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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第五章

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魔導パドルシップ、出航⑮


 昨夜の宴んときは、やたらとヒスイが世話焼いてきたんで、マルガリテたちと話せなかった。

 陸沿いにどこまで進めたのかとか、中継地の目星はつけたんかとか、進捗を聞いときたかったんだけどな……。


 でもまぁ女房が妬いてんなら、それを押してまで聞く必要はねぇやな。とはいえだ、タイタニオ殿も絡んでる案件だから適当にはできん。


 つうわけで、朝メシ済ませてからベリルを連れてマルガリテんところへ向かった。


「マルガリテちゃん、おっはよーう!」

「ああ」

「おはよう。やっぱり船乗りは朝早ぇんだな」

「ねぇトルトゥーガの旦那。さっきからそこかしこで聞くけど……その『おはよう』ってのは挨拶なのかい?」

「そうだぞ。朝の挨拶だ」

「へえ。ならアタイも『おはよう』って返すべきかねぇ」


 このあとベリルが他の挨拶を教えてって時間を食ったが、それが済んだら本題へ。


「アタイらの船足で二月(ふたつき)くらい先までは進んだかねぇ。その間のめぼしい中継地は四つ。荷の方はタリターナ侯爵様が用意してくれたモンが漁村に山積みさぁ」


 さすがタイタニオ殿だ。仕事が早ぇや。


「慣れるまであとどんくらいかかりそーなん?」

「嘗めてもらっちゃあ困るよ。お命じとあればいますぐにでもいけるさぁ」

「ほーほー。んじゃ河くだって海に出るまでいってみよっか。それなら故障あっても戻って直せそーだし」

「了解。小悪魔オーナー」

「おうマルガリテ。バルコと船大工も連れていけ。万が一を考えたらその方がいいだろう」

「河をくだるだけだろう。まったく、親子揃って過保護なこって」


 ため息交じり了承すると、マルガリテは気怠げに手をヒラヒラさせて支度に取り掛かった。



 さて、船を使った交易に関わりたがっていたワル商人ことノウロはといえば、


「残念ですが、私は従来どおりの道程で商いさせてもらいます」


 変わらず馬車隊を率いて陸路を行くことになった。

 理由は、試しに乗せたとき船酔いで使い物にならなかったから。こればっかりは体質の問題だからな。


 ヴァルゴードン領で仕入れた綿花をリリウム領で降ろす。この経路は変わりはないが、うちとの行き来がなくなったぶん、いままでは回りきれなかった方面にも立ち寄って商いをするんだと。

