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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第五章

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魔導パドルシップ、出航!⑦


 予想どおり船に乗りたがる者が続出した。若い衆だけでなく、チビどもや女衆も。

 だが、すぐにはムリなんだよなぁ……。


「では各所の点検にはいりやす。次に船を出すのは、それが終わってからで」

「つうわけだ。すまんな」


 乗ってる者全員の生命を預けるんだから、そこに手抜かりがあっちゃあならん。いつどんな想定外が起こるかもしれねぇんだ、万全に万全を期すのは当然のこと。


 しばらくは、慣れた者だけで試しては改める毎日がつづく……。



 翌日、造船所——


 浸水するような事態はほぼなかった。

 しかしバンブーは強い素材だが、やはり岸に擦っていくと多少はキズがつく。それがやがては大きな損害に繋がりかねん。

 他にも長く水につけているといらんモノがついて船足を遅くしちまうらしい。

 そこで船大工からは、


「銅板を貼るという手もあるんですが……」

「いかんせん費用が嵩みます」

「板金職人も招かないとなりません」


 という意見が。

 これを聞いたベリルは、


「もっと固くて軽くって簡単なのあるし」


 亀素材を薄い板にして貼ってはどうかと。


 もちろん素材の製法について詳しくは秘匿したが、性能については船大工に隠さず伝えた。


「噂の魔導ギアの素材ですか」

「船の浮力を損なわず、固い。衝突の瞬間だけ魔力を込めたらいいのは便利だ。おまけに汚れも落としやすい。しかも破損した際には部分部分で交換できるというのが、なお素晴らしい」

「しかし銅板より高くつきそうですが、いいので?」

「まっ、うちでこさえてるモンだからな」


 調達に関してはボカしとく。

 カールもピーノもテーロも船大工として素材自体に興味はあっても、具体的な製法はどうでもいいようで、早く亀素材を貼りつけた船を作りたくってウズウズしてるようだ。


 そっからは、朝から晩までトントンカンカンと亀の甲羅を薄く伸ばした半透明な板を鋲打ちする日々……。

 もちろん俺らも手が空いてる者が代わるがわる手伝う。



 ここまでの改修は序の口。

 範囲としては広いんだが、河までの試航海を繰り返した結果、急流に負けねぇよう動力自体を大幅に改善することになったんだ。


 魔導パドルシップの目玉はなんといっても、左右の水車なのは言うまでもねぇ。

 しかし問題もあって、魔導歯車を回す魔力がしんどい。これについちゃあ端っからわかってたこと。

 そこで帆を立てるのは最初に思いつくこととして、人力でも回せないもんかと工夫がされた。


 閃きを出してカタチにしてくれたのは、ちょくちょく技術者交流会に集まる職人や学者たちだ。

 もちろん亀素材の加工に慣れたホーローたち若い衆も加わって。


 改良の手を加えられたところはいくつもある。が、俺が上手く説明できるかってぇと……自信ねぇや。

 一番思いつきをブチ撒けてたベリルだって、細けぇところはチンプンカンプンだろう。


 わかる範囲だと大きく二つ。


 一つは回転の動力を伝えやすくしたって点。

 さっそく頭から煙が出そうだぜ。


 もう一つは人力でも回せるようになった点。

 これは二種類あって、腕でグルグル回す持ち手をつけたところは扱い易くて具合がいい。

 ついでに魔力を流すって感覚もあってか、円滑にムダなく回転させられたんだ。

 実際にやってみたら、普通に魔導歯車を回そうとするときよりも楽だった。


 そして一方の意味不明な仕掛けは……、


「この台の上で交互に跳ねたらいいんかい?」

「はい。半欠けの歯車を仕込んでますから、体重が回転にするチカラになるのです」


 職人たちがなに言ってんのかサッパリだぜ。


「おおーう。動力がハイブリッドになってんじゃーん」

「なんだい、そりゃあ?」

「よく知んなーい」


 ……だと思った。


「つーか、これぜんぶ使ったらめっちゃ速くなりそーじゃーん」

「飛んで踏んで、腕で回して、あとは魔力をながす、か……。慣れねぇと頭がこんがらがっちまいそうだな」

「そーゆーのはバルコに任せとけばヘーキっしょ」


 簡単に言ってくれるベリルだが、コイツは多くの閃きを出した。

 しかしボツ案も一番多い。例えば……、


「ホントはスクリューつけて、ジェットスキーみたいにしたかったんだけどなー。いきなしはムリかー」


 こういうの。


「取り込んだ水を吐き出して進む、だったな」


 どう考えても浸水して沈むだろ。いまでも防水には気ぃ使ってんのに。

 長い航海を想定してる船に穴空けとくなんて、自分の首絞める以外のなにものでもねぇよ。


「あと、もっとよく回る魔導歯車の代わりとかもほしーしー」

「モーターとかエンジンっつったか? オメェだって仕組みそのものは詳しく説明できねぇんだろ。ならすぐにはムリだ。今回は諦めとけ」

「…………ほえー」

「んだよ」


 そんな驚いた顔して。


「父ちゃんはムリって言わないんだなーと思ってさー」


 たしかに職人連中や学者たちは、眉顰めるか首傾げるかだったな。


「できると思ったことはたいていできるもんだ。オメェにはそれだけの時間がある」


 なにせベリルは三歳からいっこうに歳をとっとらん。生きた時の年齢はあったとしても、肉体的にはずっと老いも成長もしてねぇんだ。

 いったいどんだけ長生きするのやら……。


「はあー? あーしはいますぐほしーんだけどー」


 なんつう贅沢な悩み。

 だが、できるんならコイツの思いつきは俺もぜんぶこの目にしてみてぇもんだぜ。


「だったらテメェも思いつき言うだけじゃあなく、カタチにする努力をしたらどうだ?」

「いや〜、そーゆーのやりたくねーし。あーし理数系苦手だもーん」

「そうかい」


 たしかにベリルがなにかに打ち込む姿は想像できん。むしろ環境を整えてやってるいまの方が、いろいろと上手く回るのかもな。

 そもそもコイツは飽きっぽいし、学者や職人なんて一番向いてねぇや。


「ねーねー父ちゃーん。もー何回か試したら、次はボビーナちゃんとこまで行ってみよーよー」

「そのあたりはバルコたちと相談してからだろ」

「わかったー。あーし話つけてくるし。おーいバルコ〜、聞いてきーてー!」


 ベリルはてってく駆けていった。

 気の早ぇヤツだぜ。ったく。

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