。だが決裂。


「アタイらも度肝抜かれちまってねぇ。だって背丈にも満たないカタナでもって、立派な帆船を真っ二つさっ」


 しかも海賊たちは一人として斬ってないらしい。返す刀で船を木片に変えて、浮きにしてやる余裕まであったんだとよ。

 スゲェ妙技だぜ。ぜひ一度この目にしてみてぇもんだ。もちろん戦場(いくさば)では勘弁願いてぇが。


「なーる。そんでお礼したくって話してたら、モモタロさんがミネラリアに興味もっちゃった感じかー」

「うむ。空を舞う屈強な大鬼種オーガの竜騎士団に、国家でさえ『大魔導』と一目置く南方妖精種(ダークエルフ)の首領。このお二方が夫婦(めおと)と言うではないか。好奇心を抑えきれるわけもなく、図々しくも押しかけてしまった」

「ほーほー。んん? つーか東方にはママたちの話は残ってないの?」


 おいベリルやめておけ。

 そいつぁ東方ヒト種であるモモタ殿が生まれるより遥か昔の話になっちまう。となれば、俺としちゃあヒスイのご機嫌が心配だ。


「某が聞き及んでおるのは、南方妖精種らが建国に関わったという伝説。他には、いずこかの根城に引きこもるダークエルフに出会えたのなら、一つの新しい魔法と引き換えに古の魔法を授けてくれるという言い伝えのみであるな」

「おおーう。ママたちの魔法オタは昔っからなのかー」

「あら、ママたちはちゃんと暗殺業(おしごと)もしていたわよ」


「「…………」」


 ベリルも内容を察したらしい。


「代々巫女様が東方を治めていたころは『働かざるもの食うべからず』と、厄介な仕事を押しつけられたものよ。不穏な動きを察知しては火消しを申しつけられていたわ」

「マジ怖っ。それって命の灯火(ともしび)消しちゃう系じゃーん」

「ええ。けれど多くの人の営みを守るためですもの。なにより私たちの生活費のため。しかたのない犠牲よ」


 生活費のためって……。まぁ最初にヒスイに会ったころもそんな感じだったな。


 口にはしてねぇが、モモタ殿は大魔導が東方出身と聞いて驚いている様子。

 もっと元を辿ってけばダークエルフの起源は南方にある、だとすると当然の反応か。


「あっそーそー。父ちゃんもママもツヨツヨだけど、あーし知ってるだけで、あと二人くらいスゴイ人いるし」

「ほう。それはどのような御仁で?」


 ここで、耳を傾けてたうちの連中は僅かに反応。澄ましたツラして鼻の穴をプクプク開いてらぁ。


「父ちゃんよりデッカくてー——」


 ゴーブレたち年寄り連中だけでなく、装飾を担うデコラシオまで片眉がピクリと。

 しかし、


「たしか巨体種(トロル)だったっけ? ワル辺境伯ってゆー力持ちの巨人だし」


 居並ぶ図体らはシュンと肩を落とす。


「他にはねー、あーしぜんぜん好みじゃないけどイケメンって話題な——」


 こんどはホーローら若ぇ衆の目が爛々と輝く。だがそれもすぐ、


「初代横綱のサボリ関だし」


 白目に変わる。

 つうかプラティーノ王子殿下を数えんなら、テメェの兄貴も加えてやりゃあいいもんを。あの二人ならどっこいどっこいだろうに。


「参加者が多いと聞いた。となれば勝ち抜き戦になるのが順当であろう。……上手く全員と当たれればよいのだが」

「ひひっ。モモタロさん、めっちゃ自信家じゃーん」

「自信というより、これは欲であるな。某はまだまだ未熟者ゆえ」


 ほう。ベリルお得意の煽りも軽くいなされてらぁ。

 つまりいまのは驕りなんてまるでなし。自然体での発言ってことだ。


「んじゃ、そろそろ余興いっちゃおーう! チビっ子ちゃんたち大注目の一戦だしっ」

「手押しスモウであるな。ではトルトゥーガ殿、一手お相手願う」


 お遊びだとしても勝ちを譲るつもりは微塵もねぇらしい。そういうツラしてらぁ。たしかにアンタは未熟者だ。

 だが、そいつぁお互いさまか。

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