 はじめは、魔導サンダルなんかの日常で使えそうな手頃なモンから間口を広げていくと、ノウロは張り切ってる。


「ねーワル商人、まだ見つかんない感じー?」

「ええ。なかなか良い出会いがありません」


 出会い? ベリルのやつ、こんどは何者を連れてくるつもりだ。


「まだ服そんなに作ってないから急がなくってもいーけど、カタログ作るまでには見っけてくんなきゃだかんねー。あとイイ感じの紙も」

「気にして各地を回るようにします。それでは」


 ペコリと頭を下げ、ノウロたちの馬車はトルトゥーガを発っていった。


「おいベリル。なんか俺に話しておくことはねぇか? あるよな」

「ん〜……、イラストレーターさんの話? 紙の話? どっちも言ってなかったっけ?」

「紙は聞いた気がする」


 そういや印刷云々ぬかしてたか。そんとき『再来年以降にしろ』と言ったのも覚えてんぞ。


「イラストレーターってのは絵描きを指すんだろ。そんなヤツを連れてきて、テメェはなにをやらせるつもりなんだい?」

「ワル商人に言ったとーり。服とかアクセのカタログ作るし」


 察するに、装飾品やら衣類やらの絵図つきの見本帳みてぇなもんか。……ふむ、なるほど。たしかに商売の役に立ちそうではある。が、しかしだ。


「いちいち絵ぇ描いてもらってたらエライ代金が嵩んじまうぞ。時間もかかるだろうしよ」

「そこは版画みたいにしていっぱい刷っちゃうもーん。つーか間に合うんなら、お相撲大会のチラシとかもそーしよーかと思ってるし」

「まて待て。俺ぁ前に『今年度は新しいこと打ち止め』と言いつけただろうが。忘れたんか?」

「はあー? お相撲大会は再来年開催じゃーん。ならオッケーじゃね」


 コイツ……。しれっとバンブーの件とか船の件とか増やしておいて、まだ飽き足らんのかよ。

 こりゃあベリルが求める絵描きが見つからんことを祈るほかなさそうだ。



 数日して——魔導パドルシップが船着場に戻ってきた。

 思ってたより帰りが遅かったが、見たところマルガリテたちにも船の方にも問題はなさそうだ。


「南周りできないものか探ってきたんだけどねぇ、やっぱりムリそうだよ」


 やっぱり寄り道してたんか。そりゃあ戻りが遅くなるはずだぜ。

 

 ちなみに南周りってのは海に出てからの航路の話。

 これまでは、うちよりずっと西に位置する漁村から海岸沿いを北へ向かう支度を進めてたが、もし逆周りの方が楽な航海になるんならと調べてみたんだそうだ。


「準備ムダになんなくてよかったじゃーん」

「フフッ、そうかも。アタイらも小悪魔オーナーみたく前向きに考えないといけないねぇ」


 マルガリテは珍しく年頃の娘らしい笑みを浮かべた。何気にコイツも、新しい船や知らん海に興奮してんのかもな。


「少し休ませてもらったらすぐに出航しようと考えてるけど、問題はないかい?」

「おおーう! とーとー東方‼︎」

「その一つ前段階さ。しばらくは中継地に物資を運びこまなくちゃあならないからねぇ。それが済み次第、一年を目処に北回りで東を目指してみるよ」


 となるとしばらくは顔を見せんってことか。


「そっかー。寂しーけどお米のためだもんねー」

「……あのさぁ小悪魔オーナー、そこは嘘でもアタイらの心配をしてくれないかい」

「ひひっ。ジョークジョーク。マジ気ぃつけてね」

「そういうのは出航の間際に告げておくれよ」

「なんかマルガリテちゃん注文多いしー」

「小悪魔オーナーほどじゃあないさっ」


 ベリルたちが軽口叩いてるあいだに、テキパキと食料や交換用部品なんかの荷は積み終えていた。


「バルコたち呼んでこよっか?」

「いらない気遣いだよ。せいぜい励むように伝えておいておくれ」


 ずいぶんとアッサリしてやがる。船乗りってのはこういうもんなのかもな。

 あとからバルコに恨みがましい目ぇ向けられそうだが、マルガリテがいらんというならそうするほかねぇや。


「トルトゥーガの旦那、小悪魔オーナー。……い、いってきます(・・・・・・)

「おう。いってらぁ」

「いってらー! 帰ってきたときは『ただいま』だかんねっ。あーし待ってるし」


 返事にフフッと頷き、マルガリテは魔導パドルシップへと乗りこむ。つづいて手下たちも。


 船着場から見送るのは俺とベリルだけ。

 他の者らもこんなに慌ただしく出航するたぁ思ってねぇんで、ずいぶんと寂しい見送りだ。俺らが試しに乗ったときとは大違い。

 船出をいちいち大袈裟にせんってのも、アイツらなり流儀というか験担ぎなのかもしれん。


 大きな船体を擦らせることなく、船は水路を進んでいく。

 気づいた者らは長い別れになるとも知らず気軽に手を振っていた。


 そんなふうに離れていくさまを、ちんまい娘がギリギリまで見守っていられるよう肩車してやる。

 だんだんと豆粒みてぇに小さく、遠くに離れてく船影に向けてデッカい声で、


「マルガリテちゃ〜ん、お米よろ〜!」


 だとさ。

 ったく、ベリルのやつ。飽きっぽいくせにコメに関してだけはまるでブレねぇでやんの。





ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 百話近くつづいた第五章は、これにて。

 多分に成り行き任せなところもありました。だからこそここまで話数も嵩んでしまったのですが、どうにかこうにか東方との米貿易がはじめられそうなところで、本章は締めくくりです。

 次章からはスモウ大会編へと突入します! 引き続きお付き合いくださいませ。


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