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魔導パドルシップ、出航!⑥


 模型で試してから作ったおかげで、運び込まれる部品はかなり質のいいモンに仕上がってた。

 そいつを俺らは船大工たちの指示に従い組んでいく。当然、細けぇところは本職の連中にお任せだ。


 そうやって目紛るしく働いた日々の果てに——


「こんな早さで船が作れるなんて、夢でも見てる気分だ」

「たしかに。すぐにぜんぶはムリでもできそうなこともあったし、勉強になったよな」

「まったくだ。タリターナ様には感謝しかねぇよ。いい仕事を紹介してくれたぜ」


 ってなふうに、実際に作業してる者らが驚くほどの工期で魔導パドルシップは完成に至った。


「ホントは大砲とかつけたかったんだけどー」

「んな物騒そうなモンはいらん。そのぶんコメが運べなくなっちまうぞ」

「だったらいらなーい。つーか武装に関してはあとで考えるとしてー」


 ベリルはクッタクタになった連中に、ニタリと悪魔的な笑みを向ける。


「さっそく浮かべてみちゃう?」

「待て待て、せめて明日にしろ。オメェは口しか動かしてねぇからいいかもしれんが、俺らは草臥れてんだ」

「そっかー。じゃーしゃーない。ならせっかくだしさ、」


 と、ベリルが提案したのは進水式なる催し。


「なにするんだ?」

「知んなーい。みんなで手ぇ振ったり、紙テープを切ったり……あっそーそー、お酒のボトルぶつけたりするし。割れないと縁起悪いとか、そんな感じのやつだったはずー」


 なんて勿体ねぇ催しなんだ。


 酒は俺らで飲んじまうとして、残りは採用でいいか。

 明日はトルトゥーガの者らに船のお披露目だ。



 水路と造船所を遮ってた板が外されると、徐々に水が流れ込み船底から浸かっていく。


 そして水位が増すと——


「浮いたういた〜ちゃんと浮いたし!」

「注水やめ‼︎ 浸水の確認だ!」


「「おう!」」


 船大工たちは船内へ駆け足。

 この時点で問題がありゃあ直しちまう段取りだ。


 待つことしばし……。


「問題ありません。ひきつづき注水を!」


 それからも慎重に水を引き込み、ようやく河と同じ高さまで。


「ホントのホントにかんせーい!」


 ワッとあがった野太い声が造船所に響く。

 外にも様子が伝わったようで、お披露目待ちしてる連中も興奮が高まってくのが壁越しでもわかった。


「父ちゃん、出航の号令っ。早くはやくっ」


 グイグイ服の裾を引っぱり急かしてくる。だがな、ベリル。


「オーナーはオメェだろ。だったら出発の声をあげんのは俺じゃあねぇ」

「そっかそっかー。よーし、総員傾注(そーいんけーちゅーう)!」


 それぞれの持ち場から昂りを隠しきれん顔をベリルに向けた。

 バルコや船大工の三人だけでなく、うちの連中もみんなだ。たぶん俺も。


「ええ〜……、ぅおっほん。ただいまより魔導パドルシップは処女航海に出ーる。おのおのの培った技量をもって小悪魔艦隊に貢献せよ!」


 気分出しやがってからに。このお調子者め。


「出航のあとは水路に沿って河までいってー」


 うむうむ。


「そっから河を下って海いくし」


 ハ?


「目的地はお米の国、東方であぁ〜る」

「——おいバカたれ! 河まで行って頭の方向入れ替えて戻るんだよ。勝手に段取り変えんなや」

「あーしオーナーだし。司令官だし。偉いし」

「しーしーうっせ。オメェら、バルコに習ったとおりに上手くやれ。わからんこと困ったことは即時発報だ。いいか!」


「「「応ッ‼︎」」」


「あんまり外の連中を待たせんのも悪ぃしな。いい加減、出航だ」


 ゆっくりと左右の水車が動きだす。

 声をかけ合い、息を合わせて同じ回転数に揃えて。それに伴いじわじわ船は進んでいく。

 こっからは魔導歯車は使わず、水路の流れ任せに。


 造船所から船の先が覗くと、ワーワーパチパチギャーギャー歓声があがった。そいつは俺らが確認できるところまでいくと最高潮に。


「いっいぇーい! どもどもー」


「「「こあくまセンセー!」」」


 ゴーブレは連ねた荷車にチビらを乗せてやり、水路沿いを引っぱって並走するつもりらしい。

 ったく、張り切りやがって。腰いわしても知らんぞ。


 追っかけてきては手を振り、追いつけなくなると、両手を大きく。


 それほどまでに船は速い。ノロマな乗り物だと思ってたが、そいつぁ錯覚だったようだ。海の上って広すぎるところにいたせいで、感覚がズレてたってことか。

 水の流れに乗るってのは大した速さだ。

 逆を言やぁ、船着場まで戻るにはこの流れに逆らわなきゃあならねぇ。


「おおーう。河が見えてきたし」

「オメェら! もう一度確認すんぞ。もし流されっちまうようなことになったら、とにかく岸につけろ。それでもダメなら船を捨てて各々逃げる。その判断をくだすのはバルコだ」


 舵を切ってるバルコに視線が集まる。


「みなさん方、固いかたい。気楽にいきましょうや。最悪両輪が外れたって、アッシが舵取りすりゃあ問題ありやせんぜ」


 トルトゥーガ領とウァルゴードン領を遮る急流を知らんわけではないだろう。何度も確かめてたしな。

 しかしバルコは平然としている。

 その態度は船に慣れん素人の俺らを和らげた。


 そして水路を抜け、魔導パドルシップは河へ。


「右旋回! 左、ブン回せ‼︎」


 バルコの号令で左舷の水車がブンブン回ると、船はその場で回る。ズンズン河に流されてはいくが、頭の向きが変わった。


「前進! 左右、ブン回せ‼︎」


 俺らは右へ左へ、バタバタ動く。

 背負い袋のなかからは、


「ふおおっ、めっちゃ揺れるし〜」


 ベリルの苦情が。だが、んなもん後回し。


「おらおらテメェら、しこたま魔力を注げや!」

「トルトゥーガの旦那っ。息を合わせて! 船が左にふれてやす!」

「おうよ! ベリル掛け声っ‼︎」

「はいはーい! おいっちにーさんしー、にーにーさんしー、おいっちにーさんしー、にーにーさんしー。ほらみんなも!」


 声を揃えると自然と息も合う。それは水車の回転にも表れて、


「そのままそのまま。舵はアッシに任せてくだせえ! 水路に頭突っ込みますぜい!」


 風も河の流れにも頼らず、船は元来た場所へと戻っていく。

 なんとか魔導パドルシップは予定どおり水路を遡って、船着場まで。


 そして再び、割れんばかりの大歓声で迎えられた。

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