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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第五章

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魔導パドルシップ、出航⑫

誤字報告、ありがとうございます!


 カラコロコロコロコロ……。


 造船所から音が鳴りっぱなしなんで見にきてみれば、魔導パドルシップの水車が空回りしていた。

 おまけに、見習い船乗りたちが列を成してゾロゾロと。


「なにをやらせてんだい?」


 先頭にいたベリルに尋ねると、


「どんくらい回せんのか調べてんのー」


 だと。

 その隣では、チビっ子ハウス年長のエドが、カリカリと回せた数を覚え書きしている。

 これも身体を調べることに繋がるからだろうか、真剣そのものだ。


 しかし調べるったって……。


「まさか魔力切れまでやらせるつもりじゃあねぇだろうな」

「そのまさかー」


 おいおい。昼寝したら回復するんだろうけどよ、ちぃと酷だろ。


「あなた、これは大変有意義な研究なのですよ」


 ったく、ヒスイまで絡んでんのかい。

 俺は眉をよせて言葉足らずを補わせる。


「これはベリルちゃんの天才的な閃きでして、以前からチビっ子ハウスの子たちには協力をお願いしていたのですよ」


 協力? ホントかぁ。

 ベリルの日頃の行いもあり、どうしても訝しんだ目を向けずにはいられねぇ。


「いやマジだってー。お昼寝前に魔導歯車グルグルやって記録つけてんだってばー。でねー」


 と、はじまったベリルの長ぇ話をまとめると、


「つまりは、魔力切れを繰り返したら魔力の総量が増えていくってことか?」

「そーそー。そんな感じかもしんないねーってママとエドと研究してっし」


 ったく。『かも』でこんなことやらせんなよな。


「子供たちからは有意な結果が表れています。もし仮に、確実に魔力量を増やす方法が判明した場合の利点は計り知れません。魔力が増えた場合、その者の人生すら左右されるのではなくて」

「そりゃあわかるがよ、わざわざ試す必要あるのかい? ダークエルフの知識にも似たような鍛錬法がありそうじゃねぇかよ」

「私たちは長命なので……。そもそも魔力を増やす鍛錬などはしません。好き好んで魔法を繰り返すうちに自然と魔力が増していたという認識ですから」


 なるほど。強者ならではの理屈だ。


「んで、大人の方の結果は?」

「んん〜……はじめたばっかしだから、まだ微妙」

「どれ」


 とエドの手元、覚え書きを覗き込んでみたら結果は若干だが右肩上がりだった。


「ボチボチ増えてるな」

「いえ。この結果は魔力量が増えた結果なのか、それとも魔導歯車を回すコツを掴んだことによる影響なのか、未だハッキリとしていないのです」

「ほぉん。まっ、なんにせよだ、練習して多く回せるようになるなら意味はあるのかもしれん」

「でっしょー」


 それはいいとして、問題は、魔力切れまでやらせなくてもいいだろってぇところ。

 もちろん、研究してる内容については腑に落ちた。しかし見習い船乗りたちがどう思っとるのか、端的に言やぁイヤがってねぇのかが気になる。


「おう。正直に答えてくれ」


 ヒスイにもベリルにも口を挟むなと目で釘刺してから、次の番のヤツに聞いてみた。

 そしたらよ、


「正直、はじめのうちは魔力切れでクラクラする感じは怖かったです。でもそれがだんだんと慣れてくると、少しずつ気持ちよくなってって……」


 スンゲェ気持ち悪い答えが返ってきた。


 心配してたのがバカみてぇだぜ。

 もういいや。本当に嫌がってるヤツがいれば申し出てくんだろ。そういうことにしておこう。

 それにヒスイの口ぶりからすると、まるで見込みのねぇ話でもなさそうだしな。



 晩メシどき。いつもは食事の世話を焼くか俺の隣に腰掛けてるヒスイが、珍しく向かい側に。その隣にはベリルが子供イスに座ってる。


「なんだい改まって」


 察するに、面倒なことを言い出す雰囲気とは異なる。

 もしこれが厄介な話だったなら、さも素晴らしいことのように、こっちの意図なんか推し量らずグイグイ押してくるのが常だ。


 となると……。


「怒らんから正直に話せや」


 どうせ、なんぞやらかした後始末についてだろう。そう当たりをつけたんだが、


「はあ〜? 父ちゃんなに言ってんの?」


 ぜんぜん違ったらしい。


「あぁもうウザってぇ! いちいち勿体つけんなや。で、なんか話があるんだろ」

「でぃひひっ。聞いちゃーう? あーしとママの共同研究の結果ぁ」

「ベリルちゃん。まだ中間発表の仮説が立った段階なのだから、結論づけるのは早計ではなくて」


 …………これ、メチャクチャ頭が疲れるやつだ。


「こないだの魔力の量が云々ってやつか?」

「そーそーそれ!」

「あなたあなた、聞いてくださいまし。あのですねっ」


 メシ冷めちゃうから食いながらでもいいかい? ダメ? ダメか……。


 いまにも意識が遠のいてっちまいそうな難解な説論がつづく。何回も。延々と俺の理解が追いつくまで。


「……ふぅ。要は身体を鍛えんのと変わらんってことだな」

「おおーう、たしかにー。言われてみると似てるかもねー」


 オメェが俺に教えたんじゃねぇかよ。

 素早く強く動く、ゆっくり長く動く、適度な負荷で動く、鍛錬はこの三つがあり、逞しくなるには三番目が有効だってよ。

 あとは跳ねたり飛んだり瞬発的な使い方と、柔らかく大きく使うって二つが別にあるんだったか。


「魔力の成長にも同じことが言えるようでして……」


 と、またヒスイの解説がぶり返した。

 あれこれウンチク垂れてるが詰まるところコイツが言いてぇのは『それぞれの鍛え方に合った魔導歯車を用意させたい』と、そんなところだろう。


「けっこー細かくサイズ分けしなきゃだし」

「はじめのうちは、二〇回が限界って大きさだけでいいんじゃねぇか?」

「それでも個人個人で違うっしょー。あと、チビっ子ちゃんたちと大人でも差ぁあるし」

「そうだな……。ホーローたち若い衆の負担にならん範囲でなら頼んでもいいぞ」

「父ちゃんたちのぶんまで考えたら、それだけでけっこーなサイズ揃っちゃうかも!」


 まてまて待て。


「待てベリル。なぜ俺らも毎日魔力切れせねばならん?」


 本気でイヤなんだが。


「とーぜんじゃーん。あーしとママは普通のだと丸一日かかっちゃいそーだからやんないけど。父ちゃんたちはやった方がよくなーい。そのぶんデータもいっぱいとれるし。ほら、いーこと尽くめっ」


 どこがだよ。ったく。


「わぁった。俺は協力してやる。だがなベリル、これだけは約束しろ。見習い船乗り以外の者は本人の希望があった場合のみだ。強制とか唆すようなマネは許さんぞ。いいか」

「オッケーイ。ママもいーよね?」

「ええ、もちろんです。決して研究の犠牲などには致しませんよ」


 いや、俺ぁ犠牲とか以前の話をしてんだけどな……。


 まぁいい。いまんところ昼寝する他の欠点らしい欠点はねぇようで、チビたちもすこぶる健康とのこと。

 ベリルみてぇに著しく成長の枷になるってこともなく、そんな異常な魔力の伸びはみられんそうだ。これが唯一の心配だったんだが、問題なし。


 なんだか言いくるめられた気がせんでもねぇが……。いまの話どおりなら、日常に差し支えん程度に許可しても構わんか。

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