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うちの娘は生まれてすぐ「マジありえなーい」などと喋りはじめ、未知の魔法や高度な算術も使いこなす天才児。でも問題児。  作者: 枝垂みかん
第五章

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魔導パドルシップ、出航!⑤


 俺らが組んだ芯は、みるみる混凝土に覆われてった。柱に、床に、壁に、天井に、次々と出来上がっていく。

 このヒスイの見事な魔法に見惚れんのは最初だけ。


「ジャンジャンおかわり用意してやれ! ちんたらしてっと小生意気な娘に責っつかれんぞ!」


 桶にバカスカ石灰を放り、砕いた混凝土の残骸と焼いた土砂、水をブッ込んだらガンガン捏ねていく。

 近ごろは他所者の出入りも多いから、ベリルのインチキ魔法で済ませるわけにもいかず、俺らが掻きまわさわなきゃあならん。


 ヒスイもさんざん混凝土の魔法を使いまくったせいか慣れもあって、一度で使う量が増え、発動速度も上がってる。

 だってのにこっちの効率は変わらんから、もうヒーヒー必死こくしかねぇんだ。


 ここに至って、見学だけだった船大工たちも手伝いを申し出てきた。その役割は、


「乾く前にハメちゃってー。ひひっ、いまのなんかエロいし」


「「「……あ、はい」」」


 窓や扉なんかをハメ込む作業。ベリルの戯言に顔を引き攣らせちゃあいるが、仕事自体は見事なもんだ。

 細工や仕上げもやってくれたから、出来栄えがモノスゲェ立派。さすが本職は違うぜ。


 こんなふうにヒスイの魔法と俺らの腕力、船大工の技術もあって、満足いく建物が出来上がった。

 ベリルも口出すだけじゃあなく、塩飴を配ったり、見物してるチビたちを邪魔にならんよう安全なところへ誘導したり、アイツなりに役目を果たした。


 そして混凝土が乾き——


「かんせーい!」


 三階建ての集合住宅と造船所が完成した。



 禿山を半周弱、グルリと伝う幅三〇メートルの水路があり、果ては船着場。

 そことここ——造船所の広く深い窪みは、薄い板で隔てられている。


「ここで船作りするんだよな」

「そーそー。水いっぱいにしたら、そのまんま河まで行けちゃうし」

「次に船作るときはどうすんだ?」

「バケツリレー」


 …………人力かよ。まぁいい。デカい船を運ぶことを考えたら安い労力だ。

 つうかオメェが『ポチィ』とすりゃあいいんじゃねぇか。


 俺らが建物の出来に喜んでんのとは別に、船乗りのバルコは、


「トルトゥーガの旦那。本当にこの木材を使っちまってもいいんですかい?」


 と生唾を呑む。それは船大工の三人も同じ。

 コイツらがどこに驚いてんのかサッパリだが、バンブーを回復魔法でくっ付けただけの太っとく長いだけの木材だ。いくらでもこさえられる。


「好きに使ってくれ」

「待ってまってー。削ってもいーけど曲げられるし。あれっしょ、最初に竜骨ってやつ作るんでしょ?」

「小悪魔オーナーは船にも詳しいんですね」

「まーねー」


 ウソこけ。どうせ聞き齧っただけで、それしか知らんのだろう。


「ベリル様、どのように曲げるんで?」

「それな」

「気になる。ぜひ後学のためにも」


 船大工たちが食い気味に訊ねるが、


「ひ〜みつ♪」


 ベリルは答えなかった。

 どうやらコイツも少しは学習したらしい。

 たぶん原理を説明してやれば、船大工たちの木工技術でもできるやり方に違ぇねぇ。しかし、それをインチキ魔法でこなしちまおうってんなら話は別だ。なにか特別なことをしたと気取られるわけにはいかん。


「こんくらいって決めてくれたら、明日までに曲げとくし」


 船大工たちはタイタニオ殿からなんぞ言含められてんのか、素直に引き下がった。

 それでも後ろ髪引かれてる様子なのは、やっぱりコイツらも興味には抗えねぇ職人ってことなのかもな。


 目安となる棒を立てたら、船大工らとバルコは造船所をあとに。チラチラ振り返ろうとするも理性で抑えて、四人は出ていった。


 それからベリルは、


「水ブッ掛けてチンのあと、グイグイだし」


 簡潔に手順を説明した。略しすぎだが、言わんとしてることはわかる。


「蒸して柔くするってこったな」

「そーそー。めちゃ蒸し暑いからマジ気ぃつけてねー」


 時間との勝負になりそうだ。

 換気して室内が耐えられる暑さになったら、即座に取りかからねぇと、せっかく蒸したバンブーが冷えちまう。


「ベリル、少し待ってろ」


 そっから俺らは持ち場と段取りを決め、予行演習までしてから、造船所の外へ。もちろん木材以外の道具類もぜんぶ運び出して。

 ややあって、太っとい木材をビッシャビシャにしたベリルも出てきた。


「まっ。一回でできなくてもいーじゃん」

「それもそうだな。オメェら、火傷なんてみっともねぇヘマこくなよ!」


「「「応ッ‼︎」」」


 俺らは息を合わせて突入の時分を見極める。

 そんな緊張感なんぞどこ吹く風で、


「解凍モードで〝ポチィ〟」


 ベリルは閉め切った造船所の壁を突っついた。

 しばらくはなにも起こってないように見えたが、次第に窓や扉から蒸気が抜けはじめ……。


 チーン。


 なにやら間抜けな音が響く。


「開けられるところはぜんぶ開けろ。それから二〇数えて、突入だ!」


 頷くこともなく全員が持ち場につき——タン!  ブッ壊れない程度に控えめに扉や窓を蹴る。と同時に、転がって流れだす熱気を避けた。


「……十七、十八、十九、いま!」


 息を止め、一斉に造船所へ雪崩れ込む。

 視界は悪ぃが何歩で持ち場かは確認済み。

 あとは手早く作業を済ませるだけ。

 縄を引っ掛けて引っ張ったり、乗っかって踏んづけたり、あっちこちでグイグイと極太バンブーを曲げていく。


 さすがに一度では済まず二度三度と繰り返して、ようやく船大工が置いてった目安とおんなじくれぇに。


「みんな、おっつ〜」

「ふぅ……。けっこうしんどいもんだな」

「でもさー、普通なら何日もかけて削るわけじゃーん。それよりぜんぜん早いし、たぶん丈夫だろーし、ならよくなーい」

「そういうもんか。だったらバルコたちが腰抜かすさまを楽しみに、今日んところは引き上げるかい」

「ゼッタイどっひゃーってなるし。ひひっ、あとどーやったのか聞きたくてウズウズしちゃうし。でも内緒だも〜ん」


 っとに。性格悪ぃな、うちの娘は。


 参加した者らにケガがねぇかを確認して、そののち解散。

 明日っから本格的に船作りがはじまる。

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