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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第五章

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魔導パドルシップ、出航!⑨


 翌朝……。

 支度も終え、出航直前になって、


「——お待ちを! お待ちをぉおおおー‼︎」


 数台の馬車が駆けこんできた。


「おおーう、ワル商人じゃーん」

「小悪魔会長、水くさいですぞ。大河を使った交易に私を噛ませてくれないなんて!」

「ひひっ。元気そーじゃーん」

「健康そのものです。で、話には伺っていましたが、これが魔導パドルシップですか……」


 近くで見てようやく、ノウロはその威容に慄いたようだ。


「すごくなーい」

「スゴイなどと、そんな簡単な言葉では言い表せません」

「乗ってく? どーせ次はうちにくる予定っしょ?」

「ぜひ!」


 つうわけで乗員追加だ。

 数台の馬車とその人員くれぇ増えたって、どってことねぇ。と、思ってたら——


「「「あ、あの……」」」


 リリウム領の近隣の者が集まっていた。

 見た感じ、食いっぱぐれそうな農家の三男四男や行き遅れた女衆たちのようだ。


「乗組員を募集していると聞いて」

「ほーほー。でもなんでこっちに来たの?」


 たしかにそうだ。ベリルは『トルトゥーガまで』と伝えてあったはず。


「一刻も早く申し出た方がいいかと思って」

「そうよ。トルトゥーガにつくころには、他の連中に職を奪われてしまうわ」


 という理由らしい。

 なかなか目端が利く。俺ぁこういうガツガツしたヤツが嫌いじゃねぇ。しかも押しかける図太さに反して態度は控えめで真剣味も伺える。


「ねーねーワル商にーん」

「なんでしょう、小悪魔会長」

「みんな連れてきてあげてー」

「はい⁇」

「だって船に乗り切れないもーん。引率よろー」

「——え、えぇえええー‼︎ 私も乗せてくれるという話では⁉︎」

「しゃーないじゃーん」

「…………ハァ……。わかりました。次は必ず乗せてくださいね」

「オッケーイ」


 おい待て。リリウム領に集まった者だけでもけっこうな人数いんぞ。この数からトルトゥーガに押しよせる船乗り志望を推し量ったら……。


「おいベリル。まさか全員雇うつもりか?」

「大丈夫だってー。バルコが鍛えてくれるだろーし。ねっ、バルコ」

「え⁇ アッシは魔導パドルシップが完成したんでお役御免とばかり……」


 コイツも早くマルガリテんところに戻りてぇんだろう。顔の引き攣り方が尋常じゃねぇ。


「なに言ってんのさー。これもぜんぶマルガリテちゃんが提督する小悪魔艦隊のためだし。いーのー? しょぼい船員ばっかりとか船乗り足りないとかなってもー。マルガリテちゃんガッカリしちゃわなーい?」


 この性悪め。相手の弱点を狙い打ちか。


「わかりました! このバルコ、見習い船員どもを屈強な海の漢に仕立てあげますぜ」

「女子もいんの忘れちゃってるしー」

「立派なマルガリテ提督の手足に教育しやす」

「ひひっ。エッチなことしちゃダメだかんねー」


 同じ船に生命を預ける仲間なんだ。んなことするわけねぇだろう。このバカちんが。


「……では、私は陸路をトロトロと進みます」

「悪いんだけどさー、途中でトルトゥーガに向かう人いたらいっしょに連れてきてあげてー」

「…………はい」

「ワル商人ってばヘコみすぎー。あっちついたら乗せてあげるしー」

「絶対ですよ。約束ですからねっ」


 恨みがましく捲し立て、ワル商人ことノウロは、トボトボゾロゾロ船乗り志望の者らを連れてリリウム領をあとにした。


「さて、俺らも発つか」

「ほーい。んじゃリリウムどのー、ニケロくんもボビーナちゃんも、まったねー!」


 ブンブン手ぇ振って俺も出航。

 こんどは河の流れに任せて、大河をくだる。



 ——だけかと思ったら⁉︎


「魔導歯車入れ替えて、逆回転‼︎」


 急流がそれを許さねぇ。

 想定よりも船足が早くって舵が取りづらいらしい。いまのうちから抑えとかねぇと、水路に入るときに横転しちまうとかなんとか。


「あっひゃ〜! 景色がすぐ後ろいっちゃうしー」

「ベリル、振り落とされんようなんかにしがみついてろっ」

「ほーい」


 と、俺の脚にガシッ。


「それだと邪魔になんだろうが。ったく」


 背負い袋を取りにいってる暇もねぇんで、おぶってそこらの縄で括りつけとく。


「これじゃー赤ちゃんのやつみたいじゃーん」

「贅沢言わんでくれ。それなりに気ぃ抜けねぇ状況なんだぞ」

「ひひっ。なかなかスリリングな河下りだし」


 いっつもコイツは余裕ぶっこいてんな。こういうところはホント大物だと思う。


 そうやって下流へ下流へと進んでって、


「難所ですぜ。みなさん方、気ぃ引き締めて!」


「「「応ッ‼︎」」」


 まだ先に見えてた水路の入り口がグングン近くなる。

 俺らはバルコの舵で曲がりきれるよう、両外輪を逆にぶん回して船足を緩める。


「——左、振りますぜ! 備えて!」


 水路と交わるところからケツを反対側の岸に振って、頭っから水路へ突っ込む。前にヘマして外輪を擦ったときの経験が生きた操舵だ。


「ふっひょ〜う! すっごいジィイイイー!」


 首絞める勢いでベリルがしがみつく。


 その振れが収まり、今回は…………ふぅ。どこも掠めちゃあいねぇようだ。


「こっからはのんびりで結構でさぁ。みなさん方、ご苦労でした」


 バルコが労いの言葉をかけた。


 毎度これじゃあ堪らんな。このあたりも早々に改めねぇと。


「いっぱい集まるかなー?」


 そう。忘れちゃあならねぇのが船乗り志望たち。このあと続々とやってくるだろう。

 バルコに丸投げしちまいてぇところだがベリルも絡むんだし、さすがにそういうわけにはいかんか。

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