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魔導パドルシップ、出航!⑧


 結局、河を遡ることになっちまった。


 驚かさんよう事前にリリウム領には船で伺う旨を伝えてある。他の河沿いの土地を治める領主たちにも、当然そうした。


 うちの者らに見送られ出航した魔導パドルシップは、造船所から船着場を経て、滑らかに水路をくだっていく。

 河に出るまで悠々と水の流れ任せ。バルコが操舵してる限り岸に擦ったりなんかはせん。


「トルトゥーガの旦那。そろそろ河ですぜ」

「おうオメェら持ち場につけや! チンタラしてっと河下まで流されっちまうぞっ」


「「「応ッ‼︎」」」


 水路を抜けたら、まずは頭の方向を変えなきゃあならん。下流の方へ船が向いちまうからな。


「——右外輪、ブン回せ!」


 バルコの号令を受け、俺らは一斉に動きだす。

 ある者は持ち手を握りグルングルン軸を回したり、またある者はペッコンペッコン台の上で跳ねたり。

 もちろん魔力を込めて魔導歯車もブン回しながら。自分のぜんぶを水車の動力に。


 すると——グルリ向きが変わり、船の頭は上流の方へ。

 そこでバルコは「小悪魔オーナー」と、ベリルに頷いてみせた。


「うむ。全速ぜんしーん!」


「「「応ッ‼︎」」」


「そこは『よーそろー』だし!」


「「「よーそろー‼︎」」」


 こんどは左右に分かれて、均等に、息を合わせて両方の外輪をブン回す。


 そして響く魔導太鼓の音。

 これは掛け声の代わりだ。ずっと大声張り上げたまんまは疲れっちまうからと、息を合わせる目安にするため持ち込んだ。

 ベリルが小刻みに鳴らす太鼓の拍子に合わせ、回して跳ねて、全員で進むチカラを生んでいく。


 すると船は大河の急流に逆らいはじめた。

 風の向きにも水の流れにも頼らず、己のチカラで進みはじめたんだ。


「うっほほ〜い! 速いはやーい!」


 小節を重ねるたび、じわじわと調子は細かく詰まっていく。ひいては船足も速くなる。


 もうパスカミーノ領も過ぎるかって時分に、


「「「おーい! おお〜い!」」」


 岸から他所の領民が手ぇ振ってきた。

 俺らはかかりっきりで応えられん。


「いっいぇーい! 小悪魔艦隊は現在、乗組員、大募集中でーす!」


 だからってベリル。返事すんのは構わんが適当なこと言うなや。


「面接してほしい人はトルトゥーガまで〜!」

「——オイこらテメェ! 適当こいてんじゃねぇぞ!」

「はあー? もっとたくさん船乗りさんいるじゃーん」


 言ってることはわかる。たしかに魔導パドルシップは他の船たぁ扱い方ぜんぜん違いそうだからな。

 しかしよぉ……。


「まーまー、細かいことはあとあと。ほらガンバんないとっ。父ちゃんの方に船の向き変わってきてるし」


 おおっとそりゃあマズい。

 ある程度はバルコの操舵で整えられる。とはいえ、こんだけの見物客の前でヘマこくわけにはいかねぇからな。


 このあとも船は全速力をつづけ、岸から声をかけられるたびにベリルは船乗りを募っていった。



 途中たびたび、持ち手を回す役と台の上で跳ねる役を入れ替えながら、なんとかバテんように河を遡ってく。

 もちろん、メシなんかの休憩を交代でとったりってぇ工夫もした。


 そうしてなんとか、日が沈む間際に——


「あっ、ボビーナちゃん! 反対側にはワル辺境伯⁉︎ めっちゃこっち見てるし!」


 魔導パドルシップは大河を渡す橋の手前まで。

 あのヤロウ、見物のつもりか? まぁいまはそれどころじゃあねぇや。


「よーしテメェら、手ぇ空いてる者は岸に飛び移って船を繋げ! そのあいだ他の者は流されんよう維持だ! じきに休めんぞ。もうひと踏ん張り、キバれや‼︎」


「「「あいあいさー‼︎‼︎」」」


 リリウム領側に用意された太っとい杭に縄をかけ、錨を河に落として、ようやく俺らは地に足をつけられた。


 ふぅ……やっとひと息つける。


 そのころにはウァルゴードン殿の姿はなかった。あっち側の領民たちが物珍しそうな目を向けたり、手ぇ振ったりしてるだけ。

 素っ気ねぇ野郎だぜ。ったく。


「ベリルさん。素晴らしい船ですね!」

「ひひっ。でっしょー。ボビーナちゃんが手伝ってくれたおかげだし。あとで乗ってみてよー」

「ええ、ぜひぜひ!」


 本来なら、領主のリリウム殿か跡取りのニケロが第一声をかけるところなんだがな……。動力の改良にも携わったボビーナは興奮しきってて、んなこと構ってられんらしい。

 後ろには苦笑いが二つもならんでらぁ。

 きっと、いまの俺も似たようなツラしてるんだろう。


「……本当に、今朝トルトゥーガを発ったのですよね?」

「ああニケロ、そのとおりだ」


 馬車でトルトゥーガ領・リリウム領のあいだを行き来した場合、高低差もあり曲がりくねった道を通るから早くても十日前後は見込まなきゃあならん。

 それがたったの一日でついちまったんだ。驚くのもムリはねぇ。


「さすがに一日はキツいから、今後はどっかの領地で停泊させてもらって二日かけんのが現実的かもな」

「それにしても二日は速い」

「こらこら、ニケロもボビーナもあとにしなさい。トルトゥーガ殿たちがお疲れであろう」


 リリウム殿が察してくれて助かったぜ。

 まだ揺れてる感覚が抜けてねぇからな。どっかに腰を落ち着けたかったんだ。


「おおーう。宴とかそーゆー感じ?」

「——オイこらベリル!」


 当然そういう流れなんだろうけどよ、招かれる側からねだるみてぇなこと言わんでくれ。みっともねぇ。


「ハッハッハ。ベリル嬢は相変わらずだな。王宮での茶会の話、聞いているぞ。王都の持て成しほどではないが細やかながら席を設けている。ぜひ、ゆっくりしていってくれ」

「いえーい。あーしクッタクタだったし、お言葉に甘えちゃいまーす。ねっ、父ちゃん」


 ったく。


 このあとの会食では、魔導パドルシップで行き来できるようになった際の利点などについて話し合った。ベリルが茶会議で盛大にやらかした話なんかも。

 でも一番リリウム殿たちの興味を引いたのは、王都で活躍しているリーティオの話。

 アイツ、手紙一つよこしとらんらしい。

 どこのガキも親の心配なんざぁどこ吹く風で、気ままにやってんだな。

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